小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫~烏、帰る~

 うつらうつら。
 厚手の着物を羽織り、一枚の皿を傍らに。
 皿の上には串が二本。
 姫様彩花は座ったまま寝息をたてていて。
 そろり、
 そろりそろり、と誰かが古寺の門より入ってくる。
 古寺の灯りを避けるように、闇に溶けて。 
 姫様の寝息が、止まった。
 ぴくりと、近づいてくる何かが反応する。
 しばらく、どちらも動かない。
 また、姫様が寝息をたて始めた。
 安心したように誰かは笑うと、
 そろり、
 そろりと、また動き出した。
 
 姫様は寝息を立て続け、誰かはそろりと動き続け。
 ついに姫様の前に立った。
 
 さて、どうしようか?
 もう、遅いし、寝てるし。
 姫様をおどかそうと思って気配を消しつつ近づいたけれど、起こすのかわいそうだし・・・

「お帰りなさい」
「あれ?」
 姫様、薄目を開ける。
 いたずらっ子のような、笑みを浮かべた。
「なんだ、姫さん気付いてたのか」
「うん。お帰り、クロさん」
 また、にっと笑った。
 山伏姿の若い男。
 烏天狗の黒之助。
 これで、残る妖は二人になった。
「ずっと、起きてたんですか?」
 ここで、一人で。
「う~・・・・・・ちょっと、寝ちゃいました」
 恥ずかしそうに答えた。
「一つ聞きたいのですが・・・いつ拙者に気付きました?」
「え~と、クロさんが門をくぐったときかな」
 気配は、完璧に殺していた。
 門をくぐる前から殺していた。
 ふむ、と顎を撫でる。
「未熟・・・なのか?」
 拙者が、か?
「はい、何が?あ・・・来た」
「は?誰が?」
「葉子さん、来た」
「・・・・・・」
 黒之助は、何も感じない。
「分かりません」
 ぶるぶると頭を横に振る。
「今、山を登ってます」
 向こうの、と付け加える。
「・・・・・・」
 目を凝らせば、青白い光が山の頂上で揺らめいているのが見えた。
 木々の間を出たり入ったり。
「確かに」
「クロさん、迎えにいこう?」
「ふむ・・・・・・門までですよ」
「は~い」

 あまり、嬉しいことではない。
 妹と顔を合わすのは。
 それでも、出ないわけにはいかない。
 私が出なければ、彼女が、何か言われる。
 
 海岸に、金と銀の一族が集まっている。
 大妖、玉藻御前を筆頭に、右に金毛の狐達、左に銀毛の狐達。
 葉子は、銀の一族の最後尾にいた。
 前列の女性が、ちらっと葉子を見る。
 葉子の妹の葉美は、従兄で夫の木助と二人で玉藻御前のすぐ後ろに。
 すぐに、葉美は顔をそむけた。