あやかし姫~旅の人(10)~
「あんた、一体何を隠してる?」
「はい?」
太郎が、月心に言った。
二人並んで、子供達と姫様と葉子を見ながら。
「一体、何を隠している?」
もう一度言った。穏やかな、言いようだった。
「さあ」
「とぼけるってのか?」
「……」
答えなかった。
代わりに、月心は苦笑いを浮かべていた。
「姫様は、あんたのことを悪い人間じゃないと言った」
姫様、と太郎は言った。
「彩花さんが……いやいや、わかりませんよ? まだ、あったばかりですし」
「じゃあ、悪い人間か?」
「それも、どうでしょうね」
少しずつ、苛立っていく。
苛立ちが、隠せなくなっていく。
「……お前」
「太郎さんは、彩花さんのことをとても大事にされているのですね」
「ん!?」
お、おう、と太郎は大きく頷いた。不意をつかれて、困惑の表情。
「葉子さんも、ですね」
「ああ」
「……太郎さんのお知り合いに……そうですね、妖、それも力の強い妖の方はいませんか?」
「……はいい!?」
太郎が、素っ頓狂な叫び声をあげた。
姫様と葉子が、太郎を見る。
子供達は、変なこえーと言って、また遊びに夢中になる。
「いえ、お寺に住んでいるのならそういうお知り合いの方も二・三人いるのかな~っと」
「イ、イヤー、イナイヨー」
返事が、不自然に。
なにせ自分がそうなのだから。
「えーっと、……」
こいつ、俺が妖狼だと気づいたのか?
「そうですか……残念です」
「あれ?」
「それでは、この辺りの妖で一番力の強い方は?」
「シラナイヨー」
「では、この辺りにはいないのですか……村の人にも尋ねましたが……」
本当に、残念です。
そう、言った。
「あんた、一体?」
「聞かないほうがいいですよ。聞かないほうが、いいです。彩花さんのことが大事なのでしょう? 余計な迷惑は、かけたくありません」
「……そう、だな……」
深入りしないほうが、いい。そう太郎は考えた。
姫様と目があった。二人を、太郎が叫んだときから、ずっと見ていたのだ。
それに、気がつかなかった。
まずいと思った。
間違いなく、話を聞かれている。
葉子は、多分最初から聞いていた。
葉子なら、いいけど、姫様は……
姫様が、ちょっと待ってて。そう、子供達に言っているのが見えた。
言って、こっちに近づいてくる。真剣な、眼差し。
太郎は、頭を抱えた。
やっかいごとを。
そう、思った。
「月心さん」
「彩花さん、どうしました」
「妖、というのは?」
「おや……聞こえましたか?」
少し、いや、十分に離れていた。
「ええ、風にのって」
「そうですか、なるほど」
「あの、彩花さま」
「太郎さんは黙ってて」
ぴしゃりと、言われた。
太郎、黙る。それ以上口を出せなかった。
それを見て、
「まずい、まずいよ」
葉子が、そう言った。
男の子達が、どうしたの? と訊く。
葉子は、答えなかった。
もう一度、まずいよーといった。
「どうして、妖を探しているのですか?」
「それは……いえ、彩花さんには、関係がない話です」
「もしかしたら、力になれるかもしれませんよ」
まっすぐ月心を見据えて、そう姫様が言った。
「彩花さんが?」
「月心さんに、詳しいお話を聞かせてもらえれば、ですけど」
「どう、しましょうか?」
「どう、しましょう?」
迷って、いた。
月心は迷っていた。
なにせ、今日会ったばかり、なのだ。
だが、これはと、思う。もしやと、思う。
「……わかりました」
「はい」
姫様が、そう返事した。
「ま、これはこれでいっか」
「葉子さん、さっきからなに独り言いってるのー?」
「んー、ちょっと考え事ー」
「はい?」
太郎が、月心に言った。
二人並んで、子供達と姫様と葉子を見ながら。
「一体、何を隠している?」
もう一度言った。穏やかな、言いようだった。
「さあ」
「とぼけるってのか?」
「……」
答えなかった。
代わりに、月心は苦笑いを浮かべていた。
「姫様は、あんたのことを悪い人間じゃないと言った」
姫様、と太郎は言った。
「彩花さんが……いやいや、わかりませんよ? まだ、あったばかりですし」
「じゃあ、悪い人間か?」
「それも、どうでしょうね」
少しずつ、苛立っていく。
苛立ちが、隠せなくなっていく。
「……お前」
「太郎さんは、彩花さんのことをとても大事にされているのですね」
「ん!?」
お、おう、と太郎は大きく頷いた。不意をつかれて、困惑の表情。
「葉子さんも、ですね」
「ああ」
「……太郎さんのお知り合いに……そうですね、妖、それも力の強い妖の方はいませんか?」
「……はいい!?」
太郎が、素っ頓狂な叫び声をあげた。
姫様と葉子が、太郎を見る。
子供達は、変なこえーと言って、また遊びに夢中になる。
「いえ、お寺に住んでいるのならそういうお知り合いの方も二・三人いるのかな~っと」
「イ、イヤー、イナイヨー」
返事が、不自然に。
なにせ自分がそうなのだから。
「えーっと、……」
こいつ、俺が妖狼だと気づいたのか?
「そうですか……残念です」
「あれ?」
「それでは、この辺りの妖で一番力の強い方は?」
「シラナイヨー」
「では、この辺りにはいないのですか……村の人にも尋ねましたが……」
本当に、残念です。
そう、言った。
「あんた、一体?」
「聞かないほうがいいですよ。聞かないほうが、いいです。彩花さんのことが大事なのでしょう? 余計な迷惑は、かけたくありません」
「……そう、だな……」
深入りしないほうが、いい。そう太郎は考えた。
姫様と目があった。二人を、太郎が叫んだときから、ずっと見ていたのだ。
それに、気がつかなかった。
まずいと思った。
間違いなく、話を聞かれている。
葉子は、多分最初から聞いていた。
葉子なら、いいけど、姫様は……
姫様が、ちょっと待ってて。そう、子供達に言っているのが見えた。
言って、こっちに近づいてくる。真剣な、眼差し。
太郎は、頭を抱えた。
やっかいごとを。
そう、思った。
「月心さん」
「彩花さん、どうしました」
「妖、というのは?」
「おや……聞こえましたか?」
少し、いや、十分に離れていた。
「ええ、風にのって」
「そうですか、なるほど」
「あの、彩花さま」
「太郎さんは黙ってて」
ぴしゃりと、言われた。
太郎、黙る。それ以上口を出せなかった。
それを見て、
「まずい、まずいよ」
葉子が、そう言った。
男の子達が、どうしたの? と訊く。
葉子は、答えなかった。
もう一度、まずいよーといった。
「どうして、妖を探しているのですか?」
「それは……いえ、彩花さんには、関係がない話です」
「もしかしたら、力になれるかもしれませんよ」
まっすぐ月心を見据えて、そう姫様が言った。
「彩花さんが?」
「月心さんに、詳しいお話を聞かせてもらえれば、ですけど」
「どう、しましょうか?」
「どう、しましょう?」
迷って、いた。
月心は迷っていた。
なにせ、今日会ったばかり、なのだ。
だが、これはと、思う。もしやと、思う。
「……わかりました」
「はい」
姫様が、そう返事した。
「ま、これはこれでいっか」
「葉子さん、さっきからなに独り言いってるのー?」
「んー、ちょっと考え事ー」