愉快な呂布一家~再起(2)~
「……こんなところに?」
松明の灯りを頼りにたんたんと階段を下っていく。
目に、刀傷。
元・袁術筆頭武将紀霊であった。
扉が見えた。
とんとんと、叩く。
中から悲鳴が聞こえた。
散らかす音。
切羽詰まった金切り声。
「袁紹様!?」
袁紹、ついでに顔良と文醜も探すよう、時折話しかけられるになった田豊に頼まれたのだ。
否定すれば、どうなるか分からない。
自分達があまり良く思われていないことは、肌で感じていた。
慣れぬ城内をうろうろしていると、袁紹長女・甄洛に、
「紀霊姉さま、多分あそこだと……」
そう、地下のこの場所を教えられた。
くれぐれも、秘密だとも。
姉さまというのが少々くすぐったかったが、早く終えて看病に戻りたかったので謝辞するとすぐにその場所へ。
そして――
「袁紹……な……」
「き、紀霊……えっと、これはね、そのね」
河北の覇者・袁紹、しどろもどろ。
袁紹自慢の二枚看板、顔良・文醜、魂抜けて。
「……田豊殿が袁紹様のことをお探しです。そ、それでは……」
紀霊が去っていく。
その間、ぎこちない笑みを三人は浮かべていた。
「……」
「……」
「……あれー」
「「殿ー!!!!!!」」
「可笑しいな、この場所は……甄洛か!?」
「甄洛様……紀霊殿のこと、慕っていますもんねー」
「って、どうすんっすか! 露骨に嫌そうな顔してましたよ!」
「馬鹿! 顔良!」
袁紹が言った。
「も、申し訳ないです……」
「でも、これはなー」
一面、呂布さんグッズ一色。
名門呂布倶楽部、会報製作所。
編集者、袁紹。
写真、顔良。
文、文醜。
お手伝い、甄洛、他々。
「どうしよう……」
ハァっと、三人溜息を吐いた。
誤解が生じた……誤解?
顔良・文醜はただの手伝いである。
「……呂布って、呂布って、呂布って……あぁ、もう!」
紀霊は、呂布のことが嫌いだった。
自分達を破ったのが、呂布だ。
それがなければ、袁術様が苦しまれる事はなかったのだ。
「おぉ、紀霊。呂布が」
病室。
紀霊の愛しい人が、楽就と話をしていた。
扉を乱暴に開けた紀霊に、そう話しかけた。
「ムキィー!!!」
「……?」
「寝てなくちゃ駄目です! 楽就! お前もちょっとは考えて!」
「へ……」
「あぁ、もう!!!」
なにがあったんだろうと、大人しく横になりながら袁術は思った。
涼州で、呂布が蜂起したと教えようと思ったのに。
「グ!」
「孫策様……」
小覇王、孫策。苦しんでいた。
毒が、全身に廻り、その身体を苦しめる。
大喬が、付きっきりで看病していた。
「大喬様、孫策の具合は?」
「周瑜様……よく、ありません。よく、なりません! 一体どうすれば」
大喬が顔を覆った。
「しゅ……」
孫策が、声を出した。
朧のような霞がかった声。
大喬が、痩せたその手を強く強く握った。
「孫策!」
珍しいことだった。いつも、意識がない。
時折、僅かに戻るときがある。
「周瑜……于吉を呼べ……」
「于吉だと」
導師、于吉。
獄に落とされていた。
「あれは……呂布」
「呂布、ですって?」
強く握って、胸に力をこめて。
孫策が、かたっと起こしていた顔を落とした。
「……と、とりあえず、于吉連れてきますね」
孫策、愛する妻の手によって絶命す。
……しかけ。
「于吉」
「美周朗か……儂に、何のようじゃ」
濁った息を吐いた。
牢に入れられ、満足に風呂に入っていないのだろう。
着物も汚れていた。
「孫策が、回復しないのだ。お前の手を借りたい」
「……ふざけるな。無実」
「なにが無実だ。人の嫁さんに撲殺された男がなにをいう」
于吉は、大喬・小喬に捕らえられた。
領内で、その優れた幻術の力で下着泥棒をしていたのだ。
しかし、孫策を凌ぐ二人に、勝てるはずもなくお縄になってしまった。
「嫁さん、強いね」
「はい」
「……」
「……」
