愉快な呂布一家~少し前~
漆黒の騎馬隊が、城を囲んだ。
城に見慣れぬ兵が入ってきて、自分たちをこの部屋に閉じこめた。
甘夫人が震えている。
張飛の姿は城にはなかった。
「どうすれば、いいの」
甘夫人の震える背をさすりながら、麋夫人は途方に暮れていた。
侍女達もただ震えるだけだった。
兄も、どこかに連れて行かれた。
誰かの足音がする。
集団の足音だった。
「甘様! 麋様! 誰かが、来ます!」
趙雲が叫んだ。侍女にまぎれてこの部屋に入り込んだのだ。
槍を構えている。練習用の槍ではなかった。
「失礼しま~す」
その声と同時に、趙雲が入り口に向かって槍を突き出した。
「む~、槍を振り回しちゃ危ないよ?」
趙雲は、さらに槍に力を込めた。
目の前の少女はその槍を涼しい顔で押さえていた。
二本の指で。
ひゅっと、少女が腕を振った。
槍が壁に突き刺さり、甘夫人がひっ! と叫び、趙雲の小さな身体が、床を転がった。
少女は、麋夫人の見知った顔だった。
「呂布……殿……」
「えーっと……」
なにやら言いにくそうにしていた。
「この城は、呂布様の物になりました」
代わりに、呂布の隣にいた男が言った。
「ということなの」
呂布が困ったように笑った。
麋夫人は全て理解した。
呂布が牙を剥いたということを。
「あの兵は、呂布殿の兵なのですね?」
「はあ、そうです」
「私達を、どうするおつもりですか?」
「とりあえず、しばらくはこの部屋を動かないで下さいね」
「……私達を劉備様の人質となさるおつもりですか?」
「ええ」
「え、陳宮そんな話聞いてないよ!」
「いや~、その~」
「すぐに劉備さんと会えるから、心配しないで!」
「ちょ、呂布様!」
「陳宮、私が決めたの! それじゃあ、私達は行きますので。あ、何か用件があったらちょうせん姉様に
言ってくださいね」
「はあ……」
つかつかと呂布達は出て行ってしまった。
女性が一人残った。知らない顔だった。
趙雲が槍を壁から抜くと、その女性に向かっていった。
「あらあら」
女は、微笑んだ。
趙雲は、止まらなかった。
「危ない!」
叫んでから、麋夫人は目をつぶった。ドンと、音がした。
おそるおそる目を開けると、趙雲が腰を抜かしていた。
麋夫人が趙雲に駆け寄る。
ぽかーんと、趙雲は女を見上げていた。
床に、砕け散った槍が転がっていた。
「貂蝉といいます。よろしく」
差し出された手には、槍の残骸が少しついていた。
城に見慣れぬ兵が入ってきて、自分たちをこの部屋に閉じこめた。
甘夫人が震えている。
張飛の姿は城にはなかった。
「どうすれば、いいの」
甘夫人の震える背をさすりながら、麋夫人は途方に暮れていた。
侍女達もただ震えるだけだった。
兄も、どこかに連れて行かれた。
誰かの足音がする。
集団の足音だった。
「甘様! 麋様! 誰かが、来ます!」
趙雲が叫んだ。侍女にまぎれてこの部屋に入り込んだのだ。
槍を構えている。練習用の槍ではなかった。
「失礼しま~す」
その声と同時に、趙雲が入り口に向かって槍を突き出した。
「む~、槍を振り回しちゃ危ないよ?」
趙雲は、さらに槍に力を込めた。
目の前の少女はその槍を涼しい顔で押さえていた。
二本の指で。
ひゅっと、少女が腕を振った。
槍が壁に突き刺さり、甘夫人がひっ! と叫び、趙雲の小さな身体が、床を転がった。
少女は、麋夫人の見知った顔だった。
「呂布……殿……」
「えーっと……」
なにやら言いにくそうにしていた。
「この城は、呂布様の物になりました」
代わりに、呂布の隣にいた男が言った。
「ということなの」
呂布が困ったように笑った。
麋夫人は全て理解した。
呂布が牙を剥いたということを。
「あの兵は、呂布殿の兵なのですね?」
「はあ、そうです」
「私達を、どうするおつもりですか?」
「とりあえず、しばらくはこの部屋を動かないで下さいね」
「……私達を劉備様の人質となさるおつもりですか?」
「ええ」
「え、陳宮そんな話聞いてないよ!」
「いや~、その~」
「すぐに劉備さんと会えるから、心配しないで!」
「ちょ、呂布様!」
「陳宮、私が決めたの! それじゃあ、私達は行きますので。あ、何か用件があったらちょうせん姉様に
言ってくださいね」
「はあ……」
つかつかと呂布達は出て行ってしまった。
女性が一人残った。知らない顔だった。
趙雲が槍を壁から抜くと、その女性に向かっていった。
「あらあら」
女は、微笑んだ。
趙雲は、止まらなかった。
「危ない!」
叫んでから、麋夫人は目をつぶった。ドンと、音がした。
おそるおそる目を開けると、趙雲が腰を抜かしていた。
麋夫人が趙雲に駆け寄る。
ぽかーんと、趙雲は女を見上げていた。
床に、砕け散った槍が転がっていた。
「貂蝉といいます。よろしく」
差し出された手には、槍の残骸が少しついていた。