小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫~鬼姫、暴走(1)~

「どう、彩花ちゃん。調子の方は?」
「う~ん、元気です。前と変わりないですよ」
「そう、なら良かった」
「あの……こんにちわ」
「や、朱桜ちゃん。どう、親父殿は?」
「父さまは……特に変わりないです」
「そう」
 古寺の姫様彩花。西の鬼の王、酒呑童子の娘朱桜。
 二人は大の仲良しで、端から見ると本当に姉妹のよう。
 今日は東の鬼姫鈴鹿御前の居城に遊びに二人でお出かけ。
 鈴鹿御前も姫様彩花の友人の一人である。
「ちょっと待ってて。今、兄上と俊宗呼んでくる」
 配下の鬼に「二人になにか出すように!」と言うと、ぱたぱたと鬼姫は行ってしまった。
 朱桜がこっそりとと姫様に話しかける。
「彩花さま……本当に元気なの? 本当にお身体大丈夫なの?」
「うん、元気元気。ありがとう、心配してくれて」
 
 妖狼族の一件。
 姫様と太郎が心身を癒し、無事に古寺に帰宅した次の日。
 朱桜は古寺に酒呑童子とやって来た。
 姫様の姿を見ると、父親を放って走り出した。
 そして、姫様にぎゅっとしがみついた。
 おろおろ涙をこぼすと、
「彩花さま……彩花さま……」
 と繰り返した。
 しばらく、会えなかったのだ。
 心配で心配で、小さな胸が張り裂けそうで。
 でも、会いに行けなかった。
 妖狼族が、拒んだのだ。
 これ以上、妖狼以外の妖が村に立ち入ることを、近づくことを。
「ごめんね、心配かけて」
 姫様は、優しく朱桜の頭を撫でてやった。
 朱桜が泣き止むまで、ずっと撫でてやった。

「兄上ー! 起きろー!」
「お、おう?」
 布団をはぎ取られ、寝ぼけまなこをごしごしこする。
 ぼんやり頭をおこしてみれば、りりしい義妹の姿が見える。
「……鈴鹿や。いくら我が妹とはいえ、勝手に男の部屋に入るの」
 ごん、という鈍い音がした。
 鈴鹿御前の義兄、大獄丸の舌が止まった。
 鬼姫が大獄丸の部屋の壁を殴りつけたのだ。
「兄上? 私は兄上に彩花ちゃんと朱桜ちゃんを迎えにいくよう頼んだはずですよね?」
「……おお」
 頭が、痛い。二日酔いだと思う。
 昨日、俊宗としこたま飲んだ。
 それで、朝起きられなくて……
「何で兄上は自分の部屋で寝てるんですか? なに鬼吉にやらしてるんですか?」
「さ、さあ……」
「いい? 私は兄上に頼んだの」
 すーっと、鈴鹿御前は息を大きく吸った。
「頼まれたことはちゃんとやるー!!!」
「いってえ!!!」
 耳を押さえて悶える大獄丸。
 ごろごろ部屋を転がっている。
 ふん、と冷たい視線を投げると、大獄丸の部屋を出ていった。

「……なんでしょう、今の大きな音」
「さあ……あ、これも美味しい」
 ぱくぱくと赤鬼が持ってきてくれたお菓子を食べる姫様。
 ちょっと怯えている朱桜。