華~弐~
「きゃっ」
小さな悲鳴があがった。
女はすぐに足を引っ込め、男の肩に抱きつき、ふるふると震えた。
男は、愛おしむように女の髪を撫でてやる。
それから、女の耳に囁いた。
「ひどくなってないか?」
「……怖いのです」
「見てみろ」
女の子は、波打ち際で膝を抱えていた。水を触る。ちゃうちゃぷと波が音を鳴らす。
それから、
「てい!」
そう言って、海に踏み込んだ。
「あはは! 冷たいのです!」
水が跳ねる音。ぴちゃぴちゃと、踏み込んでいく。
「風華……」
女の子が振り向いた。
とと様にひしっ! っと脅えた表情を浮かべながらくっつくかか様をみて、
「かか様、もう」
いいです、そう言いかけた。
「履き物を脱ぎなさい」
「……は、はいなのです!」
女の子が急いで脱いだ。
「持ってきなさい」
「はい!」
女に、それを手渡した。女は自分のものも一緒に、
「これ持っていて下さい」
「……俺かよ」
「じゃあ、入りますよ」
女が、もう一度裾をあげて海に近づく。
波が、足先を撫でた。
「きゃっ」
また、悲鳴をあげた。
でも今度はつけたまま。
もう一歩、踏み込む。
「かか様!」
女の子が、近づく。
女はゆっくり息をついて。それからちゃぷちゃぷとゆっくり近づいた。
女の子は、かか様を見ていた。
とと様をにんまりと見る。
とと様もにんまりした。
「……なに、思いついたんだ?」
理由は、よくわからないけれど。
「てやー!」
「ちょっと! 風華!」
「ああ――」
なるほどと男が頷いて。
女の子が、女に水をかけたのだ。
「あはは!」
「うー」
女が、わなわなと震えた。水が落ちる。
女の子が脅えた目つきでとと様を見ると、とと様は俺しらねえと口笛を。
「かか様? 怒ったの? ごめんなさい……」
「……てやー!」
今度は、女の番だった。女の子きょとんと。
それから頭を振って水を落として、笑い出した。
二人の笑い声が重なる。
男はその声を黙って聞いていた。二人分の履き物を持って。
それから、女と女の子の海と戯れる音を聞きながら少しの間その場を離れ。
すぐに、戻ってきた。大きな流木を引っ張りながら。
それに座った。
履き物を、のせた。
二人の姿を映す瞳が縦に細くなり、一瞬その色を変えた。
月の色に似ていた。
「風華、とと様がよいものを持ってきましたよ」
あがりませんか? そう、遊ぶ手をやめ女は言った。
「風華は、もう少し遊ぶのです」
「そう、かか様はもうあがるね」
「はーい」
女があがる。男の隣に座った。
「もう、あがってきたのか」
「遠浅なのですね」
ここなら……
「怖くなったのか?」
「そ、そういうわけではないのです」
「ふーん」
女が男に肩を寄せた。
「まだかなー」
「もうすぐでしょう」
「風が、少しあるな」
女の子が手を振った。
男が振り返した。
「煙を、流してくれますね」
「ああ。風華、もういいのか?」
「はいです!」
小さな悲鳴があがった。
女はすぐに足を引っ込め、男の肩に抱きつき、ふるふると震えた。
男は、愛おしむように女の髪を撫でてやる。
それから、女の耳に囁いた。
「ひどくなってないか?」
「……怖いのです」
「見てみろ」
女の子は、波打ち際で膝を抱えていた。水を触る。ちゃうちゃぷと波が音を鳴らす。
それから、
「てい!」
そう言って、海に踏み込んだ。
「あはは! 冷たいのです!」
水が跳ねる音。ぴちゃぴちゃと、踏み込んでいく。
「風華……」
女の子が振り向いた。
とと様にひしっ! っと脅えた表情を浮かべながらくっつくかか様をみて、
「かか様、もう」
いいです、そう言いかけた。
「履き物を脱ぎなさい」
「……は、はいなのです!」
女の子が急いで脱いだ。
「持ってきなさい」
「はい!」
女に、それを手渡した。女は自分のものも一緒に、
「これ持っていて下さい」
「……俺かよ」
「じゃあ、入りますよ」
女が、もう一度裾をあげて海に近づく。
波が、足先を撫でた。
「きゃっ」
また、悲鳴をあげた。
でも今度はつけたまま。
もう一歩、踏み込む。
「かか様!」
女の子が、近づく。
女はゆっくり息をついて。それからちゃぷちゃぷとゆっくり近づいた。
女の子は、かか様を見ていた。
とと様をにんまりと見る。
とと様もにんまりした。
「……なに、思いついたんだ?」
理由は、よくわからないけれど。
「てやー!」
「ちょっと! 風華!」
「ああ――」
なるほどと男が頷いて。
女の子が、女に水をかけたのだ。
「あはは!」
「うー」
女が、わなわなと震えた。水が落ちる。
女の子が脅えた目つきでとと様を見ると、とと様は俺しらねえと口笛を。
「かか様? 怒ったの? ごめんなさい……」
「……てやー!」
今度は、女の番だった。女の子きょとんと。
それから頭を振って水を落として、笑い出した。
二人の笑い声が重なる。
男はその声を黙って聞いていた。二人分の履き物を持って。
それから、女と女の子の海と戯れる音を聞きながら少しの間その場を離れ。
すぐに、戻ってきた。大きな流木を引っ張りながら。
それに座った。
履き物を、のせた。
二人の姿を映す瞳が縦に細くなり、一瞬その色を変えた。
月の色に似ていた。
「風華、とと様がよいものを持ってきましたよ」
あがりませんか? そう、遊ぶ手をやめ女は言った。
「風華は、もう少し遊ぶのです」
「そう、かか様はもうあがるね」
「はーい」
女があがる。男の隣に座った。
「もう、あがってきたのか」
「遠浅なのですね」
ここなら……
「怖くなったのか?」
「そ、そういうわけではないのです」
「ふーん」
女が男に肩を寄せた。
「まだかなー」
「もうすぐでしょう」
「風が、少しあるな」
女の子が手を振った。
男が振り返した。
「煙を、流してくれますね」
「ああ。風華、もういいのか?」
「はいです!」