愉快な呂布一家~お肉なお祭り(1)~
呂布「というわけで……」
西涼の地。戦が終わり、覇権が移り、平和が戻った。
おそらく、束の間の。
戦勝者たる呂布の目は、すでに董狼姫に向けられている。
怨を、憎を、込めながら。
それでも……
今宵は、確かに、平和であった。
かって敵味方として争った兵達が、原野にひしめき合う。
今か今かと、壇上の戦姫の言葉を待つ。
皆、見えない鎖で繋がれていた。
解き放たれるのを、待っていた。
地鳴り。兵達のざわめきが、地を震わせた。
全ての眼は、一人の少女に向けられている。
方天画戟を掲げると、
呂布「……食べるぞぉ!!!」
小さな身体で、大きな声を上げた。
呂布軍「「「グォォォォォオオオオオ!!!!!!」」」
歓喜とも怒声ともとれる、十万の咆吼。
大地に、空に、消えていった。
後に残るは……餓狼達。
一斉に肉が焼かれ、酒が注がれ始めた。
夜店の明かりも、次々と。祭りの様相を示していて。
呂布「ふう……」
一息。壇上から降りる。
ちなみに、この時代にバーベキューがあるのかという野暮な質問をしてはいけない。
呂布さんとの約束だぞ!
貂蝉「お疲れ様です」
呂布「うん!」
義姉の顔を満面の笑みで見上げると、貂蝉が大事に抱える赤子の頭を、よしよしと撫でた。
呂布「良い子良い子ー。でも、凄いよね! 二晩で準備できるなんて!」
きっかけは些細なこと。呂布さんが、焼き肉したいと言ったから。
それを、この一大プロジェクトに膨らませたのは……
穏やかに、笑む。その表情は、以前と比べると鋭さが消え、丸みが表れていた。
陳宮「こ、ここです……」
呂布「ありがとう!」
陳宮「お褒めに預かり……光栄です……」
ひょろひょろの軍師。さすがに、きつかったらしい。
無理もない。その仕事のこなしは、まさに鬼神の如しであったのだから。
膨大な量を迅速にこなしていく。
それは、貂蝉や賈詡が舌を巻くほどであった。
ひとえに、筋肉馬鹿……脳細胞も筋肉……戦専門な呂布軍が、きちんと組織として成り立っているのは、この人がいるからなのだ。
無茶な願いもなんのその、全ては……一人のためにである。
眼を、閉じる。
軍師、死す。また一つ、乱世に星が流れた――
呂布「死、死んじゃヤダー!!!」
臧覇「おいおい、うちの軍師殿、大丈夫かよ?」
元山賊がおいおいと、あむあむ、肉を平らげながら。
酒には、手をつけない。未成年だからだ。
不良ぶっても、根は真面目なのだ。
代わりに、100%リンゴジュースですませていた。
こら、そこ、そんな質問をかくかくしかじか……
張遼「ホヒャ? ホヒュルホヒュル。フハイキョェフハイキョェ」
青龍刀で突き刺した肉を口にせっせとせっせと詰め込み、言ってることは理解不明。
臧覇、お手上げの仕草をしつつ……
臧覇「食いながら喋るなよ、ったく。お前さんはうちの№2なんだからよぉ……いつまでもそんなガキっぽいことやってちゃあ駄目だぜ」
リンゴジュースをストローで飲みつつ、焼きナスを自分の側から避けながら言われると……結構、説得力がでないものである。
馬休「フシュルルフシュルル」
馬鉄「プハープハー」
馬超の双子の弟、馬鉄・馬休。こちらも口に目一杯頬張り、言ってることは意味不明。
とりあえず、張遼に何か言っているよう。
首を傾げ、ごくんと飲み込むと、
張遼「何々?」
っと二人に。
??「お前ら、ちゃんと噛んでから物言え」
ポンポンと、双子の軽く頭を叩く。
うあーいと、嬉しそうな返事。嬉しいだろう。
うあーいと、嬉しそうな返事。嬉しいだろう。
彼らの知っている、尊敬する男が、戻ってきたのだから……
涼しげな眼差しの男が一人。鷹の羽を、翻しながら。
馬超、であった。
馬超「ああ。先に取っておかないと、残らないからな」
馬超「まあ、な。どこぞの山賊崩れは、備えって言葉を知らないだろう」
険悪な空気。二人はそりが合わなかった。
馬超「しかし……」
臧覇「うん?」
高順「戦、完全には終わっていなかったような……まだ、締めが」
貂蝉「嫌ですわ、高順さま。戦は終わったのですよ」
一方はにこやかに、片方は鼻の上に青筋たてて見送った。
三人の赤子を抱き、おんぶする貂蝉があーんと口を開き、高順が焼きたてキャベツをはいどうぞっと。
高順「しかしなぁ……我々の話は愉快な呂布一家~錦馬超の選択(2)~から」
貂蝉「そのようなこと、些細なことです」
コキ、コキ。拳が、鳴った。
高順「……」
頷く顔に、青みがかかる。
納得したわけではない。
が。
ちなみに、続きは……そのうち^^
貂蝉「さ、高順さま。この子達を、よろしくお願いします」
高順「?」
貂蝉「はい、あーんして」
顔を赤くしながら、貂蝉が箸を。本当に、仲睦まじい夫婦であった。