小説置き場2

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狼風奇譚~第9話~居残り編

「少し、身体を動かすか」
「いい考えね」
 お茶を飲んで談笑していた二人が、こちらをむく。いやな予感がする。
「白狼大師の弟子の腕前を見てみたいしな」
 
 庭に無理矢理出され、練習用の剣を持たされた。瑶殿と空彩殿も剣を持っている。
 道三殿も剣を持たされている。
「なにをブツブツ言っているのだ?」
「空彩殿。俺は剣術は上手くないぞ」
 道三殿の頬が赤く腫れている。相手をするのを嫌がって、瑶殿に殴られたのだ。
「なんでこんな奴と結婚したのだ?」
「こんな奴って・・・。本当は強いのよ、この人」
 道三殿が首を横にふっている。それを見て、空彩殿が苦笑した。
「自分より強い者としか結婚しないと言っていたのにな」
「この人は私より強いの」
 はいはい、と空彩殿が返事をした。道三殿はまだ首を横にふっていた。自分はただ話しを聞いていた。
「そろそろ、やるか」
 そう言って、空彩殿が剣を構える。瑶殿と、道三殿が離れる。って、俺が相手するのか!?
「あの、私が相手を?」
「当たり前だ」
 仕方がない。こちらも、剣を構える。
「いい構えだな」
「あ、はい」
 空彩殿が、打ち込んでくる。それをうけながす。癖の無い、剣だった。
「少し、上げるぞ」
 早く、鋭くなった。さばききれない。剣を、とばされた。
「なかなか筋がいいな」
 息が切れていた。空彩殿には、変わった様子はない。
「もう少し鍛えたら、私を越えるかもしれんな」
「ありがとうございます」
 お世辞だと分かっていても、一応礼をする。そのまま、道三殿のところに向かう。道三殿は、木陰で休んでいた。
「強かっただろ」
「ええ」
 瑶殿の二刀が、空彩殿の剣と交わり始めた。舞のような、交わりだった。
「あのぐらいになるのに、どれぐらいかかるのでしょうか?」
「知らん、そんなこと俺に聞くな」
「・・・・・・」
「なぜ、瑶殿と結婚できたのですか?」
「ああ!?」
「空彩殿が、瑶殿より強い者としか結婚しないとかなんとか」
「ああ、それか。昔、まだ若かった頃瑶が山ん中で魔獣と戦っているのにでくわしてな」
「ええ」
「瑶が追いつめられたところを助けたのさ」
「術を使ってですか?」
「いや、瑶に大分痛めつけられてたからな。杖で一振りしたらすぐ倒れたよ」
「・・・」
「で、自分よりお前は強い、結婚してくれって言われてな」
「それで結婚したのですか?」
「じゃないと殺されそうだったし」
「それは・・・」
 二人に目を移す。舞のようだった交わりが、嵐のようになっていた。
「そう、かもしれませんね」
「結婚して良かったけどな」
「そうみたいですね」
「白狼にも早く相手が見つかるといいが」
「白狼殿にはそういう話は?」
「ないな」
「ふ~ん」
「身近すぎて気付かないんだろうな」
「そうですね」
 嵐が、治まっていた。手招きをしている。
「俺もか」
 がっくりとうなだれる道三殿と共に、二人のところに行く。
 明日は、起きることができないだろうな。薬はどれを使えば一番いいだろうか。そんなことを考えた・・・