小説置き場2

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富士登山記③

時間が、過ぎていく。

夏の日差しが少しずつ薄れ、やってくるのは夕暮れ、黄昏、そして――闇。

2日目の予定は次のとおりである。

山小屋11時→ナイトハイクにて山頂へ→しばらく待機してご来光→余裕があれば山頂散策、余裕がなければ砂走り経由で5合目へ。そのあとはバスで富士山駅→だらだら町田駅

完璧! 完璧よ!(自画自賛、何も完璧ではない)

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山登りを始めて、雲海を目にするのは初めてだった。

1年目は高尾山近辺。

2年目は塔ノ岳近辺。

3年目にして、雲海。

少しずつ、フィールドが広がっている。

到着後は、横になったり、待合室みたいな座敷でごろごろしながらお菓子食べたりしながらだらだら過ごしていた。

時折、ぽつぽつという不穏な音を尻目に、それなりに暖かい山小屋で快適に過ごす。そうやって、高地に順応しようと足掻いていた。

シャワーやお風呂はないけれど、さくっと着替えておく。

荷物整理、めんどくさい。

前夜、ジップパックを買えなかったことを後悔。

日中快適に過ごさせてくれた帽子とTシャツを、一緒にしてビニール袋の中へ。

ここで、大きなミスを一つ犯す。

翌日の日中のことを、まったく考えていないアホが一人――。

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夕ご飯は、山小屋といえば当然カレー。

って、昼食ったばかりじゃねえぁか!

2杯食べました(満腹)

夜になる。消灯後、たくさんあるベッドの隅っこに追いやられるという苦行を経る(もっと広く使わせてよー、20人寝れるベッドの端っこに男3人。山小屋故?)。

その間にツアー客が仮眠をとりに訪れるが、そもそも、まともに寝られるわけでもなく、だらだらだら、冴えた目を無理やり閉じて、その時間に備えていた。

時間は立ち止まってくれない。

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ヘッドランプの明りが、つづら折りの階段に灯る。

明り一つ一つが、登山者なのだ。

それは、幻想的な光景だった。

そして、その一つに、自身もなるのだ。

仮眠をとったツアー客が山小屋を離れ終わった午後11時半――お弁当をもらい、ご来光を目指して出発。気温は10度をゆうに下回っている。

ノースフェイスのミット帽。

上下にモンペルのジオラインを。

ノースフェイスの長袖に、パタゴニアのナノエアハイブリッドにフーディパンツ。

防寒装備ましまし。

ご来光を見るには、夜間1時間程度の待機が必要。

であればこその装備である。さらにレインウェアを着れば、何とかなるだろう。

そう小雨じゃなければね!

って、まあまあ寒い。

かなり、寒い。

ガスが出てきて、余計に寒い。

が、動いていれば問題ない。

地面は岩場、ひたすら岩場であり、手を使いながら道を探す。さながらボルタリングである(未経験)。

しかし、こういう道にはそこそこ慣れている。

問題ない。

そう、動いていれば――8合目、半ばであった。

突然、それはやってきた。やってきてしまった。

足が動かない。

息が、重い。呼吸の一つ一つが、ぎこちなく、肺が軋んでいる。

ガス欠。まさに、ガス欠だった。

この症状は、一つしかない。

高山病だ。

山小屋が7合目と比較的低く、順応できなかったのか。

それとも、睡眠時間の少なさか。

元来、対応できない身体なのかもしれない。

しかし、かかってしまったのである。

今、思い返せば、である。

登ってる最中は、体力なさすぎだろうとしか考えていませんでしました。睡眠時間のせいかーって。正常な思考が出来なかったのかもね(危険)。

それからは苦痛の連続である。

無数とも思える折り返し。

折り返すたびに、一息つく。つくしかない。身体が欲する酸素に、呼吸が追いつかないのだ。筋肉はまだまだ余裕があるのに、肺は限界を迎えていた。

ツアーに参加していれば、おそらくリタイアだっただろう。そのぐらい、難儀していた。

そのうえ、小雨が体力を奪っていく――そう、雲、霧、ガス――小雨。レインウェアを羽織り、バックパックにカバーをかぶせて対応する。

這うように、ゆっくりとゆっくりと、山頂に向かっていく。

ここまで来てしまったのだ。

ご来光を見ずに、帰ってたまるか!?(危険)

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到着!

到着したぞ!

多分、午前3時半ぐらい!

まだ、山頂は疎ら、山小屋も開いていない時間に辿り着いた!

寒い!

レインウェアを着てるけど、寒い!

フリースを取り出せなくて、装備が足りない、若干辛い。

荷物整理がうまくいっていないのだ。

もうこうなったら、日本一高いカップヌードル食うわ!(800円)。

山小屋に入るまで、30分程度。その時間のなんと辛いことよ。山小屋が開いた瞬間に駆け込めばよかったけど、スタートダッシュに失敗。渋々並ぶはめに。

カップヌードルが、こんなにおいしいだなんて。周囲になんかもう、体調不良な人がいっぱいいてカオス。低体温症じゃね?

さぁ、ここからは日の出を待つだけ。

氷点下、小雨の中、じっと待つ――だから、寒いって言ってるだろうが!

アルミでできた防寒具を羽織ってみたけど、使い方が悪いのかさっぱり用をなさない。

寒い寒い寒い、かたかたかた。

息が白い。

視界も白い。

待つ。ここまで来たのだ。

見て、やろう。

みえなくてもいい。その時間までは、いてやろう。ただのやけくそである。

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震えながら、待つ。

その時を。

その時間を。

ツアーの中には、さっさと退散してしまった人達も多かった。

恐らく、それが正解だろう。

小雨、ガス。

ご来光を見るには、相応しくないシチュエーション。

だが、今の自分は単独登山客。いけるところまでいってしまうのが、個人というもの。

だからこそ――。

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その瞬間――何度も何度も、声をあげたのだった。