小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

愉快な呂布一家~錦(終)~

 龐徳が、少しずつ包囲の輪を縮ませる。
 嫌々ながらも、兵はそれに従う。
 足取りは重い。顔は貰い涙でうるうる。
 それを知ってか知らずか、呂布はよしよしと義妹を慰めていた――



 というわけで、一月振りの更新です^^
 曹操との二度目の大戦にまたも敗れた呂布さんご一行。
 張繍一行を仲間に引き入れて一路涼州へ。
 迷子になった張遼を探しているうちに、馬超を粉砕。
 という状況です^^(どんなんやねん(*´∀`))
 ほらそこ、石を投げるな! あ、投げないで……
 基本的には三国志を元ネタにしていますが、色々なところが「思いっきり」違います。
 そこんとこ、よろしゅう。
 それじゃあ、本編へ……



張遼!」
 包囲の一角が崩れた。人が、薙ぎ飛ばされていく。
 大斧を持った若い男。
 壇上にいる僚友と主の姿を見て、ほっと安心する。
 斧を肩にかつぐと、ゆっくりと近づいていく。
臧覇!」
 呂布さんが言った。
 張遼が、若い男を見て、
臧覇……」
 と、小さな声で言った。
張遼、無事だったのか。にしても、これは……」
「うん……ばれちゃった……」
呂布さまはなんて?」
 気になった。隠していたのだ。
「姉妹だって、いってくれた!」
 それで、わかった。
「あー、臧覇殿、くれぐれも暴れちゃ駄目だって……」
 陳宮。顔が青ざめている。
 声は平静を装っているが――疲れたのだ。
 張繍が、主がその義妹と一緒にいるのに安心し、その足下に倒れている男を見て息を呑んだ。
陳宮殿、まずいですよ。呂布さまの足下にいるの、多分、」
「錦、ですか」
「ええ」
陳宮
 高順が、口を挟んだ。
「なんですか?」
「あそこにいる男は?」
 高順が、右眉の上に傷持つ男を指差した。
 人差し指。
 わなわなと、震えている。
「あれは……馬騰でしょう」
「そうか……あれが、馬騰が」
 剣を抜いた。
 気合いを込めると、高順が走り出した。