「で?」
「孫策の毒は、華佗殿が造ったものだ」
「華佗か……それは、興味がそそられるな」
華佗は、于吉の弟弟子であった。
「あれが、今ではこの国一の医術者じゃからなー」
じゃが、それだけでは動けぬ。
かっと、臭い息を吐いて笑った。
「呂布殿」
明らかに、于吉が動揺した。
「最近、長江呂布水軍という会が発足したのだが……会報の編集者が欲しいらしい」
「……」
「誰かいないかなー」
色々と、秘蔵グッズがもらえるらしいけど。
「……華佗と儂、どちらが上か試してみようぞ!」
「よおっし!」
「ハハハ」
「ハハハ」
「どうして?」
「それは、色々とあるのですわ」
「そ、そうですね」
「へー」
呂布さんが、きらきらと尊敬の眼差しで信頼する軍師と義姉の顔を見た。
「あ、あと子育て用品も」
「わ、わかりました」
臧覇、胡車児は特にないという。
二人とも、項目に二重線を引いていた。
張繍は、雛に布団がもう一枚欲しいと言った。
「大体、そんなところですか」
「はいはい!」
「呂布様?」
「呂布さま、おやつは」
「違うの! 鎧が欲しいの!」
「鎧?」
「真っ黒に染めた鎧を、二十足欲しいの」
漆黒の騎馬隊。
以前、呂布さんが率い、諸侯を震え上がらせた最強の騎馬隊。
「私の麾下の人は、黒い鎧。あと、魏延の分も。魏延には薙刀も作ってあげて。今のだと、ちょっと扱いずらそうだから」
「それは……魏延殿も、呂布さまの麾下に?」
陳宮が言った。
魏延は呂布さんの従者という立場だった。
「魏延は、私の騎馬隊の隊長!」
それを聞いて、魏延が卒倒した。
「ぎ、魏延!」
「つ……続けて……」
赤面、赤面。
がくっとしなだれた。
「魏延ー!!!」
「……大丈夫じゃないでしょうか」
雛が、魏延の脈を測って。
「本当、雛さま?」
「ええ、元気ですよ」
よかったーと、胸を撫で下ろした。
「二十でいいんですね」
「それだけしか、いなかったもの」
三千の兵の中で、二十人。
精鋭、であった。
呂布さんの居城に兵が向かう。
十部軍が黙っているわけがなかったのだ。
成宜、李堪。そして……
「兄様の仇!」
――馬超の従妹、馬岱、見参。
松明の灯りを頼りにたんたんと階段を下っていく。
目に、刀傷。
元・袁術筆頭武将紀霊であった。
扉が見えた。
とんとんと、叩く。
中から悲鳴が聞こえた。
散らかす音。
切羽詰まった金切り声。
「袁紹様!?」
袁紹、ついでに顔良と文醜も探すよう、時折話しかけられるになった田豊に頼まれたのだ。
否定すれば、どうなるか分からない。
自分達があまり良く思われていないことは、肌で感じていた。
慣れぬ城内をうろうろしていると、袁紹長女・甄洛に、
「紀霊姉さま、多分あそこだと……」
そう、地下のこの場所を教えられた。
くれぐれも、秘密だとも。
姉さまというのが少々くすぐったかったが、早く終えて看病に戻りたかったので謝辞するとすぐにその場所へ。
そして――
「袁紹……な……」
「き、紀霊……えっと、これはね、そのね」
河北の覇者・袁紹、しどろもどろ。
袁紹自慢の二枚看板、顔良・文醜、魂抜けて。
「……田豊殿が袁紹様のことをお探しです。そ、それでは……」
紀霊が去っていく。
その間、ぎこちない笑みを三人は浮かべていた。
「……」
「……」
「……あれー」
「「殿ー!!!!!!」」
「可笑しいな、この場所は……甄洛か!?」
「甄洛様……紀霊殿のこと、慕っていますもんねー」
「って、どうすんっすか! 露骨に嫌そうな顔してましたよ!」
「馬鹿! 顔良!」
袁紹が言った。
「も、申し訳ないです……」
「でも、これはなー」
一面、呂布さんグッズ一色。
名門呂布倶楽部、会報製作所。
編集者、袁紹。
写真、顔良。
文、文醜。
お手伝い、甄洛、他々。
「どうしよう……」
ハァっと、三人溜息を吐いた。
誤解が生じた……誤解?
