愉快な呂布一家~錦(終)~
龐徳が、少しずつ包囲の輪を縮ませる。
嫌々ながらも、兵はそれに従う。
足取りは重い。顔は貰い涙でうるうる。
それを知ってか知らずか、呂布はよしよしと義妹を慰めていた――
というわけで、一月振りの更新です^^
曹操との二度目の大戦にまたも敗れた呂布さんご一行。
張繍一行を仲間に引き入れて一路涼州へ。
迷子になった張遼を探しているうちに、馬超を粉砕。
という状況です^^(どんなんやねん(*´∀`))
ほらそこ、石を投げるな! あ、投げないで……
基本的には三国志を元ネタにしていますが、色々なところが「思いっきり」違います。
そこんとこ、よろしゅう。
それじゃあ、本編へ……
「張遼!」
包囲の一角が崩れた。人が、薙ぎ飛ばされていく。
大斧を持った若い男。
壇上にいる僚友と主の姿を見て、ほっと安心する。
斧を肩にかつぐと、ゆっくりと近づいていく。
「臧覇!」
呂布さんが言った。
張遼が、若い男を見て、
「臧覇……」
と、小さな声で言った。
「張遼、無事だったのか。にしても、これは……」
「うん……ばれちゃった……」
「呂布さまはなんて?」
気になった。隠していたのだ。
「姉妹だって、いってくれた!」
それで、わかった。
「あー、臧覇殿、くれぐれも暴れちゃ駄目だって……」
陳宮。顔が青ざめている。
声は平静を装っているが――疲れたのだ。
張繍が、主がその義妹と一緒にいるのに安心し、その足下に倒れている男を見て息を呑んだ。
「陳宮殿、まずいですよ。呂布さまの足下にいるの、多分、」
「錦、ですか」
「ええ」
「陳宮」
高順が、口を挟んだ。
「なんですか?」
「あそこにいる男は?」
高順が、右眉の上に傷持つ男を指差した。
人差し指。
わなわなと、震えている。
「あれは……馬騰でしょう」
「そうか……あれが、馬騰が」
剣を抜いた。
気合いを込めると、高順が走り出した。
「と、と、と、とにかく、馬超だ! 早く助けなければ!」
「落ち着いて下され、馬騰殿!」
馬騰が慌てている。無理もない。自慢の長子が、あっという間に倒されたのだ。
龐徳は、あの少女の姿にうっすらと見覚えがあった。
果物が元で、「殺されそうに」なった気がする。
はっきりと思い出せないけど。
呂布だというどよめきが、兵から聞こえた。
そんな馬鹿なという想いと、あれがそうかという想い。
二つの思考が、交差した。
包囲の輪を、縮ませる。この広場に百人。
それで、足りるだろうかと思った。
一人に、耳打ちする。
郊外で調練をやっている馬岱の軍を、呼ぶように告げた。
人が、飛んだ。
包囲の一角が崩れる。大斧を持った男に、崩されたのだ。
どうやら、二人の少女の知り合いらしかった。
その若い男の後を、ゆっくりと四人の男が続く。
同じマントを羽織っていて、同じフードを深く被っていた。
あれも、仲間か。そう、思った。
一人が、剣を抜いた。フードを、脱いだ。
顔に、見覚えがあった。
鼻の上の真一文字の傷。
龐徳も剣を抜いた。
男が走り、大きく跳躍する。
狙っていた。
馬騰を。
「か!」
「しゃっ!」
高順と龐徳が、二つの刃をぶつけ合った。
火花が散る。
渾身。
馬騰は、男の顔を知っていた。
高順が、離れる。
龐徳の剣を、馬騰が奪った。
「懐かしい、顔だな。確か、チーム陥陣営のリーダーだな。前の髪型」
それを、高順が遮った。
「傷がうずくんだよ、この傷がよ。てめぇが、馬騰だったとはな!」
「黙れ! うずくというなら俺の傷もうずくは!」
右眉の傷を指差す。
口調が、二人とも荒っぽい。
殺気が込められていた。
「そうか……高順殿の傷は、馬騰につけられたのか……」
「止めなくていいのですか?」
賈詡が、静かに言った。
「……あ……止めて下さい!」
「わかった」
「わかりました」
張繍と賈詡、二人がフードを脱いだ。
