小説置き場2

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張繍伝4

張繍:元董卓四天王張済の甥!叔母上命の純朴な青年!!!
雛:張済の妻。薄幸の美女!彼女に幸せは・・・
賈詡:現張済軍軍師
胡車児:元呂布軍。張済軍の豪傑



張繍「叔母上、ご無事でしたか!」
 張繍が、二人の元に駆けつけた。折れた槍一本だけを持っていた。
 賈詡は横たわっていて、雛はそれを心配そうにのぞきこんでいた。
 賈詡の左手は、雛が自分の着物を破り、それでしっかり縛られ血止めがなされていた。
 その布は、どす黒い色に変わっていた。
雛「賈詡さんが・・・」
 雛が泣きそうになりながら張繍に訴えた。
賈詡「心配なされるな・・・少し血が足りなくなっただけです。まだ、死ねないようで」
 壊れた仮面の中に見える顔は、青白かったが笑っていた。
張繍「よかった・・・」
雛「よくない・・・よくないよくない!」
張繍「・・・・・・」
 雛が張繍の胸を叩いた。張繍の服はずたぼろだった。体中、傷だらけだった。
 泣きながら、叩き続けた。
雛「私が、人質として曹操殿のところに行けば全て丸く収まったのに!なんで、なんで!こんな傷だらけになって・・・馬鹿!張繍の馬鹿!賈詡の馬鹿!みんなの馬鹿!あ・・・そうか・・・違うよね。私じゃない。私のためじゃない。貴方も男の子だもんね。最初から曹操殿を・・・」
 雛が叩くのをやめた。やっと、曹操の言っていたことが飲み込めた。
 甥は、自分を利用して曹操の首を狙ったんだ。
 雛の細い手を、張繍は握りしめた。
張繍「違う!私は、叔母上を取り戻す・・・そのために、軍を動かした。私は、貴方が・・・」
雛「私を・・・取り戻す?」
張繍「私は、叔母上が、いや雛さまが好きだ!」
雛「張繍、なにを・・・言っているの?」
 意味が、分からない・・・いや・・・
張繍「ずっと好きだった。初めて、初めて会ったときからずっと!だから、貴方が曹操のところに行ったと知ったとき、取り戻そうと思った」
 張繍が顔を真っ赤にしながら言った。
雛「ば・・・か・・・・・・・私は、貴方の・・・」
張繍「叔父上は・・・張済は、私が殺しました」
雛「あ・・・」
 雛が口を押さえた。
雛「なんて・・・ことを・・・」
張繍「私は・・・・・・後悔しておりません。雛さま」

張繍「いつか、叔母上を僕が自由にするから。絶対幸せにするから」

雛「その言葉は・・・」
張繍「私は・・・・・・幼い日のあの約束を守っただけです」
雛「う・・・あ、ああ・・」
 雛が顔を覆い、さらに泣き出した。
 そうだ、この子、いやこの人はずっと私を・・・
 私は、それに気付かないふりをしていた。
 怖かったのだ。夫が、張済が怖かったのではない。
 初めて人に想われて。そう、初めて人に想われて、どう応えればよいか分からなかったのだ。
雛「私は、貴方の・・・」
張繍「雛さま」
雛「・・・貴方は・・・私の・・・・・・」
 
 たった一人の愛しい、人。

張繍「雛さま、いこう。胡車児達が待っている。それに、もうすぐ離れたところにいた曹操軍がここに殺到する」
雛「賈詡さんが」
賈詡「平気です」
 賈詡が立ち上がった。わずかにふらつきながらも張繍の隣にいくと、なにやら耳元で囁いた。
 張繍の顔がさらに真っ赤になった。

胡車児張繍殿はまだか!」
 まだ、出てこない。早くしないと、曹操軍が襲ってくる。
 曹操が包囲を突破したという情報も入ってきている。
 手負いの大男一人に太刀打ち出来なかったらしい。
 焦っていた。このままでは、全滅を免れない・・・
張繍「すまん、遅くなった!」
胡車児張繍殿!」
 目の前に懐かしい顔があった。
 若い男と女が、壊れた仮面を被った男に肩を貸しつつこちらに近づいてくる。
 離れていた時間はわずかなのに、無限の刻を待ったかのように感じられた。
張繍「すぐにここを離れる!荷物になるなら武器も捨ててもかまわん!目指すは劉表殿のところだ!」
 張繍軍が若い主の声に呼応し声をあげる。
 すぐに撤退を始めた。
 皆、なにかしら怪我を負っている。曹操の重装精鋭部隊にほぼ丸腰で立ち向かったのだ。
胡車児「賈詡!無事か!?」
賈詡「ああ・・・なんとか、守りきった」
 それだけ言うと、賈詡は気を失った。ここまで意識を保つことが出来たのも賈詡だからであろう。
 賈詡の素性に、胡車児は薄々気づいていた。
 張繍は賈詡の知略ならば、そう考えて賈詡なら守りきれると言った。
 胡車児は、賈詡の武勇を考えて、賈詡ならばと考えていた。
 すぐに賈詡を医務が出来る者に渡す。
 賈詡は、馬車で運ばれていった。
胡車児張繍殿、雛殿。よく、戻られた」
 胡車児が泣き笑いの顔を浮かべた。
張繍「まだだ、まだ終わっていない。無事に逃げ切れるかどうかだ」
胡車児「御意!」
張繍「雛さま・・・・・・いきましょう」
雛「ええ、張繍

 想いを、伝えたのだ。
 
 始めて人を想って、ずっとずっと想い続けて。
 
 長い時を一緒に刻んで。
 
 ずっと胸にしまいながら。
 
 今やっと、伝えることが出来たのだ。