小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫~輝き~

 太郎の胸に顔をうずめる少女を見て、妖狼達は困惑していた。
 急に現れたこの少女が、何者か、害のある者かどうか分からないのだ。
「離れていて、下さい」
 少女が、顔を上げ言った。
「?」
「離れて!」
 凛とした声。
 妖狼達が離れていく。
「そう、離れて……吸われたく、ないでしょう……」
 姫様は太郎の顔にその顔を寄せ、その手を握ると、 
「わけてあげる……まだ、まだ死んじゃいやだよ」
 静かに微笑み、静かに口づけを交わした。
 冷たい、感触。
「な……」
 妖狼達の目に光が映る。
 口づけとともに少女の身体から光が溢れでた。
 光は太郎の身体に吸い込まれていく。
「これで、いいのかな? 術は成功、したのかな? 頭領は、怒るかな? それと、も……」
 光は消え、ぱたりと姫様は太郎の胸に倒れ伏した。
 咲夜と磨夜が二人に走り寄る。
 姫様は、満足そうな顔をしていた。
 息が、細い。
 太郎の、胸がゆっくり上下をしはじめ、姫様を揺らした。
「早く二人の手当を!」
「早く!」
 悲鳴に近い咲夜と磨夜の声だった。

「ああ……」
 起きあがる。周りを見る。
 妹、お袋。懐かしい顔――頭領、鈴鹿御前……そして……
「姫、様……」
「太郎さん、おはよう」
 にっこりと、優しく笑う、姫様。
「これは、幻? 俺は、死んだはずじゃあ……」
「おぬしは、生きておる」
 頭領の声。懐かしい声だ。
 鈴鹿御前がうんうん頷きながら、どこかに行ってしまう。
 袖で、目を拭っていた。
「どうして……」
「私の、命をわけたの」
 目をつむり、胸を押さえながら少し苦しそうに言った。
 姫様の顔色は、良くなかった。
「分けた? 何を?」
「命を……」
「な、な、なんてことを!どうしてそんなことを!」
「大丈夫、大丈夫、それより太郎さんのほうが私は心配」
 姫様はちらりと頭領を見た。
 姫様の言葉を遮り、太郎が叫ぶ。
「と、頭領!」
「ああ……心配いらん。少し顔色が悪いが、それだけじゃ。それだけですんだ」
「そうそう、だから太郎さんが私は心配なの」
「あ、あ……」
 太郎は、姫様の寿命が失われたのではと心配したのだ。
 命を分けるとは、そういうこと……のはずだ。
「よかっ……たあ」
「兄様が、慌ててます……」
「太郎は、昔からあんなのだよ……」
 母親と妹がひそひそ話しているのが見えた。
「おぬしの傷が癒え次第、儂らは帰る。おぬしは、どうする」
「帰る」
「どこへ、ですか?」
 姫様がおずおずと聞いた。
 太郎は、咲夜と磨夜をちらりと見た。
 姫様に視線を戻すと、
「寺。葉子も黒之助も寂しがってるんだろ?」
 と言った。
 姫様は、顔を輝かせた。
 咲夜と磨夜は寂しそうに顔を見合わせた。