小説置き場2

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徐州の戦(終)

 返事はなかった。呂布が少しずつ落ちていく。

 赤く染まっていた。

 敵の血ではない。

 矢。

 もう一度叫ぼうとした。怒気を込めて叫ぼうとした。なにを、しているのかと。

 はっと、気づいた。叫ぶのをやめた。

 涙が、零れた。

 矢が刺さっていた。魏越の、首に。

 青白い、顔。目を、見開いたまま。

 それでも、手綱は離さなかったのだ。

 ここまで、呂布を落とさずに来たのだ。

 魏続が呂布の身体を支えた。

 そこで初めて、魏越の身体が揺れた。
 
 魏続は、魏越の身体も支えた。

 こときれていた。

 呂布は、まだ生きていた。

 吠えた。

魏続「伝令! 呂布様が負傷! 陳珪の裏切り! それだけを伝えろ!」

各伝令「御意!」

魏続「魏越ー……ちくしょう! みんないねえ! ちくしょう! 」

魏続軍兵士「魏続様!」

魏続「……退くぞ」

魏続軍兵士「……」

魏続「てめえら! 死んでも呂布様を守り抜けよ!」

魏続軍兵士「は!」



 守り抜いた。

 なんとか、守り抜いた。

 陳宮が、下邳城にいた留守部隊六千のうち五千を魏延に率いさせ、参戦させた。

 それが効いた。

 裏切り者を、少しの間止めることができた。

 その間に、逃げ切ったのだ。

 下邳城に傷だらけの獣が戻る。

 宋憲軍、侯成軍一万四千のうち、六千。

 高順軍一万五千のうち、八千。

 張遼臧覇の軍は小沛に流れたが、城に入ることが出来なかった。

 陳登も、裏切ったのだ。

 七千の兵は、遊軍となって、各地を漂っている。

 魏延が率いた五千のうち、千。

 魏続軍七千のうち、三百。

 呂布麾下。

 最強を誇った部隊は、誰も、生きて戻ることが出来なかった。

 そして、呂布

 深い深い眠りに、落ちていた。

~下邳城攻防戦に、続く~