小説-あやかし姫-第五話~前編~
雨の中の古寺。真夜中だというのに明かりがこうこうと。
明かりが漏れる一室に、妖達が集まっていた。
部屋の一段高いところに、着物姿の老人が。
難しそうな本を読んでおり、その姿には威厳がある。
その隣に山伏姿の若い男。
老人と同じ本を読んでいるが、同じところを開いたままで。
「どうした、黒之助?先ほどから手が止まっておるぞ」
「え、いや、あの、そのですね・・・」
しどろもどろ。それを見ていた妖達が、やいのやいのと囃し立てる。
「クロさんには早すぎたんじゃあ・・・」
「頭領と同じ物を読みたいだなんておこがましいんですよ」
「もっと簡単な物から読んだらどうです?」
黙って聞いていた黒之助。段々顔が赤くなり。黙っているのをいいことに妖達はさらに騒ぎ出す。
「ええい!黙れ黙れ!!」
堪忍袋の緒が切れて、黒之助は妖達を追いかけ始める。それはさながら嵐のよう。
「クロちゃん、怒っちゃったね」
「そだな」
狐と狼。二頭は会話を交わしながら、冷ややかな目で嵐を見ている。
止めようともせず、少し離れたところでただ見ているだけであった。
「やれやれ・・・」
頭領がため息をつく。いつものことではあるが、面倒なことではあった。
「・・・?」
頭領が怪訝そうな顔をした。それを機に嵐がとまる。静寂が部屋を包み込んだ。
「泣き声・・・・・・赤ん坊の泣き声?」
どこからか聞こえてくる泣き声。小さく、か細く、雨の音にかき消されつつ。
「葉子、太郎」
狐と狼が老人の目の前に。二頭が頭を下げている。
「真夜中、それもこの雨の中だ。ちょっと様子を見てきておくれ」
「はい。それで、困っているようだったら?」
「そのときは二人に任せるよ」
それでは、そういうと二頭が部屋を出ていこうとする。頭領が急いで引き留めた。
「人の姿をとるんだよ、あと傘もさすんだよ。全く、そのために頼んだのだから」
ああ、二頭は笑みを浮かべて顔を見合わす。どこからか葉っぱを取り出すと、頭に乗せた。くるりと宙返ると煙が二つ。煙が消えると若い女と男の姿が。
「今度こそ、それでは」
二人が部屋を出て行く。それを見送ると、黒之助が頭領に話しかけた。
「どうして、あの二人なんですか?」
不満そうな顔。自分が呼ばれなかったのが不満なのだ。
「お前さんにはやってもらうことがあるからね」
そういって、頭領が部屋を見回す。
障子は破れ、畳はひっくり返り、妖達はそこかしこに散らばっている。
「二人が帰ってくる前に、後片付けよろしく」
本をまた読み出す。黒之助は、泣きそうな顔だった。
「こっちからだね」
「ああ」
葉子と太郎。二人は傘をささずに、雨の夜道を駆けていた。
雨に濡れた様子はなく、駆ける早さは尋常ではない。
「この辺だよ」
「・・・・・・あそこだ」
山でもっとも高い木。そこから泣き声は聞こえてきていた。
木の根本には綺麗な着物を着た赤ん坊が泣いていた。
「この子・・・だけ?」
「周り見てくる」
太郎が駆け出す。残った葉子は赤ん坊を抱える。
「よしよし、良い子だからね」
赤ん坊が泣きやみ、不思議そうな顔をした。
葉子が顔を近づけると、おどおどと手を伸ばしその長い髪をつかむ。
そして赤ん坊は、笑った。かわいらしい、笑顔だった。
「よう」
「どうだった?」
「人っ子一人いねえ」
「そう・・・」
「捨て子か?」
「さあね」
「こんなにかわいいのにな」
赤ん坊をゆっくりと揺らす。
「とりあえず、戻ろうか」
「ああ」
二人は戻り始めた。赤ん坊がいるので傘をさしてゆっくりと。
誰かに会うかと思ったが、誰にも会わなかった。
