小説置き場2

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愉快な呂布一家~新たな、始まり(2)~

「着いたあ!」
 というわけで、到着である。
 呂布軍、無事、荊州に辿り着いた。
 出迎えるわ、張繍、雛。
 照れ臭そうに、手を繋ぎながら、である。
「……あれ?」
「お久し振りです、貂蝉さま!」
「雛さま、お元気になられて……本当に良かったですわ……」
 二人、手を取り合う。
 呂布は、不思議そうに張繍を見ていた。
 何か言おうとして、幸せいっぱいの雛の顔をみて、口にするのをやめた。
「あ……張遼……」
貂蝉……」
 胡車児、賈詡。どちらも、呂布姉妹と縁が深い。
 胡車児は、張遼に敗れて呂布軍を出た。
 賈詡は、王允に命じられ貂蝉を襲った刺客の一人。
 どちらも、複雑な表情を浮かべていた。
「どうしたの、わたしの顔になにかついてる?」
 張遼が、胡車児に話しかけた。
「い、いや」
「なあに、あれ、わたし、あなたと会ったことあったっけ?」
 うーんと頭を捻って、
「そんなことないよね、初対面だよね」
 無邪気に、そう言い放った。
「……」
 胡車児、驚きに打ちひしがれて。
 慌てて高順が、耳打ちする。
「ふんふん……あー、全然覚えてない!」
 ……胡車児、がっくし。
「あらら、私は覚えてるよ」
 呂布がいった。それだけで、胡車児は救われた。
「なあ、どっか建物の中に入らないか? 寒いんだけど」
 臧覇が言った。
「……僕も……」
 魏延も。雪の降る冬、なのだ。
「そ、そうですね。呂布殿、狭い城ですが」
「はーい、お邪魔しまーす」



「新しい……命……」
 貂蝉の大きくなったお腹から、そっと耳を離して、雛が言った。
 女四人。呂布貂蝉張遼、そして雛が一室に。
 薪がぱちぱちと音を立て燃えていた。
「大切に……しないと……」
 私には、もう、縁が無い事だから……
「雛さま?」
「そういうこと、なのです。出来れば、張繍の子を、この手で抱きたかった……」
 泣き、始める。
 ぽんぽんと、雛の背中を貂蝉が叩いた。
 呂布張遼も、ぽんぽんと。



「そうだったのですか……」
「無理が、たたったのです」
 高順、張繍。二人で、酒を酌み交わしていた。
「……奥方、大事になされよ」
「高順殿も……」



「これは……」
 その知らせに、賈詡は愕然とした。
「なんと……」
「おい、どうした?」
胡車児貂蝉殿は?」
「雛さまの部屋にいるが?」
 書状を握りしめると、左手の袖を翻しながら、雛の部屋に向かっていった。



「失礼、します」
「ああ、賈詡さん、どうしたの?」
 幾分、落ち着いたようで。
 雛が、声をかけた。
 貂蝉は、身構えていた。
 何かを、感じたのだ。同じ、臭い。
貂蝉殿に、残念な知らせが」
「残念?」
貂蝉姉様に?」
「ふえ?」
王允殿が、お亡くなりに……」
「え?」
王允殿が、董卓の残党によって、命を奪われたと知らせが」
「……そう……」
 平静を装うとした。
 でも、出来ない。声に震えが。
「嘘……」
「いえ……」
「……亡くなられた……」
 一礼して、賈詡が出ていく。
 目の前が、真っ白になった。
 貂蝉にとって、重要な人間だったから。
 あれ……でも……お腹が、痛い……
「ちょ、貂蝉姉様!」
 呂布がその身体を受け止める。
「あ……貂蝉さま、いけない!」
「す、雛さん!」
張遼さん! すぐにお医者様を!」
「へ? へ、へ?」
「……産まれる」
「ア、アヒー!」



「う……高順様? 呂布さま? ここは……」
 目を開ける。不思議な、感覚。
「病室、です」
 なんだろう……お腹が……ヘッコンデル……
「わ!」
 ガバッと、跳ね起きた。  
「こ、高順様! 変です! いない、いないの!」
「え、ああ」
「ああ、って。赤ちゃん! 私の赤ちゃん!」
「く、苦しい……」
「どこに、どこにいったの!!! 返してよ!」
貂蝉姉さま、高順さんが死んじゃう!」
「だって、だって!」
「……貂蝉姉様!」
 朗らかな声。
 呂布が、何かを抱えていた。泣き声を、あげていた。
 雛も、張遼も、同じように泣き声をあげる何かを。
 高順を、離す。三人から、手渡される。
 理解できなかった。
「あ……れ……あれ……」
「ゴホ……貂蝉様、赤ちゃん、産まれました」
 高順の、声。喜びに、満ち溢れて。
「え……」
「三つ子だって!」
「すごいよ! すごいよ!」
「え……え……」
「陣痛を気になさらないなんて……さすがですね……」
 雛が言った。
 少々、呆れた声。
「あ……」
 やっと、やーっと理解できた。
「私の……私達の……赤ちゃん……」
「ええ」
 陳宮が、呂布様、張遼殿、出ていきましょうと。
 うんと、二人が頷く。
 臧覇魏延に、知らせにいく。
 雛も、一緒に出ていく。
 自分のことのように、喜んで。
「……赤ちゃん……」
「男の子が二人、女の子が、一人。一時はどうなることかと……」
 はあ……
「赤ちゃん……」
「ええ、そうです」
「……嬉……しい」
 ぎゅっと、我が子を抱きしめる。父は、母子の姿をにこやかに眺めていた。



 呂布は、軍を解散した。
 張繍も、である。
 薄茶の布で身を隠した集団が、その夜洛陽に向かって旅立った。
 二人は、赤子を連れていた。