兵が、またどよめいた。董卓に仕え、後に独立勢力となった張繍。
顔を知っている者が多いのだ。
「高順……暴れちゃ、駄目!」
呂布さんが、大きな声を。
陳宮と義姉の言いつけは、埃を被りながらなんとか頭の片隅に残っていたのだ。
「呂布姉さま、聞こえてないみたい」
「むー! んにゅ!」
よく分からないかけ声を発すると、呂布が二人に飛びかかった。
後頭部をむんずと掴むと、地面に叩きつける。
兵が、しんとなった。
ぷんぷん、起こっている呂布。
冷静に、冷静にと繰り返す陳宮。
唖然となる龐徳、張繍、賈詡。
……土に顔を埋めている高順と馬騰。
「……一番暴れてるのは、呂布さまじゃねえか……」
臧覇が小声で。
「そんなことないよー」
「いや、あるだろ」
「あ、貂蝉姉さま!」
また、人が飛んだ。砂煙の中、女傑が佇む。
貂蝉、である。やっと現場に参上で。
「張遼……やっと見つけた……」
ほっと胸をなで下ろす。
魏延と胡車児も、武器を構えて。
雛は目を白黒。
張遼の姿を目に収めると、黒捷から降りようとした。
黒捷は、気にせずに歩き出す。
降りられなかった。
「あ、雛さんも」
「魏延と胡車児も、か。これで全員揃ったわけだが……どうすんだ」
「さあ?」
呂布さんが、貂蝉に手を振っている。
高順を片手で持つと、ぴょんと跳んだ。
もはや、兵はやる気を完全になくしていた。
馬超の羽根飾りが、虚しく風に揺られた。
「おし、揃ったね!」
「貂蝉姉さま、合いたかったよー」
張遼が、貂蝉に抱きつこうとした。
「馬鹿!」
頬を、叩かれる。口を大きく開けて、泣こうという体勢に。
呂布さん、おろおろ。
「馬鹿……」
抱き締める。
張遼が、ごめんなさい、ごめんなさいと言った。
「ええっと、再会を祝うのもいいですが、色々とお聞きしたい事が……」
「なに、陳宮?」
「その、呂布様が触覚……もとい羽根飾りを掴んでる人は?」
「知らない!」
そう言いながら、触覚に興味しんしんで。
「張繍殿」
「間違いないです。馬超、です」
張繍が役に立っている。
雛は、なんとなく嬉しかった。
「ふむ、高順殿はこの有様ですが」
「こ、高順様!!!???」
貂蝉が叫んだ。
呂布さんが、ばつが悪そうに頭を掻いてるのを見て、はー、っと大きく息を吐いた。
どん!
という鈍い音がして、呂布さんの泣き声が聞こえてきた。
張遼、呂布さん、二人が泣くのは、この上なくやかましい。
「ええっと……これじゃあ、話が続きませんよ……」
「はい、二人とも泣き止んで。後で特製ケーキ作ってあげますから」
「「わーい♪(*´∀`)八(*´ワ`)ノ」」
「馬騰殿、馬騰殿!」
龐徳が、馬騰を揺すっていた。
「んぐぐ……高順! あれ、いない」
「気がつきましたか」
「高順さま、高順さま!」
「貂蝉さま……」
「お目覚め、ですね」
「……はい」
「それで、陳宮。どうするの?」
「馬超は、返しましょう」
はーいと言うと、近くにいて、怯えていた兵を招き寄せる。
馬超を、ぽいっと渡す。
その兵士は、逃げるように、馬騰の元に走っていった。
「ごにょごにょ」
陳宮が呂布さんの耳元で。
高順、よろよろ。貂蝉に支えられていた。
「うんうん、なるほど、そう言えばいいんだね」
「はい、紙、渡しましょうか? 手の平に書きますか?」
「だいじょうぶだいじょうぶ!」
すーーーっと、大きく息を吸った。
「えっとね、私、呂布っていうの。知ってる人、多いかな」
陳宮が額を叩いた。
全然違うじゃないかと。
「また、曹操さんに負けちゃってね、ここに来ちゃった。また、遠くなっちゃった……
でもね、まだ、諦めないから。もう、諦められないから……
えっとね、確か、西平郡。うん、そうだ。私達、そこに居を構えるから。
文句は、いっぱいあると思う。そこを、治めている人もいるわけで……
あ、いないの? ごめん、忘れてた。
というわけで、よろしく!
