あやかし姫~鬼姫、暴走(4)~
「すばしっこいねえ」
少女は、肩で息をしていた。
こきこきと、鬼姫が首を鳴らす。
溢れていた膨大な妖気は、全て自分の中に収めて。
鬼姫は、結局楽しんでいた。
「ほらあ!」
「にゃあ!!!」
「これは……一体?」
彩花と朱桜。砂埃舞い立つ大広間へ。
「彩花さま、あれ!」
「鈴鹿御前さま! とあれは?」
どなたでしょうかと首傾げる姫様。
朱桜はじっと目を懲らす。
「……あ!」
何かに気づいたのか、朱桜が姫様の背を離れ少女に駆け寄る。
姫様も慌てて朱桜の後を追う。
どんどん、引き離されていく。
「まってー、朱桜ちゃーん!」
「彩花さま、はやく!」
少女は、腰をぺたんと下ろしていた。
その喉元には、鈴鹿御前の長い長い爪が、突き立てられていて。
少女の首の輪についた鈴をちりん、っと鳴らす。
「さてと……覚悟おし」
「にゃ……」
「……詫びの言葉の一つも、ないか」
少女の、泣き顔。
鈴鹿御前が静かにその長く伸びた爪を振り上げた。
そのとき、女の子が二人の間に。
「朱桜ちゃん、そこをどいて」
立ちふさがる朱桜。
ふるふると首を横に振る。
少女は朱桜の背に隠れる。
「そいつはね、悪い」
「鈴ちゃんだよ! この子、鈴ちゃんだよ!」
「……鈴? そういえばさっきから見かけてない……」
「鈴ちゃんだよね! ほら、この首輪!」
朱桜が少女の首飾りを指差すと、
「にゃんにゃん!」
少女は首を大きく縦に振った。
鬼姫はひとしきりぽかーんとすると、笑い出した。
笑った後に、きっと鈴を睨んだ。
「そっか……鈴だったのかあ……鈴は、あたしを騙してたんだ」
「鈴、鹿御、前さま?」
姫様が、息を切らしながら。
「……鈴は妖だったんだ。ふーん。あたし、全然知らなかった。知っていたら」
一緒に暮らさなかった。
「俊宗、いい男だもんね。でも、俊宗はあたしのもの。だからさあ……」
死んで、ね? いいでしょう?
もう、十分じゃないの?
「待って、鈴鹿御前さま! 鈴…ちゃんにも何か事情が!」
姫様が、鬼姫の前に。
鈴は怯え、ただただ震え。
朱桜も鬼姫の狂気に恐怖を感じ。
姫様だけが、頼みの綱。
「彩花ちゃん、どいて!」
「どきません!」
「どいてったらどいて!」
「どかないったらどかない!」
「きー!!!!!!」
「うー、まてまて」
聞き覚えのある男の声。
藤原俊宗の声。
頭をふらふらさせながら、必死に鈴鹿御前の後を追ってきたのだ。
「待ってて、俊宗。今この泥棒猫を始末するから。どいて、彩花ちゃん? 朱桜ちゃん?」
「いや!」
「いやです!」
「鈴鹿、待て。鈴は、妖じゃない。ただの仔猫だ」
「はあ! どっからどうみても妖の類じゃないか!」
「なあ、鈴。俺の盃、舐めたか?」
「……にゃん」
うなだれる鈴。
「全部、か?」
「……にゃん」
「それが、どうしたっていうの?」
押し殺した、声。
「神酒、だぞ。それも猫神の」
「あ……」
「神酒?」
不思議そうな朱桜。姫様が耳打ち。
「神様が飲むお酒です。色々と不思議な効能があるんですよ」
「へー。ということはそれを舐めたせいで鈴ちゃんはこうなったのですか?」
「多分」
鈴鹿御前も同じ考えに達したようで、
「……ということは」
「ということ」
鈴鹿御前、鈴を見る。
鈴に近づくと、ふむふむとじっと見る。
「あー、鈴、妖じゃないね。ごめん」
鈴、にっこり笑う鬼姫を見て、
怯える。
「そんなに、怯えなくていいよ。だって鈴、妖じゃないんでしょう。俊宗をあたしから奪い取ろうなんて、思ってないんでしょう?」
こくこくこくこく大きく首を動かす鈴。
涙目で。
「じゃあ、いいや。鈴、どのぐらいで元に戻るかな?」
「ちょっと待て。今、鈴を元に戻せそうなもの探してくる」
「よろしく~。じゃあ、鈴、行こうか。女四人で、楽しく、ね」
四人、鈴鹿御前の部屋に。
鈴、朱桜、怯えて一言も発さず。
姫様は、そんな二人を見て苦笑い。
鬼姫は、にこにこ笑っていたが、それが逆に怖い。
朱桜は、鈴鹿御前さま怖いな~っと思った。
どことなく、父さまや叔父上と似てるなあっと思った。
鈴は、鈴鹿御前に、
「そんなに怖がらなくていいよ。鈴は、特別だもの」
と言われ、ほっと一安心。
やっぱり、怯えているけど。
ちなみに、俊宗。
義兄大獄丸をはじめ、城の鬼達が倒れているのをみて、どうしたものかと頭を抱えていた。
