小説置き場2

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あやかし姫番外編~鬼之姫と(14)~

「……坊主……」
 揺れが、収まった。
 痛くない。
 光は、おそるおそる目を開けた。
 目を大きくしている朱桜ちゃんが、自分の顔の真ん前に。
 よかった。
 元気そう。
 身体を、起こす。
 こつん。
 何かに、ぶつかった。
 後ろを向く。
 お内裏様が、倒れ掛けの姿勢で、そこにあった。
「坊主、とっとと離れろ」
 聞き覚えのある声。
 多分、四天王の人のどれか。
「あ、はい!」
 朱桜から離れると、光は、
「大丈夫? 怪我、ない?」
 そう、尋ねた。
 うんうんと頷く朱桜。光は首を傾げると、
「ほっぺたが赤いけど大丈夫?」
 そう、重ねて。
 ぼやーっと上体を起こすと、朱桜はうんとまた一つ頷いた。
「び、びっくりしたー」
 お雛様の前。
 白月が座っていた。座り込んでいた。
 すりすりと座ったまま移動すると、
「無事か! 二人とも、無事か!」
 そう、言った。
 こくんと、頷き合う二人。
 やっと白月は喜んだ。
「よかったー」
 三人、座ったままお内裏様を眺めた。
「金熊さん、ありがとうですよ」
 朱桜が、言った。
 お内裏様が元の場所に戻る。
 その後ろから、金熊童子が姿を見せた。
「危ういところでした。全く、これが倒れようとは」
 じっと見ていた金熊童子
 彼が、崩れる人形を支えたのだ。
地震ですね……」
「あれが地震
 ほーっと白月は声を出した。
「よっと。三人とも、無事かい?」
 鬼姫の声。懐には鈴の姿。
 雛壇を登ってきたのだ。
「金熊」
「星熊、これは、土蜘蛛を呼んだ方がいいぞ」
「そう、主に伝えておこう」
 嫌な汗をかいた。
 地が震え、目に映ったのは、人形が倒れんとする光景。
 あそこには、朱桜達がいた。
 人形は、重い。
 のし掛かられたら、大惨事になるところであった。
 ぽんと立ち上がると、白月が、身振り手振りで鬼姫に状況を説明し始めた。
「ふんふん、ふんふんふん……さっぱりわかんない、もう一回」
 そう言われると、がーんとなる雪妖の幼子。
 また必死に身振り手振り。
 鬼姫は……やぱりわかんないと、首を傾げた。
「金熊、えっと……」
 星熊が、弟の耳元で。
 朱桜はぼーっとしていて、
 光は心配そうにしていて、
 白月は混乱していて。
 一体、何があったのだと。
「ん……」
 金熊が口を開くよりも早く、
地震があって、お内裏様が倒れそうになって、そしたら、光君が私を守ろうとしてくれて、金熊さんが助けてくれたですよ」
 朱桜がさらりと一息で言った。
 鬼姫が、そういうこと? 
 と、白月に尋ねた。
「そうじゃ! さっきから言っておるじゃろ!」 
「……わかるか!」
 がーがーがなり始める二人。
 あの『鬼姫』と言い合いしてると、二人の童子は半ば呆れたように見やった。
 そして、思い出した。
 この娘が、雪妖の巫女だということを。
 雪の大龍と同じ力を持つということを。
「光君……」
「なに?」
「ありがと、ですよ」
「よかった、怪我なくて。あれだよね、これ、地震って奴だよね」
「そう……そうですよ」
「びっくりした! おいら、地震初めてだもの。鬼岩城もお空も、地震ないからさー」
 屈託なく笑う光に、朱桜も笑い返した。



地震、か。珍しいな」
 鈴鹿――小鈴も、驚いていた。
 鬼岩城には、地震はないからだ。
 あそこは、別の世界――巨大な結界の中に位置している。
 だから、大江山にある鬼ヶ城とは違って、天災の恐れはなかった。
「しかし金熊。本当によくやった」
「ああ……」
 廊下を歩く、金熊童子と石熊童子
 二人は、城に被害がないか見回り中であった。
 今のところ、目立った被害はなかった。
「その、紙は?」
 石熊が尋ねる。
 金熊は、小さな紙を大事そうに持っていた。
「朱桜さまから頼まれ事」
「頼まれ事?」
「そ、頼まれ事」