あやかし姫番外編~鬼之姫と(15)~
「地震なぁ。あれが、地震かあ」
のんびりとした、白月の声。
三人、雛壇から降りてきた。
お内裏様以外に、雛人形には変わりはなかった。
お内裏様は、もともと、ぐらついていたようです。
そう星熊童子が言っていた。
「そうです、地震ですよ」
「びっくりしたのじゃ。あんなの、初めてじゃ」
「そうなんですか?」
朱桜が尋ねた。地震なら、それなりに起きている。
たまーにたまーに、ぐらりとする。
最初は怖くて、彩花さまや父上に、じっとしがみついたものですよ。
「うむ。生まれて、初めてなのじゃ。百年で、初めてじゃ」
鬼岩城は、そういうものなのでしょうか?
そういうものかもしれませんね。
あそこは、鬼ヶ城とは違いますから。
それにしても……
「……百」
百ですよ百。
やっぱり、しょぼんなのですよ。
「どしたあ? そんなにしょんぼりとして。地震、怖かったのか? 儂は……儂は、怖くないぞ! け、けして怖くないからな! 朱桜ちゃんがしょんぼりじゃと、儂も、しょんぼりしてしまうのじゃ」
「いえ……ちょっと」
まだ、まだまだ、尾を引いていた。
妹さんだと思っていた白月ちゃんが、自分よりもはるかにお姉さんだという事が。
結局、自分は……
「にゃぁん」
猫の、甘え声。
りんりんという、鈴の響き。
「鈴ちゃん」
そういえば……鈴ちゃんは……
人の姿になったら、彩花さまと、そう、変わらないです。
「めっそりなのです」
私の可愛い可愛い妹さんは……残念ながら、今はいないのですよ。
「めっそり……めっそりめっそり」
白月が、朱桜の言葉を、繰り返した。
響きが面白かったのだろう。
めっそりめっそり繰り返し始めた。
「でも、お友達なのです」
ね、白月ちゃん。
そうですよね、彩花さま。
お友達には、変わりないのですよ。
「……友達じゃ!」
にぱっと笑う。
大事な大事な、友達じゃ!
光も友達じゃ!
うん。
はいです。
友達――二人は、友達なのですよ。
「白月ちゃん、光君、次はなにして遊びますか?」
「帰りたくないのじゃ!」
「あー、駄々をこねない!」
白月が言うと、小鈴が吠えて。
光が、また来ようねと言うと、涙目で白月は頷いた。
もう、夕刻。
夕日が赤々。鬼ヶ城を照らしている。
それは、幼子達のお別れの時。
長い間待っていた牛鬼が、ぶはっと欠伸を一つした。
「光は我が侭言わないのね」
ちょっと以外だった。
一緒に駄々をこねると思ったのに。
「お袋、多分心配してるから」
黙って出てきたから。
誰にも言うなと、鬼姫に言われたから。
帰ったら……真っ先に謝ろう。
それから、楽しかったって言うんだ。
「……そうじゃな……儂も、お袋様に謝ろう」
きょとんとした白月。
しばらく考えて。
考えて考えて白月が言うと、小鈴は、嬉しそうに二人の額をつんとつついた。
それから、自分も謝らないといけないなと思った。
「で……いつまで、待たせるの」
「知るか」
険のある言い方。答えたのは、虎熊だろう。
そう、小鈴は思った。
星熊が、虎熊をたしなめている。
星熊の顔は、見分けがつくようになった。
「朱桜ちゃん、遅いのう」
「そうだね……」
小鈴は、腕の中の鈴を、頬に寄せた。
鈴も、小鈴に頬を寄せた。
のんびりとした、白月の声。
三人、雛壇から降りてきた。
お内裏様以外に、雛人形には変わりはなかった。
お内裏様は、もともと、ぐらついていたようです。
そう星熊童子が言っていた。
「そうです、地震ですよ」
「びっくりしたのじゃ。あんなの、初めてじゃ」
「そうなんですか?」
朱桜が尋ねた。地震なら、それなりに起きている。
たまーにたまーに、ぐらりとする。
最初は怖くて、彩花さまや父上に、じっとしがみついたものですよ。
「うむ。生まれて、初めてなのじゃ。百年で、初めてじゃ」
鬼岩城は、そういうものなのでしょうか?
そういうものかもしれませんね。
あそこは、鬼ヶ城とは違いますから。
それにしても……
「……百」
百ですよ百。
やっぱり、しょぼんなのですよ。
「どしたあ? そんなにしょんぼりとして。地震、怖かったのか? 儂は……儂は、怖くないぞ! け、けして怖くないからな! 朱桜ちゃんがしょんぼりじゃと、儂も、しょんぼりしてしまうのじゃ」
「いえ……ちょっと」
まだ、まだまだ、尾を引いていた。
妹さんだと思っていた白月ちゃんが、自分よりもはるかにお姉さんだという事が。
結局、自分は……
「にゃぁん」
猫の、甘え声。
りんりんという、鈴の響き。
「鈴ちゃん」
そういえば……鈴ちゃんは……
人の姿になったら、彩花さまと、そう、変わらないです。
「めっそりなのです」
私の可愛い可愛い妹さんは……残念ながら、今はいないのですよ。
「めっそり……めっそりめっそり」
白月が、朱桜の言葉を、繰り返した。
響きが面白かったのだろう。
めっそりめっそり繰り返し始めた。
「でも、お友達なのです」
ね、白月ちゃん。
そうですよね、彩花さま。
お友達には、変わりないのですよ。
「……友達じゃ!」
にぱっと笑う。
大事な大事な、友達じゃ!
光も友達じゃ!
うん。
はいです。
友達――二人は、友達なのですよ。
「白月ちゃん、光君、次はなにして遊びますか?」
「帰りたくないのじゃ!」
「あー、駄々をこねない!」
白月が言うと、小鈴が吠えて。
光が、また来ようねと言うと、涙目で白月は頷いた。
もう、夕刻。
夕日が赤々。鬼ヶ城を照らしている。
それは、幼子達のお別れの時。
長い間待っていた牛鬼が、ぶはっと欠伸を一つした。
「光は我が侭言わないのね」
ちょっと以外だった。
一緒に駄々をこねると思ったのに。
「お袋、多分心配してるから」
黙って出てきたから。
誰にも言うなと、鬼姫に言われたから。
帰ったら……真っ先に謝ろう。
それから、楽しかったって言うんだ。
「……そうじゃな……儂も、お袋様に謝ろう」
きょとんとした白月。
しばらく考えて。
考えて考えて白月が言うと、小鈴は、嬉しそうに二人の額をつんとつついた。
それから、自分も謝らないといけないなと思った。
「で……いつまで、待たせるの」
「知るか」
険のある言い方。答えたのは、虎熊だろう。
そう、小鈴は思った。
星熊が、虎熊をたしなめている。
星熊の顔は、見分けがつくようになった。
「朱桜ちゃん、遅いのう」
「そうだね……」
小鈴は、腕の中の鈴を、頬に寄せた。
鈴も、小鈴に頬を寄せた。