あやかし姫~宣言~
「咲夜様!その男は!」
「咲夜様!何故そのような……」
村の中央に位置する広場。
そこに妖狼達が、集まっていた。
怪我をしているものがほとんどで。
近づいてくる二人の姿を視界に捉えると、皆咲夜の姿に安堵の表情を浮かべ、皆太郎の姿に困惑の表情を浮かべた。
「咲夜様!勝手に村を飛び出したかと思えば……」
「お前、勝手に村を出たのか?」
「はい……」
やるねえっと太郎は口笛を吹いた。
「皆さん、兄様は」
「兄では、ない」
重い、声が響いた。
一番大きな、黒い狼。
右前足がなかった。血が、固まっている。
「いや、この娘の兄だ」
太郎が言った。
「お前の、息子じゃないがな」
「兄様!」
咲夜が、なんてことを! と、怒鳴った。
すぐに、ひ! っと小さな悲鳴をあげた。
黒い狼が太郎を睨んでいた。
皆、静まりかえった。
太郎だけは、
「なんだそれ?」
と笑う。
がちがちと咲夜は歯を鳴らしていた。
怯えているのだ。
「あれか、それで凄んでるつもりか? 凄むってのはなあ……」
その金銀妖瞳が輝く。
「こういうのを、言うんだ。覚えておけ」
むぐ、っと黒い狼が声をあげる。
太郎が睨む。
黒い狼は太郎の迫力に押されていた。
必死に耐えようとするが、耐えられない。
「……俺も、弱っちいけどなあ。こんなの、なんの自慢にもなんねえ。さてと、俺はお前らとわざわざ喧嘩しに来たんじゃない。妹に頼まれてお前らを助けに来た……ってわけでもない」
咲夜が驚いた。
既に震えはやんでいる。
「どうして……そんな……兄様」
泣きそうになる。
貯まりはじめた大水は、今にも溢れ出しそうで。
「俺は、たまたま、妹を見た。たまたま行くところが一緒で俺の前にいつも妹がいた。たまたま、鳥居をくぐってしまった。で、たまたまお前らに話しかけた。そんで、面白そうな喧嘩があるんでたまたまそれに参加しようと思い立った、っと」
誰も、口を開かない。
「そんなわけだ。俺は今から鳥居のとこに居座る。近づくなよ、噛みつくぞ。言いたいことはそんだけだ。じゃあな」
阿呆ども。
そう言うと、ひらひらと手を振り、後ろを見せる。
遠ざかっていく。
「兄様……」
「誰なんだよ、あれ」
子供の狼であった。
「あれは、太郎と言って……」
母狼が困惑した表情で言う。
どう説明すればよいのか、分からないのだ。
「掟は……」
年取った狼であった。
その右耳に、歯形がついていた。
「破ってません!」
「だが」
「兄様は、妖狼族です!誰がなんと言おうと妖狼族です!」
他の妖の力を借りるべからず。
掟は、破ってはいない。
咲夜が、叫んだ。
「おのれ……」
黒い狼が口をゆがませる。
怒りに、顔を赤く染める。
その隣に座る美しい毛並みの狼は、青白い顔。
ただただ、目を見開いていた。
その狼は、太郎と咲夜が姿を見せてから、ずっと青白い顔のままだった。
「おふくろ、生きてたんだなあ」
太郎は鳥居の前に座る。村の中の鳥居だった。
「さてと……どれぐらい来るかなあ」
「咲夜様!何故そのような……」
村の中央に位置する広場。
そこに妖狼達が、集まっていた。
怪我をしているものがほとんどで。
近づいてくる二人の姿を視界に捉えると、皆咲夜の姿に安堵の表情を浮かべ、皆太郎の姿に困惑の表情を浮かべた。
「咲夜様!勝手に村を飛び出したかと思えば……」
「お前、勝手に村を出たのか?」
「はい……」
やるねえっと太郎は口笛を吹いた。
「皆さん、兄様は」
「兄では、ない」
重い、声が響いた。
一番大きな、黒い狼。
右前足がなかった。血が、固まっている。
「いや、この娘の兄だ」
太郎が言った。
「お前の、息子じゃないがな」
「兄様!」
咲夜が、なんてことを! と、怒鳴った。
すぐに、ひ! っと小さな悲鳴をあげた。
黒い狼が太郎を睨んでいた。
皆、静まりかえった。
太郎だけは、
「なんだそれ?」
と笑う。
がちがちと咲夜は歯を鳴らしていた。
怯えているのだ。
「あれか、それで凄んでるつもりか? 凄むってのはなあ……」
その金銀妖瞳が輝く。
「こういうのを、言うんだ。覚えておけ」
むぐ、っと黒い狼が声をあげる。
太郎が睨む。
黒い狼は太郎の迫力に押されていた。
必死に耐えようとするが、耐えられない。
「……俺も、弱っちいけどなあ。こんなの、なんの自慢にもなんねえ。さてと、俺はお前らとわざわざ喧嘩しに来たんじゃない。妹に頼まれてお前らを助けに来た……ってわけでもない」
咲夜が驚いた。
既に震えはやんでいる。
「どうして……そんな……兄様」
泣きそうになる。
貯まりはじめた大水は、今にも溢れ出しそうで。
「俺は、たまたま、妹を見た。たまたま行くところが一緒で俺の前にいつも妹がいた。たまたま、鳥居をくぐってしまった。で、たまたまお前らに話しかけた。そんで、面白そうな喧嘩があるんでたまたまそれに参加しようと思い立った、っと」
誰も、口を開かない。
「そんなわけだ。俺は今から鳥居のとこに居座る。近づくなよ、噛みつくぞ。言いたいことはそんだけだ。じゃあな」
阿呆ども。
そう言うと、ひらひらと手を振り、後ろを見せる。
遠ざかっていく。
「兄様……」
「誰なんだよ、あれ」
子供の狼であった。
「あれは、太郎と言って……」
母狼が困惑した表情で言う。
どう説明すればよいのか、分からないのだ。
「掟は……」
年取った狼であった。
その右耳に、歯形がついていた。
「破ってません!」
「だが」
「兄様は、妖狼族です!誰がなんと言おうと妖狼族です!」
他の妖の力を借りるべからず。
掟は、破ってはいない。
咲夜が、叫んだ。
「おのれ……」
黒い狼が口をゆがませる。
怒りに、顔を赤く染める。
その隣に座る美しい毛並みの狼は、青白い顔。
ただただ、目を見開いていた。
その狼は、太郎と咲夜が姿を見せてから、ずっと青白い顔のままだった。
「おふくろ、生きてたんだなあ」
太郎は鳥居の前に座る。村の中の鳥居だった。
「さてと……どれぐらい来るかなあ」