あやかし姫~烏、帰る~
うつらうつら。
厚手の着物を羽織り、一枚の皿を傍らに。
皿の上には串が二本。
姫様彩花は座ったまま寝息をたてていて。
そろり、
そろりそろり、と誰かが古寺の門より入ってくる。
古寺の灯りを避けるように、闇に溶けて。
姫様の寝息が、止まった。
ぴくりと、近づいてくる何かが反応する。
しばらく、どちらも動かない。
また、姫様が寝息をたて始めた。
安心したように誰かは笑うと、
そろり、
そろりと、また動き出した。
姫様は寝息を立て続け、誰かはそろりと動き続け。
ついに姫様の前に立った。
さて、どうしようか?
もう、遅いし、寝てるし。
姫様をおどかそうと思って気配を消しつつ近づいたけれど、起こすのかわいそうだし・・・
「お帰りなさい」
「あれ?」
姫様、薄目を開ける。
いたずらっ子のような、笑みを浮かべた。
「なんだ、姫さん気付いてたのか」
「うん。お帰り、クロさん」
また、にっと笑った。
山伏姿の若い男。
烏天狗の黒之助。
これで、残る妖は二人になった。
「ずっと、起きてたんですか?」
ここで、一人で。
「う~・・・・・・ちょっと、寝ちゃいました」
恥ずかしそうに答えた。
「一つ聞きたいのですが・・・いつ拙者に気付きました?」
「え~と、クロさんが門をくぐったときかな」
気配は、完璧に殺していた。
門をくぐる前から殺していた。
ふむ、と顎を撫でる。
「未熟・・・なのか?」
拙者が、か?
「はい、何が?あ・・・来た」
「は?誰が?」
「葉子さん、来た」
「・・・・・・」
黒之助は、何も感じない。
「分かりません」
ぶるぶると頭を横に振る。
「今、山を登ってます」
向こうの、と付け加える。
「・・・・・・」
目を凝らせば、青白い光が山の頂上で揺らめいているのが見えた。
木々の間を出たり入ったり。
「確かに」
「クロさん、迎えにいこう?」
「ふむ・・・・・・門までですよ」
「は~い」
あまり、嬉しいことではない。
妹と顔を合わすのは。
それでも、出ないわけにはいかない。
私が出なければ、彼女が、何か言われる。
海岸に、金と銀の一族が集まっている。
大妖、玉藻御前を筆頭に、右に金毛の狐達、左に銀毛の狐達。
葉子は、銀の一族の最後尾にいた。
前列の女性が、ちらっと葉子を見る。
葉子の妹の葉美は、従兄で夫の木助と二人で玉藻御前のすぐ後ろに。
すぐに、葉美は顔をそむけた。
厚手の着物を羽織り、一枚の皿を傍らに。
皿の上には串が二本。
姫様彩花は座ったまま寝息をたてていて。
そろり、
そろりそろり、と誰かが古寺の門より入ってくる。
古寺の灯りを避けるように、闇に溶けて。
姫様の寝息が、止まった。
ぴくりと、近づいてくる何かが反応する。
しばらく、どちらも動かない。
また、姫様が寝息をたて始めた。
安心したように誰かは笑うと、
そろり、
そろりと、また動き出した。
姫様は寝息を立て続け、誰かはそろりと動き続け。
ついに姫様の前に立った。
さて、どうしようか?
もう、遅いし、寝てるし。
姫様をおどかそうと思って気配を消しつつ近づいたけれど、起こすのかわいそうだし・・・
「お帰りなさい」
「あれ?」
姫様、薄目を開ける。
いたずらっ子のような、笑みを浮かべた。
「なんだ、姫さん気付いてたのか」
「うん。お帰り、クロさん」
また、にっと笑った。
山伏姿の若い男。
烏天狗の黒之助。
これで、残る妖は二人になった。
「ずっと、起きてたんですか?」
ここで、一人で。
「う~・・・・・・ちょっと、寝ちゃいました」
恥ずかしそうに答えた。
「一つ聞きたいのですが・・・いつ拙者に気付きました?」
「え~と、クロさんが門をくぐったときかな」
気配は、完璧に殺していた。
門をくぐる前から殺していた。
ふむ、と顎を撫でる。
「未熟・・・なのか?」
拙者が、か?
「はい、何が?あ・・・来た」
「は?誰が?」
「葉子さん、来た」
「・・・・・・」
黒之助は、何も感じない。
「分かりません」
ぶるぶると頭を横に振る。
「今、山を登ってます」
向こうの、と付け加える。
「・・・・・・」
目を凝らせば、青白い光が山の頂上で揺らめいているのが見えた。
木々の間を出たり入ったり。
「確かに」
「クロさん、迎えにいこう?」
「ふむ・・・・・・門までですよ」
「は~い」
あまり、嬉しいことではない。
妹と顔を合わすのは。
それでも、出ないわけにはいかない。
私が出なければ、彼女が、何か言われる。
海岸に、金と銀の一族が集まっている。
大妖、玉藻御前を筆頭に、右に金毛の狐達、左に銀毛の狐達。
葉子は、銀の一族の最後尾にいた。
前列の女性が、ちらっと葉子を見る。
葉子の妹の葉美は、従兄で夫の木助と二人で玉藻御前のすぐ後ろに。
すぐに、葉美は顔をそむけた。