それがまた、二人を暗い気持ちにさせた。
明かりが漏れる一室に、妖達が集まっていた。
部屋の一段高いところに、着物姿の老人が。
難しそうな本を読んでおり、その姿には威厳がある。
その隣に山伏姿の若い男。
老人と同じ本を読んでいるが、同じところを開いたままで。
「どうした、黒之助?先ほどから手が止まっておるぞ」
「え、いや、あの、そのですね・・・」
しどろもどろ。それを見ていた妖達が、やいのやいのと囃し立てる。
「クロさんには早すぎたんじゃあ・・・」
「頭領と同じ物を読みたいだなんておこがましいんですよ」
「もっと簡単な物から読んだらどうです?」
黙って聞いていた黒之助。段々顔が赤くなり。黙っているのをいいことに妖達はさらに騒ぎ出す。
「ええい!黙れ黙れ!!」
堪忍袋の緒が切れて、黒之助は妖達を追いかけ始める。それはさながら嵐のよう。
「クロちゃん、怒っちゃったね」
「そだな」
狐と狼。二頭は会話を交わしながら、冷ややかな目で嵐を見ている。
止めようともせず、少し離れたところでただ見ているだけであった。
「やれやれ・・・」
頭領がため息をつく。いつものことではあるが、面倒なことではあった。
「・・・?」
頭領が怪訝そうな顔をした。それを機に嵐がとまる。静寂が部屋を包み込んだ。
「泣き声・・・・・・赤ん坊の泣き声?」
どこからか聞こえてくる泣き声。小さく、か細く、雨の音にかき消されつつ。
「葉子、太郎」
狐と狼が老人の目の前に。二頭が頭を下げている。
「真夜中、それもこの雨の中だ。ちょっと様子を見てきておくれ」
「はい。それで、困っているようだったら?」
「そのときは二人に任せるよ」
それでは、そういうと二頭が部屋を出ていこうとする。頭領が急いで引き留めた。
「人の姿をとるんだよ、あと傘もさすんだよ。全く、そのために頼んだのだから」
ああ、二頭は笑みを浮かべて顔を見合わす。どこからか葉っぱを取り出すと、頭に乗せた。くるりと宙返ると煙が二つ。煙が消えると若い女と男の姿が。
「今度こそ、それでは」
二人が部屋を出て行く。それを見送ると、黒之助が頭領に話しかけた。
「どうして、あの二人なんですか?」
不満そうな顔。自分が呼ばれなかったのが不満なのだ。
「お前さんにはやってもらうことがあるからね」
そういって、頭領が部屋を見回す。
障子は破れ、畳はひっくり返り、妖達はそこかしこに散らばっている。
「二人が帰ってくる前に、後片付けよろしく」
本をまた読み出す。黒之助は、泣きそうな顔だった。
「こっちからだね」
「ああ」
葉子と太郎。二人は傘をささずに、雨の夜道を駆けていた。
雨に濡れた様子はなく、駆ける早さは尋常ではない。
「この辺だよ」
「・・・・・・あそこだ」
山でもっとも高い木。そこから泣き声は聞こえてきていた。
木の根本には綺麗な着物を着た赤ん坊が泣いていた。
「この子・・・だけ?」
「周り見てくる」
太郎が駆け出す。残った葉子は赤ん坊を抱える。
「よしよし、良い子だからね」
赤ん坊が泣きやみ、不思議そうな顔をした。
葉子が顔を近づけると、おどおどと手を伸ばしその長い髪をつかむ。
そして赤ん坊は、笑った。かわいらしい、笑顔だった。
「よう」
「どうだった?」
「人っ子一人いねえ」
「そう・・・」
「捨て子か?」
「さあね」
「こんなにかわいいのにな」
赤ん坊をゆっくりと揺らす。
「とりあえず、戻ろうか」
「ああ」
二人は戻り始めた。赤ん坊がいるので傘をさしてゆっくりと。
誰かに会うかと思ったが、誰にも会わなかった。
それがまた、二人を暗い気持ちにさせた。