ダンケルク
凄い戦争映画である。本当に、凄い、凄いのだ。監督、クリストファーノーラン。映画のセンスが、ずば抜けている。ダークナイトの冒頭の強盗シーンを観よ!そんな監督が、初めて実話をもとに映画を描く。もう、期待しない方が難しいのだ。で、観た。IMAXで、観た。凄かった。間違いなく、ノーランの作品である。陸・海・空の異なる空間の視点が、異なる時間軸で動きつつ、最終局面へと雪崩れこんでいく、その構成の妙。実際に飛ばした戦闘機。嵐の中の撮影。極力台詞も説明も排した、話運び。じりじりと、絶望感を煽るハンスジマーの音楽と、あの一瞬の空白。戦争映画を、個人の視点ではなく、事象として描いている。人間ドラマがないという批判は、的外れである。登場人物に感情移入できなかったという感想は、薄っぺらいこれまでの戦争映画のける普遍性云々は糞喰らえである。そんなことは、はなから放棄している。67Pの脚本に描いていない。それは違う映画を求めるべきだ。それが映画なのかと問われれば、間違いなく映画であると答える。創造において、焼きまわしをする必要はない。名作は山のようにある。好きなだけ山を探せばいい。戦争映画だからといって、御涙頂戴が必ず必要とは限らない。成長が、必要なのか。物語において、絶対に描かれないといけないものなのか。そんなに、狭小ではないだろう。
物語が、必ず感情を揺さぶろうとする必要もない。それぞれが、必死に生きている。映像と音が、それを強調する。説明などない。登場人物が、わからないかもしれない。いや、そもそも、この映画においては、どいらないのだ――だけど、揺さぶられたのだ。
映像の迫力、音楽の圧力、構成の妙。
そして……あの終盤、陸海空が一つにまとまった、あの無音の場面……あれを観るだけで、価値がある。
美しいと思った。
映画館で、観るべき映画である。
観るというよりも……映画館で、体験すべき映画である。