小説置き場2

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愉快な呂布一家~錦馬超の選択(1)~

 これから、どうなるのだろう。
 
 馬超は、ぽつんと、座っていた。

 窓のない部屋。灯り火が頼りだった。

 自分は――この火に誘われ飛び込む、蛾のようなものだったか――

 そう思わずには、いられなかった。完璧に負けたのだ。

 あんな、愛らしい少女に。愛らしい、悪鬼に。

 あの戦から一ヶ月経っていた。傷は、ほぼ、癒えた。

 ここは、呂布の城……のはず、か? よく分からなかった。

 あれから呂布の姿も、囚われているはずの馬岱の姿も、目にしていなかった。

 親父や弟達、韓遂のおじきや成公英さんはどうなったのだろう?

 馬玩は? 龐徳は?

 気にはなったが、不思議と、苛立ちはなかった。

 もう、覚悟しているからだろう。先は、長くない。

 扉。音がした。

 食事か。人参は嫌だな。一応、残さずに食べるが。

 扉が開かれ、はてと、馬超は訝しんだ。

 食事は、扉の中腹にある穴から入れられていた。扉が開くなど、久しいことであった。

「兄上!」

馬岱!」

 胸に飛び込んできたのは、従妹、であった。えぐえぐと、泣きじゃくる。一瞬呆気にと

られたが、すぐに落ち着いた表情になると、馬超馬岱の身体に手を廻した。

「生きてる! 生きていらっしゃる!」

「うん、生きてる。ちゃんと、ここにいるぞ」

 開けっ放しの扉。薙刀を持った少年がいた。

 強い。空手では、逃げられぬか。

 まあ……いいか。今は、従妹と再会できたことを喜ぶとしようか。

「すまないなぁ、馬岱

「兄上ぇぇ……会いたかった、会いたかったよ」

「俺……負けちゃった」

 ああ、負けたんだな。口にしても、悔しさもなにもなかった。

 なんだろう、この感覚は。

 今なら……呂布と、良い勝負ができる気がする。理由はなにもないが、そう、馬超は思

った。胸のもやもや……黒い黒いもやもやが、消えていた。

「なあ、馬岱

「……うっく……」

馬岱って」

「兄上……私は! 兄上……」

「……馬岱

 駄目だなと思った。気の強いと言われる従妹だが、案外に脆いのだ。

 こうなると、時間がかかる。

 馬超は、少年を見やった。涙目の少年を。

「おい」

「……」

 きょろきょろ。

「お前だ。お前しかいないだろうが」

「あ、はい」

「名前は? 名のある将なのだろう?」

「……魏延といいます」

「そうか、魏延か」

 馬岱を捕らえた、呂布麾下の隊長の名前だ。あの戦では、姿を見なかった。

馬岱がこうなんでよ……魏延、俺になんのようだ?」

呂布様が、馬超さんと会いたいそうです」

 馬岱が身じろいだ。微かに、首を横に振った。行くな――そう、顔に書いていた。

「いいだろう。最強の戦姫と、また、会ってやる」

 馬超が微笑んだ。もう、その姿に狂気は、なかった。