少女は、肩で息をしていた。
こきこきと、鬼姫が首を鳴らす。
溢れていた膨大な妖気は、全て自分の中に収めて。
鬼姫は、結局楽しんでいた。
「ほらあ!」
「にゃあ!!!」
「これは……一体?」
彩花と朱桜。砂埃舞い立つ大広間へ。
「彩花さま、あれ!」
「鈴鹿御前さま! とあれは?」
どなたでしょうかと首傾げる姫様。
朱桜はじっと目を懲らす。
「……あ!」
何かに気づいたのか、朱桜が姫様の背を離れ少女に駆け寄る。
姫様も慌てて朱桜の後を追う。
どんどん、引き離されていく。
「まってー、朱桜ちゃーん!」
「彩花さま、はやく!」
少女は、腰をぺたんと下ろしていた。
その喉元には、鈴鹿御前の長い長い爪が、突き立てられていて。
少女の首の輪についた鈴をちりん、っと鳴らす。
「さてと……覚悟おし」
「にゃ……」
「……詫びの言葉の一つも、ないか」
少女の、泣き顔。
鈴鹿御前が静かにその長く伸びた爪を振り上げた。
そのとき、女の子が二人の間に。
「朱桜ちゃん、そこをどいて」
立ちふさがる朱桜。
ふるふると首を横に振る。
少女は朱桜の背に隠れる。
「そいつはね、悪い」
「鈴ちゃんだよ! この子、鈴ちゃんだよ!」
「……鈴? そういえばさっきから見かけてない……」
「鈴ちゃんだよね! ほら、この首輪!」
朱桜が少女の首飾りを指差すと、
「にゃんにゃん!」
少女は首を大きく縦に振った。
鬼姫はひとしきりぽかーんとすると、笑い出した。
笑った後に、きっと鈴を睨んだ。
「そっか……鈴だったのかあ……鈴は、あたしを騙してたんだ」
「鈴、鹿御、前さま?」
姫様が、息を切らしながら。
「……鈴は妖だったんだ。ふーん。あたし、全然知らなかった。知っていたら」
一緒に暮らさなかった。
「俊宗、いい男だもんね。でも、俊宗はあたしのもの。だからさあ……」
死んで、ね? いいでしょう?
もう、十分じゃないの?
「待って、鈴鹿御前さま! 鈴…ちゃんにも何か事情が!」
姫様が、鬼姫の前に。
鈴は怯え、ただただ震え。
朱桜も鬼姫の狂気に恐怖を感じ。
姫様だけが、頼みの綱。
「彩花ちゃん、どいて!」
「どきません!」
「どいてったらどいて!」
「どかないったらどかない!」
「きー!!!!!!」
「うー、まてまて」
聞き覚えのある男の声。
藤原俊宗の声。
頭をふらふらさせながら、必死に鈴鹿御前の後を追ってきたのだ。
「待ってて、俊宗。今この泥棒猫を始末するから。どいて、彩花ちゃん? 朱桜ちゃん?」
「いや!」
「いやです!」
「鈴鹿、待て。鈴は、妖じゃない。ただの仔猫だ」
「はあ! どっからどうみても妖の類じゃないか!」
「なあ、鈴。俺の盃、舐めたか?」
「……にゃん」
うなだれる鈴。
「全部、か?」
「……にゃん」
「それが、どうしたっていうの?」
押し殺した、声。
「神酒、だぞ。それも猫神の」
「あ……」
「神酒?」
不思議そうな朱桜。姫様が耳打ち。
「神様が飲むお酒です。色々と不思議な効能があるんですよ」
「へー。ということはそれを舐めたせいで鈴ちゃんはこうなったのですか?」
「多分」
鈴鹿御前も同じ考えに達したようで、
「……ということは」
「ということ」
鈴鹿御前、鈴を見る。
鈴に近づくと、ふむふむとじっと見る。
「あー、鈴、妖じゃないね。ごめん」
鈴、にっこり笑う鬼姫を見て、
怯える。
「そんなに、怯えなくていいよ。だって鈴、妖じゃないんでしょう。俊宗をあたしから奪い取ろうなんて、思ってないんでしょう?」
こくこくこくこく大きく首を動かす鈴。
涙目で。
「じゃあ、いいや。鈴、どのぐらいで元に戻るかな?」
「ちょっと待て。今、鈴を元に戻せそうなもの探してくる」
「よろしく~。じゃあ、鈴、行こうか。女四人で、楽しく、ね」
四人、鈴鹿御前の部屋に。
鈴、朱桜、怯えて一言も発さず。
姫様は、そんな二人を見て苦笑い。
鬼姫は、にこにこ笑っていたが、それが逆に怖い。
朱桜は、鈴鹿御前さま怖いな~っと思った。
どことなく、父さまや叔父上と似てるなあっと思った。
鈴は、鈴鹿御前に、
「そんなに怖がらなくていいよ。鈴は、特別だもの」
と言われ、ほっと一安心。
やっぱり、怯えているけど。
ちなみに、俊宗。
義兄大獄丸をはじめ、城の鬼達が倒れているのをみて、どうしたものかと頭を抱えていた。