小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

愉快な呂布一家~新たな、始まり(3)~

「赤ちゃん、可愛いね~」
 呂布が言った。
「うん」
 張遼が頷く。
 こしょこしょと、くすぐってみる。ちょこっと、動いた。
「それでは、高順様と貂蝉様は五人で?」
 陳宮の言葉に、二人が頷く。
「私と呂布様、張遼さんは丁原さまのお屋敷へ。他の方々は?」
「適当に、見て回ってくるわ」
「いやあ、楽しみだね~」
 お子様二人は遠足気分。
「我々は、洛陽と涼州を繋ぐ街道に」
 張繍一党。
 彼らは、呂布に従ったのだ。
 張繍と雛にとって、この地にはあまり良い思い出がなかった。
「それじゃあ、見つからないようにね」
 呂布が、言った。



「まさか、張繍さんが仲間になってくれるなんてね~」
「びっくりなのです、呂布姉さま」
「私も、びっくりです」
 話を持ちかけられたときは、正気かと。
 だが、張繍は本気で。
 独立勢力として行き詰まりを感じていたのだ。
 自分の力を、見切っていた。
 劉表に、仕える気もなかった。
 呂布のことはよく知っている、この人なら、そう思ったのだ。
「ああ、みえてきた。懐かしいなあ」
「ここ、ですか」
「うん……」
 荒れた屋敷。
 懐かしい場所。
 かって、呂布丁原と暮らしていた場所。
「変わって……るね」
 張遼が言った。
 張遼も、一緒に暮らしていたのだ。
「うん……」
 三人、屋敷の中へ入っていく。フードを、外した。
 赤兎、黒捷がひんと鳴いた。
「ああ、ここだ」
 大きな、石。そこに呂布は駆け寄った。
「そこに?」
 陳宮が言った。
「うん。丁原様、また、来たよ」
「……来たよ~」
「えっと……その……あ、私は」
 陳宮、もごもご。
「ねえ、丁原様、私、まだ、戦ってるよ」
 陳宮張遼呂布の言葉に耳を傾ける。
「まだ、戦ってる。丁原様と一緒に戦った人達、ほとんど死んじゃった。でも、私は、まだ戦ってる」
 そこで、一息ついた。
「多分、丁原様は私が戦う事、いやだったんだと思うの。でも、それしか出来ないから、ね」
 雪が、降っていた。呂布の頭にも、ちょこっと積もる。
 それを、陳宮が払った。
「……死んだ人は、土に帰るだけ」
 そう、呂布が言った。
「それでも……ここに、来たかった……」
 帰ろうと、言った。
 ここは、帰る場所じゃないから。
 陳宮張遼が頷いた。



王允さま……」
 赤子をあやしながら、貂蝉が言った。
 屋敷は跡形もなく、廃墟になっていた。
 高順も、赤子をあやしながら付き従っていた。
王允さま……」
 もう一度言った。
 王允の遺骸は、ここに、埋められている。
 そこしか、なかったのだ。
 一度は、漢王朝を把握した男にしては、惨めなものだった。
「私が……お傍にいれば……でも、王允さまは、私を切り捨てた。私が、邪魔になって……それでも、私を育ててくれた恩は、忘れません」
 愛憎、二つの感情が、以前は渦を巻いていた。
 今は、憐れみの気持ちが、強くなっていた。
 あの方は、弱い人だったのだと。
「私は、精一杯、いきます。王允さま、それじゃあ……」
 赤子が、泣いた。
 よしよしと、言った。
「もう、いいのですか?」
「ごめんなさい、高順様、私につき合って頂いて。丁原様のところへ、行きたかったでしょうに……」
「いえ……」
 高順が、ぐずり始めた赤子をあやしながら。
「私も、ここで良かったのです」
 屋敷に、誰か近づいてくる。
 貂蝉と高順は顔を見合わせると、その場を、離れた。



貂蝉姉様、もう、いいの?」
呂布さまは?」
「「うん」」
「それじゃあ、涼州へ!」
 呂布の元気な弾けるような声に、全員がうんと頷いた。