顔良・文醜はただの手伝いである。
「……呂布って、呂布って、呂布って……あぁ、もう!」
紀霊は、呂布のことが嫌いだった。
自分達を破ったのが、呂布だ。
それがなければ、袁術様が苦しまれる事はなかったのだ。
「おぉ、紀霊。呂布が」
病室。
紀霊の愛しい人が、楽就と話をしていた。
扉を乱暴に開けた紀霊に、そう話しかけた。
「ムキィー!!!」
「……?」
「寝てなくちゃ駄目です! 楽就! お前もちょっとは考えて!」
「へ……」
「あぁ、もう!!!」
なにがあったんだろうと、大人しく横になりながら袁術は思った。
涼州で、呂布が蜂起したと教えようと思ったのに。
「グ!」
「孫策様……」
小覇王、孫策。苦しんでいた。
毒が、全身に廻り、その身体を苦しめる。
大喬が、付きっきりで看病していた。
「大喬様、孫策の具合は?」
「周瑜様……よく、ありません。よく、なりません! 一体どうすれば」
大喬が顔を覆った。
「しゅ……」
孫策が、声を出した。
朧のような霞がかった声。
大喬が、痩せたその手を強く強く握った。
「孫策!」
珍しいことだった。いつも、意識がない。
時折、僅かに戻るときがある。
「周瑜……于吉を呼べ……」
「于吉だと」
導師、于吉。
獄に落とされていた。
「あれは……呂布」
「呂布、ですって?」
強く握って、胸に力をこめて。
孫策が、かたっと起こしていた顔を落とした。
「……と、とりあえず、于吉連れてきますね」
孫策、愛する妻の手によって絶命す。
……しかけ。
「于吉」
「美周朗か……儂に、何のようじゃ」
濁った息を吐いた。
牢に入れられ、満足に風呂に入っていないのだろう。
着物も汚れていた。
「孫策が、回復しないのだ。お前の手を借りたい」
「……ふざけるな。無実」
「なにが無実だ。人の嫁さんに撲殺された男がなにをいう」
于吉は、大喬・小喬に捕らえられた。
領内で、その優れた幻術の力で下着泥棒をしていたのだ。
しかし、孫策を凌ぐ二人に、勝てるはずもなくお縄になってしまった。
「嫁さん、強いね」
「はい」
「……」
「……」
「で?」
「孫策の毒は、華佗殿が造ったものだ」
「華佗か……それは、興味がそそられるな」
華佗は、于吉の弟弟子であった。
「あれが、今ではこの国一の医術者じゃからなー」
じゃが、それだけでは動けぬ。
かっと、臭い息を吐いて笑った。
「呂布殿」
明らかに、于吉が動揺した。
「最近、長江呂布水軍という会が発足したのだが……会報の編集者が欲しいらしい」
「……」
「誰かいないかなー」
色々と、秘蔵グッズがもらえるらしいけど。
「……華佗と儂、どちらが上か試してみようぞ!」
「よおっし!」
「ハハハ」
「ハハハ」
「どうして?」
「それは、色々とあるのですわ」
「そ、そうですね」
「へー」
呂布さんが、きらきらと尊敬の眼差しで信頼する軍師と義姉の顔を見た。
「あ、あと子育て用品も」
「わ、わかりました」
臧覇、胡車児は特にないという。
二人とも、項目に二重線を引いていた。
張繍は、雛に布団がもう一枚欲しいと言った。
「大体、そんなところですか」
「はいはい!」
「呂布様?」
「呂布さま、おやつは」
「違うの! 鎧が欲しいの!」
「鎧?」
「真っ黒に染めた鎧を、二十足欲しいの」
漆黒の騎馬隊。
以前、呂布さんが率い、諸侯を震え上がらせた最強の騎馬隊。
「私の麾下の人は、黒い鎧。あと、魏延の分も。魏延には薙刀も作ってあげて。今のだと、ちょっと扱いずらそうだから」
「それは……魏延殿も、呂布さまの麾下に?」
陳宮が言った。
魏延は呂布さんの従者という立場だった。
「魏延は、私の騎馬隊の隊長!」
それを聞いて、魏延が卒倒した。
「ぎ、魏延!」
「つ……続けて……」
赤面、赤面。
がくっとしなだれた。
「魏延ー!!!」
「……大丈夫じゃないでしょうか」
雛が、魏延の脈を測って。
「本当、雛さま?」
「ええ、元気ですよ」
よかったーと、胸を撫で下ろした。
「二十でいいんですね」
「それだけしか、いなかったもの」
三千の兵の中で、二十人。
精鋭、であった。
呂布さんの居城に兵が向かう。
十部軍が黙っているわけがなかったのだ。
成宜、李堪。そして……
「兄様の仇!」
――馬超の従妹、馬岱、見参。