学園あやかし姫の六!
どんより曇り空から、白雪が次々と落ちてくる。
小さく口を開け、白い息を吐きながら、その様を眺める。
視線を落とすと、同じように空を見上げる少女の鼻柱に、小さな雪が降りかかり、さぁっと溶けるのが見えた。
少女は、大きな瞳を真ん中に寄せ、つんと口を突き出し、雪滴を見ようとした。
雪景色よりも輝く白い肌。
頬の淡い赤。
胸の前で合わせた手に息を吹きかけながら見ていると、視線に気づき少し恥ずかしげに微笑んだ。
「積もりましたね」
「積もったわね」
広い雪庭。
少女と二人。
点々と足跡。
「赤麗ちゃんは?」
「約束があるって、学園から帰るなり、すぐに遊びに行っちゃったわ」
「……良かったですね」
「うん」
「何じゃ、おらんのか」
いつもの声。
つまらなそうな、残念そうな、そんな声。
火羅は、声の主を見やると、
「今日は何の用?」
そう、言った。
縁側まで引っ張り出したコタツから、顔だけ出した艶やかな少女は、ふふんと鼻で笑う。
「雪よ」
「雪ね」
雪が積もった。それで学園はお昼から休みになった。
「雪といえば、決まっておろう」
少女の顔が上下逆さまひっくり返る。
ほっそりとした手がコタツの上のミカンに伸びる。
綺麗に剥かれたタコ皮に乗ったミカンが、一房、少女の口に運ばれた。
「雪だるま」
双子が声を合わせる。声を合わせて、うんうんと頷く。
また、顔がひっくり返る。黒い長い髪が、縁側を這う。
「……作れと」
火羅が、言った。
「もちろん」
彩華が笑む。
彩花が微笑む。
火羅は二人の顔を見比べ、大きく息を吐いた。
ころころと、雪玉を転がし、大きくしていく。
雪は、柔らかかった。
庭一面に、足跡が広がる。
コタツから顔だけ出した彩華が、じっと見ている。
ミカンの皮が、ぽつんと置かれていた。
「あ」
「あ」
ぶつかりそうになる。
転がすことに夢中で、火羅は、彩花に気づかなかった。
彩花も同じ。
もくもくと、大きくなる雪だけを見ていたのだ。
「私が頭ですね」
「そうみたいね」
彩花の方が雪玉が小さい。
そろそろ良いかなと彩華を見ると、首を横に振った。
「いいじゃない、結構な大きさだし」
それに何より寒かった。
「まだまだ。もっと大きくせよ」
指先が震えている。彩花も、指先が震えている。
かちんときた。
「……いやよ」
彩花が、よれよれコートの袖を引っ張った。
「自分で作ればいいじゃない。そんなコタツの中に入っていないで」
呼びつけて、彩花と二人で雪玉を作らせて、自分だけコタツに入ってミカンを食べて。
あんまりだと思った。
そっぽを向いてやる。
白く染まった冬木。
葉を落として、雪化粧を施されて。
彩華の言葉を待った。どんな罵詈雑言が来るのかと心構えをする。
来ない。
三人だけの世界は、とても静かだった。
「妾も、そうしたい」
彩華が、言った。
ゆっくりと、コタツから出た。
厚重ねで着膨れ。いつもの1.5倍増し。
「一緒に、作りたい」
彩花がまた袖を引っ張った。
ふるふると、首を振っている。
「でも、出来ないから……もう少し、見ていたかった」
こほり、咳。
また、咳。
「悪かった」
彩華に寄り添った彩花が、背をさすった。
弱々しい目。いつも理不尽な彩華が、時折見せる眼差し。
「さ、先に言いなさいよ!」
「……言いたくない」
コタツに潜り込む。顔だけ出す。彩花が、くすっと微笑んだ。
「そろそろ、飾り付けですね」
彩花が言った。
火羅は、肩にうっすら積もった雪を払い落とす彩花を見て、うんと頷いた。
「そうね。雪玉作りはお終い」
感情の失せた蒼白い顔が、もぞとコタツに潜る。
「お姉様、飾りはどういたしましょう?」
額が出る。
火羅は、とん、と、顔なし雪だるまを作ると、
「彩華さんにお任せするわ」
そう、言ってやった。
「任せよ」
「まあまあかの」
三人で作った雪だるまを、コタツに入って眺める。
南天の実の目の雪兎が隣にいた。
「はい」
「うむ」
白筋まで剥がしたミカンを、彩花が彩華の口に入れる。
食が細い彩華にしては、この橙色の果物はよく食べていた。
自分の指では皮を剥かないけれど。
「ほれ」
「何?」
「口を開けよ」
「は?」
言われた通りにすると、甘い一房が舌の上に転がった。
「もう、帰るんじゃろ?」
「うん、帰るわ」
彩華の顔の前にミカンを差し出す。瞳が寄るのを見て、双子なのだと火羅は思った。
血色の悪い唇の間に、入れてやった。
「筋はない方が良い」
「栄養があるのよ」
間があって、それから彩華は飲み込んだ。
「帰れ帰れ」
「そうするわ」
彩花が会釈する。指先の黄色い、赤くなった手が、小さく振られた。
「明日も雪、降るかしら」
「降ると、葉子が言っておった」
学生服の上によれよれコートを羽織り、ちょっと長いマフラーを首に巻く。
まだ、雪は降っていた。
このまま降り続けば明日も学園は休みだろう。
「また明日ね」
「……ふん」
