小説置き場2

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小説-あやかし姫-第七話~5~

「しかし、いいんですかね」
「いいんじゃないの?」
 太郎と黒之助が酒を飲み交わしている。
 茨木はその後すぐに帰った。気を利かせたのだろう。
 今は皆でどんちゃん騒ぎの真っ最中だった。
 頭領が余分に頼んでいたので、料理も酒もまだまだあった。
「どう、おいしい?」
 姫様が聞くと、朱桜はこくりとうなずく。朱桜の周りには、姫様と沙羅と葉子が座って一緒に食べている。他の妖達も集まっていたのだが、酒が入ってそこら中を走り回っていた。
 朱桜は、姫様に懐いているように見えた。口を開くことはなかったが。
 朱桜が小さくあくびをした。
「眠い?」
 うなずく。無理もなかった。もう夜も遅い。三人で目配せすると、姫様と葉子の部屋に連れて行き、布団に寝かせる。すぐに、寝息を立て始めた。
「私もそろそろ・・・・・・」
「そろそろ?」
「川に戻ろうかと」
「一晩泊まりませんか?」
「い、いいんですか?」
「今日は本当に色々と迷惑をかけましたし・・・・・・」
「迷惑なんてそんな!」
「夜道はきけんだからね」
 に~、と葉子が笑う。薄気味悪い笑み。なんとなく夜道が心配になってくる。
「じゃ、じゃあ、喜んで」
「はい」
「決まりだね」
 この部屋、広いから四人でもだいじょうぶさね、そういって葉子は布団をしく。
「あの惨状はど、どうするんです?」
「頭領が素面だからなんとかしてくれるかと」
「あたい、風呂湧かしてきますね」
「お願いします」
「お、お願いします」
「さて、私も・・・?」
 姫様は立ち上がろうとして、裾を握られていることに気がついた。小さな手が裾をつかんでいた。
「あれあれ」
 かっぱの子が朱桜の顔をのぞき込む。起きているのかと思ったが、確かに寝ているようだった。
「なんだか、姉妹みたいですね」
 姫様も朱桜の顔をのぞき込んだ。
「姉妹・・・・・・」
 彩花には身寄りがない。皆に大事に大事に育てられてきたが、それでも寂しいという気持ちがたまにおこる。それは贅沢なことだと思っていても、ふっと起こるのだ。朱桜は父と叔父に大事にしてもらっているようだったが、母親がいない寂しさがあるのかもしれない。そう、思った。
「せっかく風呂を沸かしにいってもらったのに、無駄になりましたね」
「このまま寝るんですか?」
「離してくれそうにないですから・・・」
 朱桜の小さな手は、固く握られていた。
「私、風呂に入ってきますね」
 そろりそろりと部屋を出て行こうとする。出口のとこで立ち止まった。
「今日は色々あったけど、楽しかったですよ」
「本当、ですか?迷惑しかかけてないような」
「ええ、楽しかったです」
 また、明日。そういって出て行った。姫様が手を朱桜の手に添えると、着物を離し、姫様の手を握った。
「私が姉か・・・」
 今更ながら、妖の年齢はその容姿に反映されないのを思い出した。もしかしたら自分より年上かもしれない。
「明日、聞いてみようか」
 目をつぶり、闇の中に行く。明かりがまだ点いているが、気にならなかった。妖達が騒いでいる音が聞こえるが、それもあまり気にならない。そのまますとんと眠りに落ちる。
「本当に、姉妹みたいだよ」
 そう聞こえた気がした。