小説置き場2

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愉快な呂布一家~新、編成~

「名前が多いー!」

 ぶわっと、紙が舞った。

 一つ束ねの髪を揺らすと、少女はあーっと、綺麗になった机にうっぷした。

「はいはい、書類を投げない」

 したり顔で、ささっと宙舞う文房具を集める男。

 それからどさっと、少女の顔の横に置いた。

「さ、呂布様、どうぞ」

「えー。めんどくさーい。陳宮がやってよー」

 机冷たいー。

 陳宮もやるー?

「と言われましても……こればっかしは」

 呂布陳宮の仲良し主従。今日は二人で、軍の編成を決めようと。

 涼州一派が加わりさらに大所帯になった呂布軍。兵の検分も大体終え、ここいらでどうであろうかと。

 それに最も大きな理由は……呂布の麾下の編成が終わっていた。

 主の戦支度が終わったのだ。

「あれだよねー。半分ぐらい殺しとけばよかった」

 と、危険極まり大変物騒な発言をする幼い主。

 方天画戟を軽々と弄びながら言われると……正直、笑えない。

「はいはい、面白い面白い」

 ぱんぱんと手を叩く。陳宮にとっては手慣れたものである。

「えー、本気だよ?」

「本気だと困ります」

 めっ。

 えーん。

「もう、難しいんだよね」

 そう言いながら、呂布はぺらりと紙を一つ手に取った。

 十ばかしの名前が書かれた紙。

 十部軍の面々である。

「これこれこれーはいらなーい」

 ペケペケペケと印を付けていく。

 紙を受け取り、ほぉっと陳宮は唸った。

「この人達は戦にいらないから陳宮の好きにして」

「御意」

 ペケ印を付けられたのは、陳宮が文官にしたいと思っていた名前ばかりであった。

 この辺り、呂布様の嗅覚は本当に凄まじいと陳宮は舌を巻いた。

 戦に向いているかいないかの判断。それは、確かなものであった。

 簡単そうに見えて、なかなかに難しいことではあるのだ。

「私の麾下は、魏延馬岱に指揮させるね。兵は、千」

「はい」

 馬岱は、呂布さん麾下の一方の指揮官として懸命に動き回っていた。

 魏延との相性がいいのだ。

 本人は馬超の副官になりたがっていたが、呂布さんが「ヤダ」と。

 魏延と二人でお願いすると、「あ、主様のお願いだし」と、もごもご言っていた。

「筆頭は、高順。兵、二万」

「はっ」

 ここは、変わらないか。陥陣営は、伊達じゃないと。

 ま、私が軍師に成る前からのつき合いだし、年寄……年長者だしね。

 局地的な戦も大局的な戦も両方ともこなせ、さらに政事にも意がある重要な人物であった。

「第二が、迷うんだよー」

 陳宮は眉をひそめた。今までは、呂布さんの義妹がそこにいたのだ。

 両手の、名。

 義妹の名と、錦の名。

馬超は、やはりそれだけの?」
 
 涼州の大物であった。最後まで、呂布に屈しなかった。

 武は、新しく加わった者の中では、随一であろう。

張遼は……まだ、越えてないから」

 寂しげに、言う。

 はいとしか、陳宮は言えなかった。

「そうだね、でも……同格、かな」

 一万五千――

張繍さんに、一万。龐徳さんに一万。あとは特にないかな」

 調練で割り振っていた人数が、そのまま指揮下になる。そう、陳宮は理解した。

 ていっと、呂布さんが椅子から離れた。

「もう、いいよね?」

「成公英殿は、いかがなさいますか?」

「ん……」

 暗い眼差しをした女であった。

 兵を与えられるよう、何度も請願してきている。

 義父である韓遂からも、申し出があった。こちらは、戦に出さないようにしてくれという請願であった。

「……恨み、憎しみ。憎悪がみなぎってる。そんな目だよね」

 十部軍を裏切った閻行。

 その裏切りで最も衝撃を受けたのは、妻であった成公英であろう。

 惚れぬいて……そして、捨てられた。

「……」

「いい目だよ。ああいう目をした人は、戦じゃ強い。でも、すぐに死んじゃう」

 ころころと、嗤った。

「三千、付けようか。戦にも出てもらうよ」

「……御意」

「閻行かぁ……どんな風に、殺そうかな。もしかしたら、成公英さんに先をとられちゃうかもね」

 ふんふーん。

 てい!

 方天画戟を床に打ち付ける。振動、地響き。ぱらぱらと埃が舞い、落ちた。

 亀裂が、壁に走った。

 修理費がと、陳宮は思った。

五斗米道はどうなさいますか?」

「私は興味ないから、好きにしていいよー」

「じゃあ、このままでよろしいので」

「うん」

 私は――今は、閻行を殺すだけでいいの!

「はい」

 

 着々と進みつつある対、董卓残党軍。

 波に呑み込まれた、董狼姫の、司馬懿の思惑は?

 続きは、またのお話です♪