「と、と、と、とにかく、馬超だ! 早く助けなければ!」
「落ち着いて下され、馬騰殿!」
 馬騰が慌てている。無理もない。自慢の長子が、あっという間に倒されたのだ。
 龐徳は、あの少女の姿にうっすらと見覚えがあった。
 果物が元で、「殺されそうに」なった気がする。
 はっきりと思い出せないけど。
 呂布だというどよめきが、兵から聞こえた。
 そんな馬鹿なという想いと、あれがそうかという想い。
 二つの思考が、交差した。
 包囲の輪を、縮ませる。この広場に百人。
 それで、足りるだろうかと思った。
 一人に、耳打ちする。
 郊外で調練をやっている馬岱の軍を、呼ぶように告げた。
 人が、飛んだ。
 包囲の一角が崩れる。大斧を持った男に、崩されたのだ。
 どうやら、二人の少女の知り合いらしかった。
 その若い男の後を、ゆっくりと四人の男が続く。
 同じマントを羽織っていて、同じフードを深く被っていた。
 あれも、仲間か。そう、思った。
 一人が、剣を抜いた。フードを、脱いだ。
 顔に、見覚えがあった。
 鼻の上の真一文字の傷。
 龐徳も剣を抜いた。
 男が走り、大きく跳躍する。
 狙っていた。
 馬騰を。
「か!」
「しゃっ!」
 高順と龐徳が、二つの刃をぶつけ合った。
 火花が散る。
 渾身。
 馬騰は、男の顔を知っていた。
 高順が、離れる。
 龐徳の剣を、馬騰が奪った。
「懐かしい、顔だな。確か、チーム陥陣営のリーダーだな。前の髪型」
 それを、高順が遮った。
「傷がうずくんだよ、この傷がよ。てめぇが、馬騰だったとはな!」
「黙れ! うずくというなら俺の傷もうずくは!」
 右眉の傷を指差す。
 口調が、二人とも荒っぽい。
 殺気が込められていた。
「そうか……高順殿の傷は、馬騰につけられたのか……」
「止めなくていいのですか?」
 賈詡が、静かに言った。
「……あ……止めて下さい!」
「わかった」
「わかりました」
 張繍と賈詡、二人がフードを脱いだ。
 兵が、またどよめいた。董卓に仕え、後に独立勢力となった張繍
 顔を知っている者が多いのだ。
「高順……暴れちゃ、駄目!」
 呂布さんが、大きな声を。
 陳宮と義姉の言いつけは、埃を被りながらなんとか頭の片隅に残っていたのだ。
呂布姉さま、聞こえてないみたい」
「むー! んにゅ!」
 よく分からないかけ声を発すると、呂布が二人に飛びかかった。
 後頭部をむんずと掴むと、地面に叩きつける。
 兵が、しんとなった。
 ぷんぷん、起こっている呂布
 冷静に、冷静にと繰り返す陳宮
 唖然となる龐徳、張繍、賈詡。
 ……土に顔を埋めている高順と馬騰
「……一番暴れてるのは、呂布さまじゃねえか……」
 臧覇が小声で。
「そんなことないよー」
「いや、あるだろ」
「あ、貂蝉姉さま!」
 また、人が飛んだ。砂煙の中、女傑が佇む。
 貂蝉、である。やっと現場に参上で。
張遼……やっと見つけた……」
 ほっと胸をなで下ろす。
 魏延胡車児も、武器を構えて。
 雛は目を白黒。
 張遼の姿を目に収めると、黒捷から降りようとした。
 黒捷は、気にせずに歩き出す。
 降りられなかった。
「あ、雛さんも」
魏延胡車児も、か。これで全員揃ったわけだが……どうすんだ」
「さあ?」
 呂布さんが、貂蝉に手を振っている。
 高順を片手で持つと、ぴょんと跳んだ。
 もはや、兵はやる気を完全になくしていた。
 馬超の羽根飾りが、虚しく風に揺られた。
「おし、揃ったね!」
貂蝉姉さま、合いたかったよー」
 張遼が、貂蝉に抱きつこうとした。
「馬鹿!」
 頬を、叩かれる。口を大きく開けて、泣こうという体勢に。
 呂布さん、おろおろ。
「馬鹿……」
 抱き締める。
 張遼が、ごめんなさい、ごめんなさいと言った。
「ええっと、再会を祝うのもいいですが、色々とお聞きしたい事が……」
「なに、陳宮?」
「その、呂布様が触覚……もとい羽根飾りを掴んでる人は?」
「知らない!」
 そう言いながら、触覚に興味しんしんで。
張繍殿」
「間違いないです。馬超、です」
 張繍が役に立っている。
 雛は、なんとなく嬉しかった。
「ふむ、高順殿はこの有様ですが」
「こ、高順様!!!???」
 貂蝉が叫んだ。
 呂布さんが、ばつが悪そうに頭を掻いてるのを見て、はー、っと大きく息を吐いた。
 どん!
 という鈍い音がして、呂布さんの泣き声が聞こえてきた。
 張遼呂布さん、二人が泣くのは、この上なくやかましい。
「ええっと……これじゃあ、話が続きませんよ……」
「はい、二人とも泣き止んで。後で特製ケーキ作ってあげますから」
「「わーい♪(*´∀`)八(*´ワ`)ノ」」
馬騰殿、馬騰殿!」
 龐徳が、馬騰を揺すっていた。
「んぐぐ……高順! あれ、いない」
「気がつきましたか」
「高順さま、高順さま!」
貂蝉さま……」
「お目覚め、ですね」
「……はい」
「それで、陳宮。どうするの?」
馬超は、返しましょう」
 はーいと言うと、近くにいて、怯えていた兵を招き寄せる。
 馬超を、ぽいっと渡す。
 その兵士は、逃げるように、馬騰の元に走っていった。
「ごにょごにょ」
 陳宮呂布さんの耳元で。
 高順、よろよろ。貂蝉に支えられていた。
「うんうん、なるほど、そう言えばいいんだね」
「はい、紙、渡しましょうか? 手の平に書きますか?」
「だいじょうぶだいじょうぶ!」
 すーーーっと、大きく息を吸った。
「えっとね、私、呂布っていうの。知ってる人、多いかな」
 陳宮が額を叩いた。
 全然違うじゃないかと。
「また、曹操さんに負けちゃってね、ここに来ちゃった。また、遠くなっちゃった……
 でもね、まだ、諦めないから。もう、諦められないから……
 えっとね、確か、西平郡。うん、そうだ。私達、そこに居を構えるから。
 文句は、いっぱいあると思う。そこを、治めている人もいるわけで……
 あ、いないの? ごめん、忘れてた。
 というわけで、よろしく!
 私についてくれるなら、それもよし! 
 私に、敵対するなら……そのときは、容赦しない。
 そういうこと! 
 じゃあね!」 
「これで、いいかな」
 振り返る。陳宮の怖い顔。
「全然、違いますが」
「え、そうなの」
呂布様らしいですが……もう一言。王たる証、伝国の玉璽は呂布様の元に。それも、よく覚えておいて下さい」
「伝国の玉璽? なにそれ?」
「これ、ですわ」
 貂蝉が、すっと小袋を差し出す。
 呂布さん、取り出す。
 黄金。黄色の光。
 方々で、声があがる。
 それは、呂布さんご一行にも。
 呂布さんは、興味なさそうだった。
「ふーん」
「大切な、ものです」
「よく、わかんない」
 むんずと、姉に返した。
「増援が、来る。それもかなり多い」
 賈詡が、壇の床に耳をつけて言った。
「えっと……これから、どうするの?」
呂布様!」
「……! 西平郡に行くんだった!」
 あははと笑う。
 この人についていって大丈夫なんだろうかと、元張繍軍の方々は思った。
「黙って通すと思って」
 馬騰は、それ以上言葉を紡ぐ事が出来なかった。
 動けない。
 筋肉が、麻痺している。
 それは、龐徳も配下の兵も同じだった。
 呂布
 漆黒の戦姫。
 その姿を、垣間見せたのだ。
 呂布さんが無邪気に笑う。
 もはや、止めようとする者は誰もいなかった。