小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

龍の、娘

「何故、火が……」

夏侯惇どん、あれあれ」

 劉備が指差す方を見る。火の中に、それはいた

「あれは……あの漆黒の騎馬隊……」

「関さん! 陳到!」

 劉備が、叫んだ。二人が身構える

 そこにいたのは、関羽劉備にとって、最も畏怖すべき存在だった

「ケラ……ケラケラケラ」

 けたたましい哄笑。狂気と、死をはらんだ笑い

呂布?……じゃない……いや……あれは……」

夏侯惇どん……あれも呂布さんだよ……最凶最悪の呂布さんだよ」

 劉備の声に、ひきつったものがあった

 あの時、遠くにいた夏侯惇と違って、劉備関羽は間近で「それ」を見たのだ

 炎と煙が渦巻く中、龍の娘が方天画戟を天に捧げる

 紅蓮の炎を疾風の如くに切り裂いて、大陸最強の騎馬隊がその暴勇を誇る刻がきたのだ

 

「てめえ!」

 張飛の馬がやられた。大斧の持ち主に怒声を叩きつける

 少年、であった

「うるせえな……高順さん!」

臧覇! 余計な真似を!」

「はん! ありがたいとおもえよ! 高順さんにご主君からの伝言さあ。「全軍、突撃」だとよ!」

「わかった!」

 高順の手の動きに合わせて軍が動き始める

 高順軍が、溜まりに溜まった狂気を解放する

 三人を残して、全て駈け去っていく

「……そうか、この感覚……あのときの呂布だな! あのときの呂布がいるんだな!」

 張飛が、吼えた。目が血走っている

「なに?」

 高順には、張飛の言っている意味が分からなかった

「お前、わかんねえのかよ……」

「まさか! ぞ、臧覇!?」

「あのときってなんだよ! 俺は知らねえぞ!」

呂布殿……いや、何かお考えがあってのこと……なのか?」

「あ、張飛が!」

「あ、まて!」

「うるせえ! 兄者と小兄貴が心配なんでな! てめえらと遊ぶ時間はねえ!」

 二人を相手するのは、しんどいと張飛は判断したのだった

「うお、はええええ!」

 高順と臧覇が、口を揃えた