小説置き場2

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小説-あやかし姫-第十話~葉子と頭領~4

「そなたが八霊殿かえ」
「はい」
 葉子と頭領の前には、中央に見えた金色の尾の持ち主、妙齢の美女、玉藻の姿があった。なるほど九尾の一族を束ねていることはあり、その姿には威厳と高い妖気が見てとれる。金の幕で仕切られたそこには、三人しかいなかった。
「鬼の兄弟から話は聞いてるよ」
「鬼の兄弟?」
酒呑童子茨木童子にさ。あんた茨木の妖気を受け止められるんだろ?」
「ええ、まあ」
「茨木の妖気を受け止められる奴なんてなかなかいないからね。葉子と一緒にいると聞いて会いたくなったのさ」
「そうだったのですか」
 葉子への招待状に自分の名があったとき、八霊は不思議に思ったものだった。酒呑童子茨木童子と聞いて合点がいく。二人は八霊の友人だった。
「二人はここへ?」
「もう帰ってしまったけどね。女を引っかけてる酒呑童子茨木童子が無理矢理引っ張っていったよ。あいかわらず仲のいい兄弟なこった」
 ぴくりと葉子が反応した気がしたが、一瞬のことなので八霊にはよく分からなかった。
「葉子はあんまり変わってないね」
「玉藻様もお元気そうで何よりです」
「何だか年寄りにいうみたいだね」
「め、滅相もない!」
「ならいいけど。私を年寄り扱いする奴は」
 生かしちゃおかない。やけにそこだけ大きかった。
「さてと、葉子。本題に入ろうかい」
「本題?」
「また戻ってきてほしいんだよ」
「戻る・・・・・・」
「あんたは若い頃の、いや今でも若いけどね。とにかくあたしによく似ている。皆の人気もそれなりにあったし、あたしの後継者候補なんだけどね」
「後継者候補・・・・・・」
「どうだい、悪い話じゃないと思うけど」
「・・・・・・それは妹には」
「言ってないよ。木助が後継者候補だとは二人に言ったけどね」
 確かに、木助は優秀だった。葉子の親が婿養子にするだけのことはある。
 それを聞いて葉美はたいそう喜んでいたそうだ。
「さすがにあんたも、とは言えなかったよ」
「じゃあ、お断りします」
 葉子は即答した。そこに迷いは無かった。
「そうかい、断るかい」
「ええ」
「妹思いだよね、あんた」
「・・・・・・」
「そういうところも気にいってるんだけどね」
「ありがとうございます」
「葉美にはあったかい?」
「一応・・・・・・」
「相変わらず?」
「ええ、まあ」
「こればっかりはね」
 あたしの力でもね、そう言って巨大な尾を揺らす。
「次の客がお待ちのようですからそろそろ」
「ああ、また顔見せなよ」
「はい」
「じゃあね」
 二人が出ていくのを、玉藻前は名残惜しそうに見送った。