小説置き場2

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あやかし姫番外編~鬼之姫と(終)~

「お土産は?」
鈴鹿は、なんじゃった?」
「あたしと鈴はねー。鰹節と……これは? ……あー、蜂の子ね」
「儂はのう……お菓子いっぱいじゃ! ひなあられ、菱餅! 美味しそうじゃ、甘い匂いじゃー! それに……」
「それに?」
「儂の、似顔絵……下に、またあそぼうねって書いてある」
「あ……あたしと鈴のもある。そっか、それで遅くなったのか」
「光は? 光はなんじゃった?」
「……おにぎり。おにぎりと、絵」
「おにぎり? あら、そのおにぎりの形、ちょっと不格好ね」
「光、おにぎり好きじゃからのー。ぬ? 光の絵、裏に字が書かれてあるぞ?」
「えっと……」
「読めるの、光? 綺麗なお姉さんが読んであげようか?」
「馬鹿にすんな! 平仮名なら、おいら読めるよ! 
 平仮名なら……多分……
 えっと。
『きょうは、あそびにきてくれてありがとう。
 そして、たすけてくれてありがとう。うれしかったです。
 おにぎり、つくってみました。
 かたちがへんで、ごめんね。
 おいしくなかったら、ごめんね。
 また、あそぼうね』
 だって……おいら、なんにもしてないよ?
 助けてくれたの、金熊さんだし」
「手作りか、すごいのう、朱桜ちゃんは。なんでもよく知っておるし、絵も上手だし、料理も出来るのか!」
「よかったじゃない、光」
「……白ちゃん、また遊ぼうね」
「もちろんじゃ!」



「金熊さん、用意ありがとうです」
「いえいえ……ところで、気になっていたのですが、米、海苔、砂糖って?」
「はい? 砂糖?」



「このおにぎり、甘い……」
「甘いおにぎりかー。珍しいのー」



鈴鹿さん、ちょっと葉子さんとこに寄ってくれない?」
 おにぎり。
 全部、三つとも食べた。
 変わった味だったけど、全部食べた。
 白月も、ちょこっと食べた。鈴鹿も、ちょこっと食べた。
 一口だけ、食べた。
「葉子? 彩花ちゃんのとこ? いいけどさ」
 顔を外に出すと、牛鬼に指示をだした。
 顔を引っ込めると、
「桐壺に謝るんでしょ? いいの、道草して?」
 そう、尋ねた。
 光が謝るって言ったから、
 白月も謝るって言ったから、
 まっすぐまっすぐ、彩花ちゃんの所には寄らないでおこうと思ったのに。
「……道草じゃない」
「道草じゃない?」
「どういうことじゃ、光?」
「よくわかんないけど……おいらは、行きたい」
 牛鬼が声をあげる。
 着いたのだ。
 光が、真っ先に外に出た。
 白月も、光の後を追った。
 鈴鹿が牛車からそろりと降りると、夜の中で、『母親』が『子供達』を抱き締める姿が見えた。
 目を細めると、鈴鹿は黙って、牛車に戻った。



「へー。そんなことが」
「はい」
 四天王は、緊張のご様子。
 今、星熊が、主達に今日起こった事を伝えたところ。
 九州から帰った酒呑童子はお疲れで。
 どこかから帰った茨木童子は気怠げで。
 愛娘は眠っていた。
 大切な姪は眠っていた。
 二人は静かに寝顔を見るだけで、起こそうとはしなかった。
「そうかそうか、光に白月に猫に『小鈴』がここへ来たか」
「はっ」
「光……光ねえ……」
「光、か」
「酒、酒呑童子様? 茨木童子様?」
「可愛い可愛い朱桜を、抱き締めただと。朱桜の手料理を、持って帰っただと。……許さぬ、コロシテヤル!」
「俺も、兄上と同じ意見だ」
「えっと……」
「お二人を、止めろ!」
「おう!」
「御意」
 鬼姫のことはどうでもいいのかと、虎熊は思った。
 後で知った事だが、九州に俊宗が来ていたそうだ。
 もう、酒呑童子には大体の予想がついていたのだろう。
 すぐに帰ってこなかったのは……多分、遊ばせてやりたかったからだろう。
 


「また、遊ぼうね……白月ちゃん、光君」
 鬼の王の娘は、そう、寝言を漏らした。
 父の声が聞こえた。
 叔父の声が聞こえた。
 喧騒にぱちりと目を覚ますと、ふらふらっと起きあがり歩き出した。
 夢現
 眠い目を擦りながら、明るい廊下を。
 こっくりこっくり。
 ゆっくりと。
 普段、夜の方が、鬼ヶ城は騒がしい。
 でも、今日は違った。
 五月蠅いのは、一つの部屋だけ。
「静かにするですー。静かにしないと父上も叔父上も嫌いになるですよー」
 顔を出し、そう言うと、また、朱桜は寝床に戻った。
 それで、しんと、静まりかえった。
 夢。
 朱桜は、ころんと寝返りをうつと、少し、頬を染めた。