愉快な呂布一家~新、編成~
「名前が多いー!」
ぶわっと、紙が舞った。
一つ束ねの髪を揺らすと、少女はあーっと、綺麗になった机にうっぷした。
「はいはい、書類を投げない」
したり顔で、ささっと宙舞う文房具を集める男。
それからどさっと、少女の顔の横に置いた。
「さ、呂布様、どうぞ」
「えー。めんどくさーい。陳宮がやってよー」
机冷たいー。
陳宮もやるー?
「と言われましても……こればっかしは」
呂布陳宮の仲良し主従。今日は二人で、軍の編成を決めようと。
涼州一派が加わりさらに大所帯になった呂布軍。兵の検分も大体終え、ここいらでどうであろうかと。
それに最も大きな理由は……呂布の麾下の編成が終わっていた。
主の戦支度が終わったのだ。
「あれだよねー。半分ぐらい殺しとけばよかった」
と、危険極まり大変物騒な発言をする幼い主。
方天画戟を軽々と弄びながら言われると……正直、笑えない。
「はいはい、面白い面白い」
ぱんぱんと手を叩く。陳宮にとっては手慣れたものである。
「えー、本気だよ?」
「本気だと困ります」
めっ。
えーん。
「もう、難しいんだよね」
そう言いながら、呂布はぺらりと紙を一つ手に取った。
十ばかしの名前が書かれた紙。
十部軍の面々である。
「これこれこれーはいらなーい」
ペケペケペケと印を付けていく。
紙を受け取り、ほぉっと陳宮は唸った。
「この人達は戦にいらないから陳宮の好きにして」
「御意」
ペケ印を付けられたのは、陳宮が文官にしたいと思っていた名前ばかりであった。
この辺り、呂布様の嗅覚は本当に凄まじいと陳宮は舌を巻いた。
戦に向いているかいないかの判断。それは、確かなものであった。
簡単そうに見えて、なかなかに難しいことではあるのだ。
「私の麾下は、魏延と馬岱に指揮させるね。兵は、千」
「はい」
馬岱は、呂布さん麾下の一方の指揮官として懸命に動き回っていた。
魏延との相性がいいのだ。
本人は馬超の副官になりたがっていたが、呂布さんが「ヤダ」と。
魏延と二人でお願いすると、「あ、主様のお願いだし」と、もごもご言っていた。
「筆頭は、高順。兵、二万」
「はっ」
ここは、変わらないか。陥陣営は、伊達じゃないと。
ま、私が軍師に成る前からのつき合いだし、年寄……年長者だしね。
局地的な戦も大局的な戦も両方ともこなせ、さらに政事にも意がある重要な人物であった。
「第二が、迷うんだよー」
陳宮は眉をひそめた。今までは、呂布さんの義妹がそこにいたのだ。
両手の、名。
義妹の名と、錦の名。
「馬超は、やはりそれだけの?」
涼州の大物であった。最後まで、呂布に屈しなかった。
武は、新しく加わった者の中では、随一であろう。
「張遼は……まだ、越えてないから」
寂しげに、言う。
はいとしか、陳宮は言えなかった。
「そうだね、でも……同格、かな」
一万五千――
「張繍さんに、一万。龐徳さんに一万。あとは特にないかな」
調練で割り振っていた人数が、そのまま指揮下になる。そう、陳宮は理解した。
ていっと、呂布さんが椅子から離れた。
「もう、いいよね?」
「成公英殿は、いかがなさいますか?」
「ん……」
暗い眼差しをした女であった。
兵を与えられるよう、何度も請願してきている。
義父である韓遂からも、申し出があった。こちらは、戦に出さないようにしてくれという請願であった。
「……恨み、憎しみ。憎悪がみなぎってる。そんな目だよね」
十部軍を裏切った閻行。
その裏切りで最も衝撃を受けたのは、妻であった成公英であろう。
惚れぬいて……そして、捨てられた。
「……」
「いい目だよ。ああいう目をした人は、戦じゃ強い。でも、すぐに死んじゃう」
ころころと、嗤った。
「三千、付けようか。戦にも出てもらうよ」
「……御意」
「閻行かぁ……どんな風に、殺そうかな。もしかしたら、成公英さんに先をとられちゃうかもね」
ふんふーん。
てい!
方天画戟を床に打ち付ける。振動、地響き。ぱらぱらと埃が舞い、落ちた。
亀裂が、壁に走った。
修理費がと、陳宮は思った。
「五斗米道はどうなさいますか?」
「私は興味ないから、好きにしていいよー」
「じゃあ、このままでよろしいので」
「うん」
私は――今は、閻行を殺すだけでいいの!
「はい」
着々と進みつつある対、董卓残党軍。
波に呑み込まれた、董狼姫の、司馬懿の思惑は?
