小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

愉快な呂布一家~呂布、見参~

 目の前に小高い丘が見える。

 その丘の上をたくさんの人間が動いている。

「やっと、だね……」

 そう言うと劉備は立ち止まった。

 後ろを振り返ると、大男が二人近づいてくる。

 二人は傷をほとんど負っていない。

 袁術軍が、止まった。明らかに怯んでいる。

 追撃をやめ陣を敷き直している。

 関羽が、劉備軍に指示を出し始めた。

 豪族の兵はほとんどいなくなっていた。

 陳到の姿を探した。

 見つからなかった。

 兵が、ざわめきはじめた。

 丘から黒い獣が下りてくる。

 漆黒の、騎馬隊。

 真っ赤な馬が、先頭であった。

 劉備軍の兵達がどよめきながら、二つに分かれていく。

 劉備関羽張飛

 この三人だけが、獣の前に立った。

 獣も、歩みを止めた。

 二人、さらに前に出てくる。

 呂布、そして陳宮であった。

「やあ、呂布さん」

劉備さん、ご家族のみなさんは無事です」

「そうかい」

劉備殿は、元々小沛の城にいられましたな」

 陳宮がいった。

 陶謙の救援に駈けつけたとき、劉備に与えられたのが小沛の城だった。

「そうだよ、陳宮どん」

「それでは、よろしいですね。元のとおりということで」

 失ったのか、そう劉備は思った。

「……そうだね……。呂布さん」

「は、はい」

「あんがと、家族のこと」

「い、いえ」

 これで終わりというように、劉備は馬を進めた。

 呂布陳宮とすれ違った。

 陳宮がすれ違いざまに笑みを浮かべたのを、劉備は見逃さなかった。

 劉備も、心の中で笑っていた。



呂布……」

 袁術はうめいた。

 漆黒の騎馬隊が、劉備軍を二つに割って、近づいてくる。

 一度止まり、また動き出した。

 軍に動揺が走っていた。

 汗が、じっと滲んでくる。

 黒い獣が止まった。

 一人だけ、真っ赤な馬だけ、その歩みを止めなかった。

 袁術軍から一人飛び出した。

「紀霊!」

 紀霊が、真っ赤な馬の乗り手に駈けだしていった。