私についてくれるなら、それもよし!
私に、敵対するなら……そのときは、容赦しない。
そういうこと!
じゃあね!」
「これで、いいかな」
振り返る。陳宮の怖い顔。
「全然、違いますが」
「え、そうなの」
「呂布様らしいですが……もう一言。王たる証、伝国の玉璽は呂布様の元に。それも、よく覚えておいて下さい」
「伝国の玉璽? なにそれ?」
「これ、ですわ」
貂蝉が、すっと小袋を差し出す。
呂布さん、取り出す。
黄金。黄色の光。
方々で、声があがる。
それは、呂布さんご一行にも。
呂布さんは、興味なさそうだった。
「ふーん」
「大切な、ものです」
「よく、わかんない」
むんずと、姉に返した。
「増援が、来る。それもかなり多い」
賈詡が、壇の床に耳をつけて言った。
「えっと……これから、どうするの?」
「呂布様!」
「……! 西平郡に行くんだった!」
あははと笑う。
この人についていって大丈夫なんだろうかと、元張繍軍の方々は思った。
「黙って通すと思って」
馬騰は、それ以上言葉を紡ぐ事が出来なかった。
動けない。
筋肉が、麻痺している。
それは、龐徳も配下の兵も同じだった。
呂布。
漆黒の戦姫。
その姿を、垣間見せたのだ。
呂布さんが無邪気に笑う。
もはや、止めようとする者は誰もいなかった。
嫌々ながらも、兵はそれに従う。
足取りは重い。顔は貰い涙でうるうる。
それを知ってか知らずか、呂布はよしよしと義妹を慰めていた――
というわけで、一月振りの更新です^^
曹操との二度目の大戦にまたも敗れた呂布さんご一行。
張繍一行を仲間に引き入れて一路涼州へ。
迷子になった張遼を探しているうちに、馬超を粉砕。
という状況です^^(どんなんやねん(*´∀`))
ほらそこ、石を投げるな! あ、投げないで……
基本的には三国志を元ネタにしていますが、色々なところが「思いっきり」違います。
そこんとこ、よろしゅう。
それじゃあ、本編へ……
「張遼!」
包囲の一角が崩れた。人が、薙ぎ飛ばされていく。
大斧を持った若い男。
壇上にいる僚友と主の姿を見て、ほっと安心する。
斧を肩にかつぐと、ゆっくりと近づいていく。
「臧覇!」
呂布さんが言った。
張遼が、若い男を見て、
「臧覇……」
と、小さな声で言った。
「張遼、無事だったのか。にしても、これは……」
「うん……ばれちゃった……」
「呂布さまはなんて?」
気になった。隠していたのだ。
「姉妹だって、いってくれた!」
それで、わかった。
「あー、臧覇殿、くれぐれも暴れちゃ駄目だって……」
陳宮。顔が青ざめている。
声は平静を装っているが――疲れたのだ。
張繍が、主がその義妹と一緒にいるのに安心し、その足下に倒れている男を見て息を呑んだ。
「陳宮殿、まずいですよ。呂布さまの足下にいるの、多分、」
「錦、ですか」
「ええ」
「陳宮」
高順が、口を挟んだ。
「なんですか?」
「あそこにいる男は?」
高順が、右眉の上に傷持つ男を指差した。
人差し指。
わなわなと、震えている。
「あれは……馬騰でしょう」
「そうか……あれが、馬騰が」
剣を抜いた。
気合いを込めると、高順が走り出した。
「と、と、と、とにかく、馬超だ! 早く助けなければ!」
「落ち着いて下され、馬騰殿!」
馬騰が慌てている。無理もない。自慢の長子が、あっという間に倒されたのだ。
龐徳は、あの少女の姿にうっすらと見覚えがあった。
果物が元で、「殺されそうに」なった気がする。
はっきりと思い出せないけど。
呂布だというどよめきが、兵から聞こえた。
そんな馬鹿なという想いと、あれがそうかという想い。
二つの思考が、交差した。
包囲の輪を、縮ませる。この広場に百人。
