小説置き場2

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徐州の戦(6)

魏越「急いでくれ! 頼む!」

 だが、赤兎の走りはいつもより遅いまま。
 
 主の身体を気遣っているのだ。魏越にもわかっている。

 それでも、言うしかなかった。

 後ろをみる。

 陳珪の姿。

 また一人、仲間を斬り倒した。

 憎しみが胸をたぎる。

 だが、今は……

 自分を押さえる。

 小さな主のために。

 前を見る。

 そのときであった。

 首に痛みが走った。

 魏越は、自分と成廉が呂布に旗本の隊長に任命されたときの事を思い出した。

 本当に、嬉しかった。
 
 本当に本当に、嬉しかった。

 二人で、一晩中飲んで、飲んで飲んで飲み明かして。

 次の日、二日酔いで調練に出て、呂布様に笑われた。

 嬉し……かっ……た



魏続「……陳珪殿の軍? なぜ、こちらに……」

 理由がわからない。

 呂布様が作戦を変えたのか?

 そう考えたとき、脳裏に陳宮の言葉が浮かんだ。

陳宮「陳珪には、気をつけて下さい」

魏続「……まさか……」

 その直感を魏続は信じた。

 魏続の軍七千が、動いた。



陳珪「とまらんな」

 つまらなそうに、言った。

 弓をしまう。

 赤兎の走りが、少しずつ早くなっている。

 後ろで、騒ぎがおこった。

 まだ、呂布の麾下の兵が生きていたのかと振り向く。

 ああ、と笑った。

 隻眼の見知った顔が近づいてきていた。

 怒りがみてとれた。気にくわないのだろう。

 あの男らしいと思った。



魏続「あれは……呂布様! 魏越!」

 魏続は、自分の軍の先頭をひた走っていた。

 そして、見つけた。

 呂布の姿。赤兎に身を預けている。

 呂布様が……後ろに、男の姿。魏越だ。

 呂布の身体を抱えている。

 嘘だと思った。だが、目の前にあるのが、真実。

 無意識に、伝令を呼び集めた。

魏続「……陳宮殿と張遼殿とこ……」

 高順。そう言いかけて、魏続はとまった。

 鈴が、なった。

 三騎将のお揃い。貂蝉に貰ったもの。

 胸の痛みが、鳴った。

 二人が、高順と貂蝉が結婚したとき、嬉しかった。

 だけど、胸の痛みがあった。

 最初は、なぜだかわからなかった。

 それは、簡単なことだった。

 自分も、貂蝉に憧れていたのだ。

 気づくのが遅すぎた。

 それから、高順に嫉妬し始めた。なるべく、態度に出さないようにしていた。

 高順は、自分の先輩。

 そんな自分が、嫌いだった。

 今は、そんなことを言っている場合では、ない。

 一瞬の逡巡だった。

魏続「高順殿、宋憲、侯成、臧覇に伝令を!……いや、まだだ!」

 叫んだ。おもいっきり。馬に、力を込める。

 応えてくれた。

 赤兎馬もかくやという、走りをしてくれた。

魏続「呂布様――!!! 魏越――!!!」