小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫~旅の人(10)~

「あんた、一体何を隠してる?」
「はい?」
 太郎が、月心に言った。
 二人並んで、子供達と姫様と葉子を見ながら。
「一体、何を隠している?」
 もう一度言った。穏やかな、言いようだった。
「さあ」
「とぼけるってのか?」
「……」
 答えなかった。
 代わりに、月心は苦笑いを浮かべていた。
「姫様は、あんたのことを悪い人間じゃないと言った」
 姫様、と太郎は言った。
「彩花さんが……いやいや、わかりませんよ? まだ、あったばかりですし」
「じゃあ、悪い人間か?」
「それも、どうでしょうね」
 少しずつ、苛立っていく。
 苛立ちが、隠せなくなっていく。
「……お前」
「太郎さんは、彩花さんのことをとても大事にされているのですね」
「ん!?」
 お、おう、と太郎は大きく頷いた。不意をつかれて、困惑の表情。
「葉子さんも、ですね」
「ああ」
「……太郎さんのお知り合いに……そうですね、妖、それも力の強い妖の方はいませんか?」
「……はいい!?」
 太郎が、素っ頓狂な叫び声をあげた。
 姫様と葉子が、太郎を見る。
 子供達は、変なこえーと言って、また遊びに夢中になる。
「いえ、お寺に住んでいるのならそういうお知り合いの方も二・三人いるのかな~っと」
「イ、イヤー、イナイヨー」
 返事が、不自然に。
 なにせ自分がそうなのだから。
「えーっと、……」
 こいつ、俺が妖狼だと気づいたのか?
「そうですか……残念です」
「あれ?」
「それでは、この辺りの妖で一番力の強い方は?」
「シラナイヨー」
「では、この辺りにはいないのですか……村の人にも尋ねましたが……」  
 本当に、残念です。
 そう、言った。
「あんた、一体?」
「聞かないほうがいいですよ。聞かないほうが、いいです。彩花さんのことが大事なのでしょう? 余計な迷惑は、かけたくありません」
「……そう、だな……」
 深入りしないほうが、いい。そう太郎は考えた。
 姫様と目があった。二人を、太郎が叫んだときから、ずっと見ていたのだ。
 それに、気がつかなかった。
 まずいと思った。
 間違いなく、話を聞かれている。
 葉子は、多分最初から聞いていた。
 葉子なら、いいけど、姫様は……
 姫様が、ちょっと待ってて。そう、子供達に言っているのが見えた。
 言って、こっちに近づいてくる。真剣な、眼差し。
 太郎は、頭を抱えた。
 やっかいごとを。
 そう、思った。
「月心さん」
「彩花さん、どうしました」
「妖、というのは?」
「おや……聞こえましたか?」
 少し、いや、十分に離れていた。
「ええ、風にのって」
「そうですか、なるほど」
「あの、彩花さま」
「太郎さんは黙ってて」
 ぴしゃりと、言われた。
 太郎、黙る。それ以上口を出せなかった。
 それを見て、
「まずい、まずいよ」
 葉子が、そう言った。
 男の子達が、どうしたの? と訊く。
 葉子は、答えなかった。
 もう一度、まずいよーといった。
「どうして、妖を探しているのですか?」
「それは……いえ、彩花さんには、関係がない話です」
「もしかしたら、力になれるかもしれませんよ」
 まっすぐ月心を見据えて、そう姫様が言った。
「彩花さんが?」
「月心さんに、詳しいお話を聞かせてもらえれば、ですけど」
「どう、しましょうか?」
「どう、しましょう?」
 迷って、いた。
 月心は迷っていた。
 なにせ、今日会ったばかり、なのだ。
 だが、これはと、思う。もしやと、思う。
「……わかりました」
「はい」
 姫様が、そう返事した。
「ま、これはこれでいっか」
「葉子さん、さっきからなに独り言いってるのー?」
「んー、ちょっと考え事ー」