小説置き場2

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張繍伝2

張繍:元董卓四天王張済の甥!叔母上命の純朴な青年!!!
雛:張済の妻。薄幸の美女!彼女に幸せは・・・
賈詡:現張済軍軍師
胡車児:元呂布軍。張済軍の豪傑
曹操:覇者の気質を持つ男。説明無用のあの人です!
典韋曹操の忠実な護衛!
曹昂曹操の長子!
曹安民:曹操の一族!



曹操「ええっと、あのですね、お茶にする、お酒にする?」
 雛は静かに首を横に振った。
 どちらもいらないらしい。
 なるほど、死んだ張済が自慢していただけのことはある。
 とりあえず、しばらく眺めていよう。
 もしかしたら、今回の一番の収穫ってこの人じゃない?
 なんてことを曹操は考えていた。

賈詡「・・・・・・」
典韋「・・・・・・」
 不味いことになった。いきなり曹操の部屋に雛殿が連れて行かれてしまった・・・・・・
 最悪だ・・・・・・
 一応、部屋の前に待機させてもらっているが。
 しかしなんだこの大男は・・・隙が、ない。
 そうか、もしやこれが悪来の再来と詠われる典韋か。
賈詡「典韋殿か?」
典韋「うむ」
曹昂典韋殿!」
曹安民「おつとめご苦労様です!」
典韋「うむ」
 この若者二人は・・・確か曹昂と曹安民。そうか、曹操の長子は今回が初陣だったな。
曹昂「この方は・・・?」
賈詡「賈詡と申します」
曹昂「こんな夜中に父上の部屋の前で一体?」
典韋「女、殿のところ来た。こいつ、女の従者」
曹安民「ああ、なるほど」
曹昂「うむ?何だか外が騒がしいような?」
曹安民「そうだな。喧嘩でもしているのか?ちょっと注意してくる」
曹昂「ボクも行こう」
賈詡「・・・・・・」
典韋「・・・・・・」
 この音、喧嘩などではない。もっと大きなもの。
 そうか・・・・・・最悪のシナリオだな。
 いいだろう・・・・・・あのとき貂蝉殿に刈られたはずだったこの命。
 我が主に、玉を届けるために捨ててくれよう。
 軍師としてではなく、元の生業、暗殺者として・・・
 賈詡が韋典に背を向け、壁のほうを向いた。
 その懐より仮面を取り出す。
 仮面は、右半分が砕けていた。
 それをつける。殺気が、賈詡の身体より発せられた。
 韋典もその殺気に呼応する。
 常人であればその殺気だけで気を失うであろう濃密なものであった。
 典韋が双戟を振り下ろすのと、賈詡の姿が消えるのは同時。
 両者は、同時に動いた。

張繍「なあ胡車児。叔母上がいない」
胡車児「・・・・・・まさか・・・」
張繍「行き先は一つだ。叔母上の部屋に手紙が置いてあった。胡車児、全軍の兵士に武器を一つ・・・・・・得物を一つだけもたせて、闇夜に紛れて本陣を・・・曹操軍本陣を奇襲する。鎧もいらぬ。速さが勝負の奇襲だ」
胡車児「そ、そんなことをすれば雛殿まで!」
張繍「すでに兵は動かしつつある。幸い奴ら油断しきっている。それに、叔母上には賈詡がついているはずだ。あの男なら、叔母上を守りきれる、そう思う。なんとか、救出出来ると思う。いや、出来る!」
胡車児「し、しかし!」
張繍「・・・・・・もう、耐えられぬ!」
胡車児「・・・・・・」
張繍「叔母上が曹操の人質になれば、あの曹操だ!妾にしようなどと言い出すに決まっている!俺は、張済を殺して叔母上を自由にした!俺は叔母上を守ると誓った!叔母上は・・・いや雛さまは・・・」
 絶対に、私が守る。
胡車児「・・・・・・」
 この方らしい。それも昔の・・・都にいたころの張繍殿。
 いいだろう。幸いなことに賈詡が雛殿ついている。
 今、俺に出来ることは・・・
胡車児「お供しよう」
張繍「すまん」

曹操「どうした、騒がしいぞ!」
 うるさいなあ。せっかく雛殿を見ていたのに・・・あ、もしかして丁夫人来ちゃったとか?
曹操「あわわ、あわわ」
雛「・・・・・・」

曹安民「なんだこれは・・・」
曹昂「一体どこの部隊が!?」
 本陣。張繍が元居城・宛城は囲まれていた。
 敵は旗を掲げていない。鎧も着ていない。ただ武器一つと馬だけで攻撃を仕掛けてきた。
 状況は悪い。
 本陣の兵力は三千。
 敵は一万を超えている。応援を呼ぼうにも呼べない。完全に包囲されているのだ。
曹安民「みんな、落ち着け!曹昂、殿に知らせろ!俺が指揮をとる!」
曹昂「分かった!」
 若武者が二人、張繍の血走った目に映る。
 一人が大声で指示を出し、一人が城の中に入っていく。
張繍「あの二人・・・」
 あれは、確か曹操の嫡男。向かう先は恐らく曹操のもと。
 馬を走らせる。
 残った若武者が張繍を遮ろうとし、剣を抜いた。
曹安民「おのれ!張繍!裏切ったのか!」
 曹安民。
 曹操の一族であり、彼も曹昂と同じく今回が初陣であった。
 それゆえに、その経験のなさゆえに、見誤った。
 自分の武勇を過信し、張繍の武勇を甘く見た。
張繍「邪魔を・・・するな!」
 張繍が槍を構える。
 馬の速さをあげる。
 槍を、突き出す。
 彼もまた、武人なのだ。
 己の腕をずっと磨き続けていたのだ。
 あの人を守るためにずっと磨き続けていたのだ。
 敵兵が、しんとなった。
 味方が、しんとなった。
 張繍の槍は、曹安民の胸を貫いていた。
 曹安民の剣がその右手より離れ、カランと音を立てた。
 張繍が槍を曹安民の身体から抜こうと思い、穂先を振るう。
 抜けなかった。
 曹安民は目を見開き、左手はしっかりと、死してなお張繍の槍を握りしめていた。
張繍胡車児!」
胡車児「は!」
 胡車児が槍を放り投げた。張繍は新しい槍を受け取ると、曹安民を貫いた槍をその場に捨てた。
張繍胡車児、頼んだ!」
胡車児「御意!」
 胡車児が包囲を続けるように指示を出す。
 張繍が馬をおり、曹昂の後を追って城に入る。
 その後を、鎧を着ていない千ほどの兵が追っていく。
 間に合ってくれ。そう胡車児は呟き戟をかまえた。