それで、足りるだろうかと思った。
一人に、耳打ちする。
郊外で調練をやっている馬岱の軍を、呼ぶように告げた。
人が、飛んだ。
包囲の一角が崩れる。大斧を持った男に、崩されたのだ。
どうやら、二人の少女の知り合いらしかった。
その若い男の後を、ゆっくりと四人の男が続く。
同じマントを羽織っていて、同じフードを深く被っていた。
あれも、仲間か。そう、思った。
一人が、剣を抜いた。フードを、脱いだ。
顔に、見覚えがあった。
鼻の上の真一文字の傷。
龐徳も剣を抜いた。
男が走り、大きく跳躍する。
狙っていた。
馬騰を。
「か!」
「しゃっ!」
高順と龐徳が、二つの刃をぶつけ合った。
火花が散る。
渾身。
馬騰は、男の顔を知っていた。
高順が、離れる。
龐徳の剣を、馬騰が奪った。
「懐かしい、顔だな。確か、チーム陥陣営のリーダーだな。前の髪型」
それを、高順が遮った。
「傷がうずくんだよ、この傷がよ。てめぇが、馬騰だったとはな!」
「黙れ! うずくというなら俺の傷もうずくは!」
右眉の傷を指差す。
口調が、二人とも荒っぽい。
殺気が込められていた。
「そうか……高順殿の傷は、馬騰につけられたのか……」
「止めなくていいのですか?」
賈詡が、静かに言った。
「……あ……止めて下さい!」
「わかった」
「わかりました」
張繍と賈詡、二人がフードを脱いだ。
兵が、またどよめいた。董卓に仕え、後に独立勢力となった張繍。
顔を知っている者が多いのだ。
「高順……暴れちゃ、駄目!」
呂布さんが、大きな声を。
陳宮と義姉の言いつけは、埃を被りながらなんとか頭の片隅に残っていたのだ。
「呂布姉さま、聞こえてないみたい」
「むー! んにゅ!」
よく分からないかけ声を発すると、呂布が二人に飛びかかった。
後頭部をむんずと掴むと、地面に叩きつける。
兵が、しんとなった。
ぷんぷん、起こっている呂布。
冷静に、冷静にと繰り返す陳宮。
唖然となる龐徳、張繍、賈詡。
……土に顔を埋めている高順と馬騰。
「……一番暴れてるのは、呂布さまじゃねえか……」
臧覇が小声で。
「そんなことないよー」
「いや、あるだろ」
「あ、貂蝉姉さま!」
また、人が飛んだ。砂煙の中、女傑が佇む。
貂蝉、である。やっと現場に参上で。
「張遼……やっと見つけた……」
ほっと胸をなで下ろす。
魏延と胡車児も、武器を構えて。
雛は目を白黒。
張遼の姿を目に収めると、黒捷から降りようとした。
黒捷は、気にせずに歩き出す。
降りられなかった。
「あ、雛さんも」
「魏延と胡車児も、か。これで全員揃ったわけだが……どうすんだ」
「さあ?」
呂布さんが、貂蝉に手を振っている。
高順を片手で持つと、ぴょんと跳んだ。
もはや、兵はやる気を完全になくしていた。
馬超の羽根飾りが、虚しく風に揺られた。
「おし、揃ったね!」
「貂蝉姉さま、合いたかったよー」
張遼が、貂蝉に抱きつこうとした。
「馬鹿!」
頬を、叩かれる。口を大きく開けて、泣こうという体勢に。
呂布さん、おろおろ。
「馬鹿……」
抱き締める。
張遼が、ごめんなさい、ごめんなさいと言った。
「ええっと、再会を祝うのもいいですが、色々とお聞きしたい事が……」
「なに、陳宮?」
「その、呂布様が触覚……もとい羽根飾りを掴んでる人は?」
「知らない!」
そう言いながら、触覚に興味しんしんで。
「張繍殿」
「間違いないです。馬超、です」
張繍が役に立っている。
雛は、なんとなく嬉しかった。
「ふむ、高順殿はこの有様ですが」
「こ、高順様!!!???」
貂蝉が叫んだ。
呂布さんが、ばつが悪そうに頭を掻いてるのを見て、はー、っと大きく息を吐いた。
どん!
