あやかし姫番外編~やつあしとびわ(6)~
日の出を眺めるのは、久し振りであった。
朝は寝ていることの方が多いのだ。
今日は違った。
あの後、一睡もしていない。
家の中を覗く。
女は、眠っているようであった。横になっている。
琵琶は、なかった。
ふと、虫の気配を感じた。
長い太い百足が、家の中に入ろうとしていた。
それを、黒之丞は目を細めて見ていた。
去れ、と、口を動かす。
百足は、一瞬動きを止めたが、また、隙間から潜り込もうとした。
糸が飛んだ。
白い――
細い――
糸。
百足につく。隙間から引きずり出す。
百脚持つ虫は、黒之丞の口の中に放り込まれた。
「朝めしか」
そう呟くと、黒之丞が、その場を離れていく。
女はまだ、眠ったままであった。
騒がしい。
そう、思った。
女の古ぼけた家。
騒々しい。
少し、歩を早めた。
人がいる。男。
家の中にも、いるようであった。
男は、黒之丞に気づいていない。
もう少し、歩を早める。音を立てないように注意しながら。
黒之丞は、男の後ろに立つと、そっと肩を叩いた。
「うおっ! な、なんだよ、驚かすな!」
「……なにを、している?」
家の中が静かになる。
男が二人、中から出てきた。刀を肩に担いでいる。
女が、壁の方に頭を抱えて震えているのが見えた。
「なにを、している?」
「あんだぁ、兄さん!」
「あんた、この女の知り合いか?」
兄貴分なのだろう。
頬に傷のある男が、若い男を押さえて言った。
「知り合い……そうだな、知り合いだな」
確かめるように、言う。
女の方を見やったが、震えるだけで何もわかっていないようであった。
「じゃあ、知ってるだろう。この女が金を借りてるってことは。俺たちは、金を返してもらいに来ただけだ。悪いか」
「……金は、ないはずだ」
「……知ってるよ」
男が、嗤った。
「金目のものも、みなもらった。それでも足りないのでね。琵琶を、貰いに来た。嫌なら金を用意しろと言ったんだがね。この有様だ」
「琵琶だけは……」
女が、震えながら懇願するように呻いた。
「やかましい! 隠してないで、とっととだせや!」
男が、声色を変える。
威圧するように。
「今日か」
「今日までだ。三日、待った」
それで、か。
ぼんやりと考える。
それで、食べてほしかったのか。
ぼんやりと、考えた。
男は、戸惑っていた。
気味が悪いのだ。
猫背。大きな目。長い手。
そう、大きくはない。細く、力があるようには見えない。
それでも、気味悪さは消えない。
「去れ」
黒之丞が、言った。
「なに」
もう一度、去れと言う。
それを合図に若い男が、顔を真っ赤にして黒之丞に掴みかかった。
朝は寝ていることの方が多いのだ。
今日は違った。
あの後、一睡もしていない。
家の中を覗く。
女は、眠っているようであった。横になっている。
琵琶は、なかった。
ふと、虫の気配を感じた。
長い太い百足が、家の中に入ろうとしていた。
それを、黒之丞は目を細めて見ていた。
去れ、と、口を動かす。
百足は、一瞬動きを止めたが、また、隙間から潜り込もうとした。
糸が飛んだ。
白い――
細い――
糸。
百足につく。隙間から引きずり出す。
百脚持つ虫は、黒之丞の口の中に放り込まれた。
「朝めしか」
そう呟くと、黒之丞が、その場を離れていく。
女はまだ、眠ったままであった。
騒がしい。
そう、思った。
女の古ぼけた家。
騒々しい。
少し、歩を早めた。
人がいる。男。
家の中にも、いるようであった。
男は、黒之丞に気づいていない。
もう少し、歩を早める。音を立てないように注意しながら。
黒之丞は、男の後ろに立つと、そっと肩を叩いた。
「うおっ! な、なんだよ、驚かすな!」
「……なにを、している?」
家の中が静かになる。
男が二人、中から出てきた。刀を肩に担いでいる。
女が、壁の方に頭を抱えて震えているのが見えた。
「なにを、している?」
「あんだぁ、兄さん!」
「あんた、この女の知り合いか?」
兄貴分なのだろう。
頬に傷のある男が、若い男を押さえて言った。
「知り合い……そうだな、知り合いだな」
確かめるように、言う。
女の方を見やったが、震えるだけで何もわかっていないようであった。
「じゃあ、知ってるだろう。この女が金を借りてるってことは。俺たちは、金を返してもらいに来ただけだ。悪いか」
「……金は、ないはずだ」
「……知ってるよ」
男が、嗤った。
「金目のものも、みなもらった。それでも足りないのでね。琵琶を、貰いに来た。嫌なら金を用意しろと言ったんだがね。この有様だ」
「琵琶だけは……」
女が、震えながら懇願するように呻いた。
「やかましい! 隠してないで、とっととだせや!」
男が、声色を変える。
威圧するように。
「今日か」
「今日までだ。三日、待った」
それで、か。
ぼんやりと考える。
それで、食べてほしかったのか。
ぼんやりと、考えた。
男は、戸惑っていた。
気味が悪いのだ。
猫背。大きな目。長い手。
そう、大きくはない。細く、力があるようには見えない。
それでも、気味悪さは消えない。
「去れ」
黒之丞が、言った。
「なに」
もう一度、去れと言う。
それを合図に若い男が、顔を真っ赤にして黒之丞に掴みかかった。