小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫番外編~やつあしとびわ(6)~

 日の出を眺めるのは、久し振りであった。
 朝は寝ていることの方が多いのだ。
 今日は違った。
 あの後、一睡もしていない。
 家の中を覗く。
 女は、眠っているようであった。横になっている。
 琵琶は、なかった。
 ふと、虫の気配を感じた。
 長い太い百足が、家の中に入ろうとしていた。
 それを、黒之丞は目を細めて見ていた。
 去れ、と、口を動かす。
 百足は、一瞬動きを止めたが、また、隙間から潜り込もうとした。
 糸が飛んだ。
 白い――
 細い――
 糸。
 百足につく。隙間から引きずり出す。
 百脚持つ虫は、黒之丞の口の中に放り込まれた。
「朝めしか」
 そう呟くと、黒之丞が、その場を離れていく。
 女はまだ、眠ったままであった。



 騒がしい。
 そう、思った。
 女の古ぼけた家。
 騒々しい。
 少し、歩を早めた。
 人がいる。男。
 家の中にも、いるようであった。
 男は、黒之丞に気づいていない。
 もう少し、歩を早める。音を立てないように注意しながら。
 黒之丞は、男の後ろに立つと、そっと肩を叩いた。
「うおっ! な、なんだよ、驚かすな!」
「……なにを、している?」
 家の中が静かになる。
 男が二人、中から出てきた。刀を肩に担いでいる。
 女が、壁の方に頭を抱えて震えているのが見えた。
「なにを、している?」
「あんだぁ、兄さん!」
「あんた、この女の知り合いか?」
 兄貴分なのだろう。
 頬に傷のある男が、若い男を押さえて言った。
「知り合い……そうだな、知り合いだな」
 確かめるように、言う。
 女の方を見やったが、震えるだけで何もわかっていないようであった。
「じゃあ、知ってるだろう。この女が金を借りてるってことは。俺たちは、金を返してもらいに来ただけだ。悪いか」
「……金は、ないはずだ」
「……知ってるよ」
 男が、嗤った。
「金目のものも、みなもらった。それでも足りないのでね。琵琶を、貰いに来た。嫌なら金を用意しろと言ったんだがね。この有様だ」
「琵琶だけは……」
 女が、震えながら懇願するように呻いた。
「やかましい! 隠してないで、とっととだせや!」
 男が、声色を変える。
 威圧するように。
「今日か」
「今日までだ。三日、待った」
 それで、か。
 ぼんやりと考える。
 それで、食べてほしかったのか。
 ぼんやりと、考えた。
 男は、戸惑っていた。
 気味が悪いのだ。
 猫背。大きな目。長い手。
 そう、大きくはない。細く、力があるようには見えない。
 それでも、気味悪さは消えない。
「去れ」
 黒之丞が、言った。
「なに」
 もう一度、去れと言う。
 それを合図に若い男が、顔を真っ赤にして黒之丞に掴みかかった。