という鈍い音がして、呂布さんの泣き声が聞こえてきた。
張遼、呂布さん、二人が泣くのは、この上なくやかましい。
「ええっと……これじゃあ、話が続きませんよ……」
「はい、二人とも泣き止んで。後で特製ケーキ作ってあげますから」
「「わーい♪(*´∀`)八(*´ワ`)ノ」」
「馬騰殿、馬騰殿!」
龐徳が、馬騰を揺すっていた。
「んぐぐ……高順! あれ、いない」
「気がつきましたか」
「高順さま、高順さま!」
「貂蝉さま……」
「お目覚め、ですね」
「……はい」
「それで、陳宮。どうするの?」
「馬超は、返しましょう」
はーいと言うと、近くにいて、怯えていた兵を招き寄せる。
馬超を、ぽいっと渡す。
その兵士は、逃げるように、馬騰の元に走っていった。
「ごにょごにょ」
陳宮が呂布さんの耳元で。
高順、よろよろ。貂蝉に支えられていた。
「うんうん、なるほど、そう言えばいいんだね」
「はい、紙、渡しましょうか? 手の平に書きますか?」
「だいじょうぶだいじょうぶ!」
すーーーっと、大きく息を吸った。
「えっとね、私、呂布っていうの。知ってる人、多いかな」
陳宮が額を叩いた。
全然違うじゃないかと。
「また、曹操さんに負けちゃってね、ここに来ちゃった。また、遠くなっちゃった……
でもね、まだ、諦めないから。もう、諦められないから……
えっとね、確か、西平郡。うん、そうだ。私達、そこに居を構えるから。
文句は、いっぱいあると思う。そこを、治めている人もいるわけで……
あ、いないの? ごめん、忘れてた。
というわけで、よろしく!
私についてくれるなら、それもよし!
私に、敵対するなら……そのときは、容赦しない。
そういうこと!
じゃあね!」
「これで、いいかな」
振り返る。陳宮の怖い顔。
「全然、違いますが」
「え、そうなの」
「呂布様らしいですが……もう一言。王たる証、伝国の玉璽は呂布様の元に。それも、よく覚えておいて下さい」
「伝国の玉璽? なにそれ?」
「これ、ですわ」
貂蝉が、すっと小袋を差し出す。
呂布さん、取り出す。
黄金。黄色の光。
方々で、声があがる。
それは、呂布さんご一行にも。
呂布さんは、興味なさそうだった。
「ふーん」
「大切な、ものです」
「よく、わかんない」
むんずと、姉に返した。
「増援が、来る。それもかなり多い」
賈詡が、壇の床に耳をつけて言った。
「えっと……これから、どうするの?」
「呂布様!」
「……! 西平郡に行くんだった!」
あははと笑う。
この人についていって大丈夫なんだろうかと、元張繍軍の方々は思った。
「黙って通すと思って」
馬騰は、それ以上言葉を紡ぐ事が出来なかった。
動けない。
筋肉が、麻痺している。
それは、龐徳も配下の兵も同じだった。
呂布。
漆黒の戦姫。
その姿を、垣間見せたのだ。
呂布さんが無邪気に笑う。
もはや、止めようとする者は誰もいなかった。