小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

第二十二話(2)~鬼~

 牛鬼が動く。わさわさと見えない道を空に向かって歩いていく。
 光の輪。それをくぐる。くぐった側から、ゆっくりと身体が消えていく。
 顔から胴、そして牛車と順に。
「あの、彩花さま」
 牛車の中。
 振動は無い。
 二人だけ。
 広くは、ない。
「はい?」
「寺の妖さん達、皆行きたくなさそうでしたけど・・・」
「そうですか?そんなことないですよ」
「・・・はあ」

「いや、行っちゃったよ」
「姫さんもよく鈴鹿様と付き合えるね」
「悪い人じゃないんだけど・・・」
「俺、あの人苦手」
「あたいも」
「拙者も」
「わしも」
「彩花殿は初めてだしいいのかな」
「しばらくは朱桜ちゃんで一つ」
「うむ」

「着いたぞ」
 牛車を、とんとん。
「うん、降りましょうか」
「え?」
 朱桜は目を白黒。ほとんど時間は経っていない。
 遠い場所だと聞いていたのに。
「びっくりしたでしょ?私も最初は驚きました。」
「こいつは距離を超えられるのさ。時間はちゃんと経ってるけどな」
「・・・」
 よく、分からない。
「いや、実際の所俺もよく分からないんだがな。ちゃんと着くから細かい所は気にするな」
「さ、早く」
「・・・」
 しきりに頭を振りながらも、姫様に連れられ牛車を降りる。
 目の前には巨大な石。
 それだけが広いすすき野原にぽつんと落ちていた。
「あの、どこに鈴鹿様の住処が?」
「朱桜ちゃんここ、ここ」
 その石に姫様手をつける。
「彩花さま、手!」
 大きな、声を出した。
 手、手首、肘・・・順番に消えていく。
「心配してくれるんですね。大丈夫、ここが入り口ですよ。お先に」
 にっこり笑う。すうっと、全身が、消えた。
 すでに大獄丸もいない
 も~と鳴く牛鬼と朱桜だけ。
 その牛鬼もゆっくりと巨岩に向かって進む。
 のっそりのっそり消えていった。
「ここに・・・」
 姫様のように手をつける。手の先が、消えた。
 すぐに手を離す。元に戻る。
「・・・」
 怖かった。でも、ここも怖い。なにせ一人きりなのだ。
 目をつむって手をかざす。
 ふわふわとした感覚に包まれた。