小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

愉快な呂布一家~山賊(3)~

 無実の罪で牢に入れられた父を救い出して五年あまり

 気づけば、山賊の頭になっていた

 山賊稼業は、嫌いではない

 だが、好きでもなかった

 陶謙とは、度々争った。山に引き込んで、散々に撃ち破ると兵を出さなくなった

 その陶謙のあとを劉備が継いだ

 これは、と思った。徳の将軍の名は、泰山にも聞こえていた

 山賊をやめ、義勇軍として劉備に従おうと思った

 その矢先、呂布が獰猛なる牙を剥いた

 劉備呂布に徐州の実権を奪われたと聞いて、臧覇は誰かに従う、という考えを捨てた

 今は乱世なのだ。独力で、戦えばよいのだ。力が、徳を喰らう世界なのだ

 部下の山賊達は、山岳戦には強かった

 原野戦には、全くであった

 馬の数が足りないのだ

 買い集めるには、金が足りなかった。山賊稼業も楽ではないのだ

 奪おうにも、なかなか集まらなかった

 そんなとき、いい獲物が現れた

 結局はうまく逃げられたわけだが、代わりにいいものを手に入れた

 

 なんだか、怖いです

 麾下のみなさんの顔つきが、さっきまでおしゃべりしてた、楽しそうな顔つきと違います

 みんな黙ってしまわれて……

呂布魏延

 呂布様だ。わざわざ、最後尾にいた僕のそばに来てくれました

魏延「あ、はい」

呂布「わたしの、そばに。一番安全だから」

 そう言って、駈けていってしまいました。こころなしか、麾下の皆さんがぐっと睨んでいるような

 冷や汗、たらたらです



呂布陳宮……あれが、そう?」

陳宮臧覇、ですね」

呂布「……魏続! 侯成! 宋憲!」

魏続「あ、呂布様……」

侯成「すんません……」

宋憲「めんぼくないっす……」

臧覇「馬、渡して貰おうか」

 あれが、呂布か。なんと禍々しい

 いやな汗が臧覇の背中をつたう

呂布「はい、どうぞ」

山賊A「うお、馬だ!」

山賊B「すげえいっぱい!」

呂布「じゃあ、魏続達を返して」

臧覇「……」

 返して、いいのか。部下達は浮かれきっているけど……本当にいいのか?

山賊A「頭、たったの千人ぽっちですし、別に人質を解放しても平気ですよ」

臧覇「あ、ああ……」

 本当に、大丈夫か?

魏続「あの~」

呂布「三人とも、無事でよかった……本当に、よかった……」

 えぐっと涙ぐむ呂布さん

侯成「へえ」

宋憲「申し訳ないっす」

呂布「これで、やれる」

 涙を拭うと、にこりと呂布さんが笑った。方天画戟を逆に持った

陳宮呂布様!」

呂布「誰も、動かないで! わたしだけ! わたし一人だけ!」

 一人、赤兎を走らせる。あれ~、陳宮さんの隣で安全なのかなあと魏延は思った



山賊A「おい、一人突っ込んでくるぞ!」

山賊B「一人? 呂布一人? 馬鹿じゃねえの? せっかくの馬だし、ちょっと試してみようぜ!」

 群がる山賊達。臧覇の静止を聞くことなく

 蛮勇を、呂布がふるった。一人、また一人馬から突き落としていく

 段々と、増えていく

 一人、また一人

 陳宮が、唖然とした

 魏続が、唖然とした

 侯成が、唖然とした

 宋憲が、唖然とした

 魏延の口が、あいたまま

 漆黒の騎馬隊、その半分

 逃げようとする山賊達の、道をふせいだ。呂布がそれをみて「よくわかってる」といった

 もう、山賊達は半分も残っていなかった

臧覇「なんだよ、これ……ちくしょう!!!」

 臧覇が、叫んだ。さっきから、躯の震えが止まらないのだ

 恐ろしいものを見ていた

 恐ろしく美しいものを見ていた

 一寸の無駄なく、ただひたすら味方を襲い舞う死神

 気づけば、立っている味方は誰もいない

 漆黒の騎馬隊が山への道を断ち切っている

 馬は、散り散りになっていた。呂布の騎馬隊の何人かが、集めていた

 臧覇は、馬から下りた

呂布「あなたが、ハア、臧覇? ハア」

臧覇「……」

呂布「なぜ、フウ、馬から下りたの?」

臧覇「……」

 呂布は息をついていた

臧覇「五千」

呂布「うん?」

臧覇「五千、五千人いた。全員、倒す……化け物かよ」

呂布「そうね、化け物かもね」

 にこりと、笑う

呂布「もう、五千一になるけど」 

臧覇「……助けて、くれ」

呂布「……」

臧覇「まだ、まだ、死にたくない」

 言葉が、勝手に出てくる……

呂布「どうしよっかなあ……」

 殺される、のか?

 怖、い

呂布「いいよ。条件があるけど」

臧覇「条件?」

呂布「私の仲間になること」

臧覇「仲間……」

 仲間

 倒れ伏している部下達を見る

 吼えた

臧覇「ふっざけるなあ!!!!!!」

呂布「大きい大きい、聞こえてるから」

臧覇「俺が阿呆だった!」

 何を、言ってるんだ!!! 斧、父を助けにいったときから愛用していた

臧覇呂布、死ねえ!!!」

 殺す、コロス、コロシ、テや、る……



呂布「なかなか、難しいね陳宮

 方天画戟

 赤い夕日に呂布さんが映える

 深紅に、染められている

陳宮呂布様……まさか本当に皆殺しになさるとは……」

 やりかねないとは思っていた。呂布様なら、やりかねないと

呂布「へ? 生きてるよ」

陳宮「……まじで?」

呂布「だから難しいんじゃない。皆殺しにするのは簡単だもの」

 きゃっきゃっと笑う

陳宮「簡単、ねえ……」



臧覇「は。化け物、か……」

山賊A「お頭……」

臧覇「あんな化け物に従うのも、悪くねえ」

~泰山の臧覇。生まれて初めて、ご主君と口にした。一人の少女に向かってご主君と~