小説置き場2

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小説-あやかし姫-第十話~葉子と頭領~3

「お前に妹がいたとはな」
「大分歳が離れていますし、腹違いですけどね」
 なんとなく葉子の顔は沈んでいた。
「あの二人夫婦なんですよ」
「そうなのか」
「・・・・・・」
「頭領」
「今は八霊の方が良いじゃろ」
「そうですね、ここじゃあ頭領は玉藻様のことですもんね」
「うむ」
「八霊様、なんで私が赤ちゃんの世話に慣れていたか分かります?」
「は?」
「ちなみに、私は独身ですから」
「・・・・・・分からん」
「私、あの二人の親代わりなんですよ」
「親?」
「そう、親代わり」
「話がつかめんぞ」
「実は・・・」
 葉美と木助は同じ年に生まれ、そして同じようにすぐに母を失った。それで、当時暇をもて遊んでいた葉子が嫁入り修行の一環として二人を押しつけられたのだ。
「私は最初いやだったんですがね」
 散々駄々をこねたが、玉藻の鶴(?)の一声で話は決まった。
「二人はよく懐いてくれました」
 とくに木助のほうがよく懐いてくれた。四六時中べったりで、よく葉子のあとをついてきた。
「二人は仲が良くってね」
 よく二人で遊んでとせがんできた。三人であやとりをしたり、枕元で本を読んであげたり。
「五十年ほどたってからでしたかね」
 葉美が木助を好いているのが分かってきた。そして葉子に嫉妬していることも。
 葉子にとって木助には特に恋愛感情といえるものはなかった。可愛い弟としか見ていなかった。
 それでも、葉美には木助がいつも葉子に甘えるのが気にくわなかったらしい。
 いつしか、葉美は葉子の逆を目指すようになった。動の葉子に対して静の葉美。
 よく似た姉妹は似ていない姉妹になった。
「二人が二百歳のとき、あたし達の家に木助が婿入りすることになったんですよ」
 葉子の家には男の子がいなかった。それで分家筋に当たる木助が婿養子になることになった。
 どちらにするかは木助が決めるということに。
「葉美は気が気でなかったでしょうよ。どんどんやせていってましたから」
 木助は姉を選ぶかもしれない。
 葉美が木助を好いているとはっきりと口にしたことはない。
 でも、ずっと思い続けていた。木助も分かってくれていると思った。
 それでも、心配だった。葉子が普段通りなのがまた、葉美の苛立ちを募らせた。
「当日は特に酷かったですよ」
 幽鬼のような青白い顔。やせ細った肢体。目だけが異様な熱を帯びていて。
「木助は葉美を選びました」
 葉子は自分の母親みたいなものだから、結婚というのは・・・。申し訳なさそうにそういった。
「私も同じことを考えてましたけどね」
 そっちの方がいいよね、と思った。
「葉美は泣いて喜びました」
 ずっと木助の手を取り泣いていた。葉美ちゃんは自分をずっと好いてくれていたからと、木助がそういうと、葉美はまたおいおい泣いた。
「でも木助はあまり変わらなかった」
 葉美と結婚しても、よく葉子のところにきた。それでも葉美に遠慮してか大分減りはしたのだが。
「葉美は私への嫉妬のあまり身体を壊しました」
 木助はやはり葉子のことが好きなのでは、というものがいた。明るい葉子のほうが人気があったのもある。葉美はどことなく冷たい、そう言われていたから。
「そろそろ外に出る頃かな、そう思いましてね」
 外に出ると打ち明けたときの葉美の顔は今でも忘れられない。
「あたしにとっちゃあ大事なたった一人の妹なんですけどね」
 葉子の出ていく日、葉美は姿を見せなかった。一族の中でたった一人だけ。
「それから頭、いや八霊様に会うわけですよ」
「それで今に至る、か」
「ええ」
「複雑だな」
「ええ、さ、この話はこれでしまいです」
「どうして、そこまで葉美殿の気持ちを?」
「妹から長い、長い日記を見せられましてね」
 それは出ていくと言った日に。一部屋丸ごと埋め尽くす日記の山には、たくさんのことが書いてあった。
「この話、誰にも話さないで下さいよ」
「わかった」
「仲良く、したいんですけどね。昔みたいに」
「そうか・・・・・・」
「ちょっと顔洗ってきますね」
「ああ」
 葉子が井戸に走っていく。頭領はぽつんと立っていた。