小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

愉快な呂布一家~新たな、始まり(1)~

 洛陽のとある食堂。
 そこに、妙な集団が。
 皆、薄茶のゆったりとした布を身に纏っていた。
 顔を、隠していた。
 見たところ、子供も交じっているような。
 赤子が、三人。
 ぐっすりと、眠っていた。
「うーん、お腹空いたあ、貂……違った、厳姉様」
「はいはい、って、呂……違った、奉先様、ケーキ食べたばっかりでしょう」
 赤子を二人あやしながら、そういった。
 その隣の赤子を一人抱えたものが、うんうんと。
「でもねえ、張りょ……また、間違った、張虎、お腹空くもんねえ~」
「うん! そうだよね、呂布姉さま!」
 その名前に、食堂の人間の視線が全て集まった。
 あははと、幼い笑い声。
 まさかなあと、食堂はいつもの賑わいを取り戻す。
「なに、やってるの……」
 静かに怒気をこめて。
「わーん、ごめんなさーい厳姉さまあ」
 怯えた声。
「まあまあ、貂……あら、厳さま、しょうがないですよ」
「雛……あらあら……」
 つまりは、ここにいるのは呂布一党。
 漆黒の戦姫、呂布
 軍師、陳宮
 呂布の義姉、貂蝉
 陥陣営、高順。
 呂布の義妹、張遼
 臧覇魏延
 そして……
「ややこしいな、陳宮殿」
「そうですね、張繍殿」
 張繍、雛。
 賈詡、胡車児も、いた。
 張繍一党。
 それは、少し前に遡る。



呂布様、これから、どうしましょうか?」
 呂布軍軍師、陳宮が尋ねた。
「うん……」
 赤兎に揺られながら、呂布はあいまいな返事をした。
 曹操との二度目の戦。
 それに、敗れた。
 三騎将――魏続、宋憲、侯成が、その命を散らせた。
 今はただ、曹操から逃げるだけ。
 しかし、目的地を決めなければならない。
「どうしよっか……」
「ヘイ州は、どうでしょうか? 呂布様の故郷ですし」
「……駄目だよ……多分、誰も集まってこないよ? みんな、私の事、怖がってるから……」
「そうですか……」
呂布さま」
貂蝉姉様?」
 貂蝉が、馬車から顔を出して話しかけてきた。
 呂布が、腕を上げる。全軍が、止まった。
「一旦、休憩ね!」
 はい、っという兵の返事。
 うんうんと頷くと、呂布が義姉のもとに近づいた。
「どうしたの、貂蝉姉様?」
 知らず知らずのうちに、高順や張遼臧覇魏延もそこに集っていた。
 貂蝉が、馬車から降りようと。それを、高順と張遼が手助けする。
 呂布陳宮も、皆と同じように馬から降りた。
張繍さまは、いかがでしょうか?」
張繍さん……」
「確か、董卓軍にいたもの、ですね」
 陳宮が言った。
「ええ、今は劉表の元で客将をしているはずです。雛さんも、そこに」
 雛とは、ずっと文を交わしていた。大切な、友人。
「そっか、雛さんのところか!」
「あ、懐かしいね、雛さん!」
 呂布張遼の二人がはしゃぐ。
 なんだあ? 誰ですかあ? と、臧覇魏延の二人はぽかーん。
 盛り上がりに、着いていけない。
「なるほど、しかしそれからどうするのです?」
 鼻の上に横一文字の傷をもつ男が言った。
「はあ……か、考えていませんわ、高順様」
「……うーん。劉表のところかあ……」
「待って下さい」
 陳宮が、言った。
「一つ、良い場所があります」
「本当!」
「どこどこ!?」
涼州です。確か、あそこは今定まった主がいないはずです」
 いわゆる、西涼と呼ばれる地域。魔王董卓亡き後、豪族達が割拠していた。
「なるほど……」
「へいへい……お、その団子いいな」
「はあ……僕、もうちょっとお勉強しようっと。あ、その山にトンネル作ろうか」
 臧覇魏延。話に入れないので、二人でいじけて土遊び。
「それは、いい考えかもしれませんね」
「……そう、しよっか。待って、それなら、洛陽に寄れるよね」
「洛陽……」
 貂蝉の表情が変わる。そこには、自分を養い育て、そして殺そうとした男がいるのだ。
涼州に決めた。まず、張繍さんのところへ行って、洛陽を経由して、涼州へ」
 高順が、震える貂蝉の肩に、そっと手を置いた。
貂蝉姉様、それでいい? 私、丁原様のところへ行きたいの……でも、貂蝉姉様が嫌なら……」
 洛陽には、呂布の前の主、丁原が眠っていた。
「それは……張繍さんのところで、少し考えさせて下さい」
「うん……わかった」