せっかく作った雪だるま。赤麗にも見せたかった。
小さく口を開け、白い息を吐きながら、その様を眺める。
視線を落とすと、同じように空を見上げる少女の鼻柱に、小さな雪が降りかかり、さぁっと溶けるのが見えた。
少女は、大きな瞳を真ん中に寄せ、つんと口を突き出し、雪滴を見ようとした。
雪景色よりも輝く白い肌。
頬の淡い赤。
胸の前で合わせた手に息を吹きかけながら見ていると、視線に気づき少し恥ずかしげに微笑んだ。
「積もりましたね」
「積もったわね」
広い雪庭。
少女と二人。
点々と足跡。
「赤麗ちゃんは?」
「約束があるって、学園から帰るなり、すぐに遊びに行っちゃったわ」
「……良かったですね」
「うん」
「何じゃ、おらんのか」
いつもの声。
つまらなそうな、残念そうな、そんな声。
火羅は、声の主を見やると、
「今日は何の用?」
そう、言った。
縁側まで引っ張り出したコタツから、顔だけ出した艶やかな少女は、ふふんと鼻で笑う。
「雪よ」
「雪ね」
雪が積もった。それで学園はお昼から休みになった。
「雪といえば、決まっておろう」
少女の顔が上下逆さまひっくり返る。
ほっそりとした手がコタツの上のミカンに伸びる。
綺麗に剥かれたタコ皮に乗ったミカンが、一房、少女の口に運ばれた。
「雪だるま」
双子が声を合わせる。声を合わせて、うんうんと頷く。
また、顔がひっくり返る。黒い長い髪が、縁側を這う。
「……作れと」
火羅が、言った。
「もちろん」
彩華が笑む。
彩花が微笑む。
火羅は二人の顔を見比べ、大きく息を吐いた。
ころころと、雪玉を転がし、大きくしていく。
雪は、柔らかかった。
庭一面に、足跡が広がる。
コタツから顔だけ出した彩華が、じっと見ている。
ミカンの皮が、ぽつんと置かれていた。
「あ」
「あ」
ぶつかりそうになる。
転がすことに夢中で、火羅は、彩花に気づかなかった。
彩花も同じ。
もくもくと、大きくなる雪だけを見ていたのだ。
「私が頭ですね」
「そうみたいね」
彩花の方が雪玉が小さい。
そろそろ良いかなと彩華を見ると、首を横に振った。
「いいじゃない、結構な大きさだし」
それに何より寒かった。
「まだまだ。もっと大きくせよ」
指先が震えている。彩花も、指先が震えている。
かちんときた。
「……いやよ」
彩花が、よれよれコートの袖を引っ張った。
「自分で作ればいいじゃない。そんなコタツの中に入っていないで」
呼びつけて、彩花と二人で雪玉を作らせて、自分だけコタツに入ってミカンを食べて。
あんまりだと思った。
そっぽを向いてやる。
白く染まった冬木。
葉を落として、雪化粧を施されて。
彩華の言葉を待った。どんな罵詈雑言が来るのかと心構えをする。
来ない。
三人だけの世界は、とても静かだった。
「妾も、そうしたい」
彩華が、言った。
ゆっくりと、コタツから出た。
厚重ねで着膨れ。いつもの1.5倍増し。
「一緒に、作りたい」
彩花がまた袖を引っ張った。
ふるふると、首を振っている。
「でも、出来ないから……もう少し、見ていたかった」
こほり、咳。
また、咳。
「悪かった」
彩華に寄り添った彩花が、背をさすった。
弱々しい目。いつも理不尽な彩華が、時折見せる眼差し。
「さ、先に言いなさいよ!」
「……言いたくない」
コタツに潜り込む。顔だけ出す。彩花が、くすっと微笑んだ。
「そろそろ、飾り付けですね」
彩花が言った。
火羅は、肩にうっすら積もった雪を払い落とす彩花を見て、うんと頷いた。
「そうね。雪玉作りはお終い」
感情の失せた蒼白い顔が、もぞとコタツに潜る。
「お姉様、飾りはどういたしましょう?」
額が出る。
火羅は、とん、と、顔なし雪だるまを作ると、
「彩華さんにお任せするわ」
そう、言ってやった。
「任せよ」
「まあまあかの」
三人で作った雪だるまを、コタツに入って眺める。
南天の実の目の雪兎が隣にいた。
「はい」
「うむ」
白筋まで剥がしたミカンを、彩花が彩華の口に入れる。
食が細い彩華にしては、この橙色の果物はよく食べていた。
自分の指では皮を剥かないけれど。
「ほれ」
「何?」
「口を開けよ」
「は?」
言われた通りにすると、甘い一房が舌の上に転がった。
「もう、帰るんじゃろ?」
「うん、帰るわ」
彩華の顔の前にミカンを差し出す。瞳が寄るのを見て、双子なのだと火羅は思った。
血色の悪い唇の間に、入れてやった。
「筋はない方が良い」
「栄養があるのよ」
間があって、それから彩華は飲み込んだ。
「帰れ帰れ」
「そうするわ」
彩花が会釈する。指先の黄色い、赤くなった手が、小さく振られた。
「明日も雪、降るかしら」
「降ると、葉子が言っておった」
学生服の上によれよれコートを羽織り、ちょっと長いマフラーを首に巻く。
まだ、雪は降っていた。
このまま降り続けば明日も学園は休みだろう。
「また明日ね」
「……ふん」
せっかく作った雪だるま。赤麗にも見せたかった。