続きは、またのお話です♪
ぶわっと、紙が舞った。
一つ束ねの髪を揺らすと、少女はあーっと、綺麗になった机にうっぷした。
「はいはい、書類を投げない」
したり顔で、ささっと宙舞う文房具を集める男。
それからどさっと、少女の顔の横に置いた。
「さ、呂布様、どうぞ」
「えー。めんどくさーい。陳宮がやってよー」
机冷たいー。
陳宮もやるー?
「と言われましても……こればっかしは」
呂布陳宮の仲良し主従。今日は二人で、軍の編成を決めようと。
涼州一派が加わりさらに大所帯になった呂布軍。兵の検分も大体終え、ここいらでどうであろうかと。
それに最も大きな理由は……呂布の麾下の編成が終わっていた。
主の戦支度が終わったのだ。
「あれだよねー。半分ぐらい殺しとけばよかった」
と、危険極まり大変物騒な発言をする幼い主。
方天画戟を軽々と弄びながら言われると……正直、笑えない。
「はいはい、面白い面白い」
ぱんぱんと手を叩く。陳宮にとっては手慣れたものである。
「えー、本気だよ?」
「本気だと困ります」
めっ。
えーん。
「もう、難しいんだよね」
そう言いながら、呂布はぺらりと紙を一つ手に取った。
十ばかしの名前が書かれた紙。
十部軍の面々である。
「これこれこれーはいらなーい」
ペケペケペケと印を付けていく。
紙を受け取り、ほぉっと陳宮は唸った。
「この人達は戦にいらないから陳宮の好きにして」
「御意」
ペケ印を付けられたのは、陳宮が文官にしたいと思っていた名前ばかりであった。
この辺り、呂布様の嗅覚は本当に凄まじいと陳宮は舌を巻いた。
戦に向いているかいないかの判断。それは、確かなものであった。
簡単そうに見えて、なかなかに難しいことではあるのだ。
「私の麾下は、魏延と馬岱に指揮させるね。兵は、千」
「はい」
馬岱は、呂布さん麾下の一方の指揮官として懸命に動き回っていた。
魏延との相性がいいのだ。
本人は馬超の副官になりたがっていたが、呂布さんが「ヤダ」と。
魏延と二人でお願いすると、「あ、主様のお願いだし」と、もごもご言っていた。
「筆頭は、高順。兵、二万」
「はっ」
ここは、変わらないか。陥陣営は、伊達じゃないと。
ま、私が軍師に成る前からのつき合いだし、年寄……年長者だしね。
局地的な戦も大局的な戦も両方ともこなせ、さらに政事にも意がある重要な人物であった。
「第二が、迷うんだよー」
陳宮は眉をひそめた。今までは、呂布さんの義妹がそこにいたのだ。
両手の、名。
義妹の名と、錦の名。
「馬超は、やはりそれだけの?」
涼州の大物であった。最後まで、呂布に屈しなかった。
武は、新しく加わった者の中では、随一であろう。
「張遼は……まだ、越えてないから」
寂しげに、言う。
はいとしか、陳宮は言えなかった。
「そうだね、でも……同格、かな」
一万五千――
「張繍さんに、一万。龐徳さんに一万。あとは特にないかな」
調練で割り振っていた人数が、そのまま指揮下になる。そう、陳宮は理解した。
ていっと、呂布さんが椅子から離れた。
「もう、いいよね?」
「成公英殿は、いかがなさいますか?」
「ん……」
暗い眼差しをした女であった。
兵を与えられるよう、何度も請願してきている。
義父である韓遂からも、申し出があった。こちらは、戦に出さないようにしてくれという請願であった。
「……恨み、憎しみ。憎悪がみなぎってる。そんな目だよね」
十部軍を裏切った閻行。
その裏切りで最も衝撃を受けたのは、妻であった成公英であろう。
惚れぬいて……そして、捨てられた。
「……」
「いい目だよ。ああいう目をした人は、戦じゃ強い。でも、すぐに死んじゃう」
ころころと、嗤った。
「三千、付けようか。戦にも出てもらうよ」
「……御意」
「閻行かぁ……どんな風に、殺そうかな。もしかしたら、成公英さんに先をとられちゃうかもね」
ふんふーん。
てい!
方天画戟を床に打ち付ける。振動、地響き。ぱらぱらと埃が舞い、落ちた。
亀裂が、壁に走った。
修理費がと、陳宮は思った。
「五斗米道はどうなさいますか?」
「私は興味ないから、好きにしていいよー」
「じゃあ、このままでよろしいので」
「うん」
私は――今は、閻行を殺すだけでいいの!
「はい」
着々と進みつつある対、董卓残党軍。
波に呑み込まれた、董狼姫の、司馬懿の思惑は?
続きは、またのお話です♪