小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

愉快な呂布一家~戦姫~

 戦場の風。

 心地良かった。その風に、目をつぶって身を任せた。

 日の光が、呂布の黒い具足を照らす。

 赤兎が、上下に揺れる。

 それにあわせて、身体が上下に揺れる。

 軽く握った手綱から、早く走らせろという、思いが伝わってくる。

 まだだよ、と念を送る。たてがみを優しく撫でてやる。

 戦場だ、と呂布は思った。

 生きている、そう実感できた。だから戦場が好きだった。

 昔から好きだった。

 数え切れないほど戦ってきた。これからも、戦う。

 それが自分の生きている証だと思うからだ。

 殺して。ころして。コロシテ。

 天下など本当はどうでもよいのかもしれない。

 平和な世界を見てみたい。本心だけれど、自分がそれを治めている姿は想像出来なかった。

 でも、陳宮が、見たいと言った。

 貂蝉が、見たいと言った。

 高順が、見たいと言った。

 張遼が、見たいと言った。

 魏続が、宋憲が、侯成が、見たいと言った。

 だから、目指してみようと思った。

 そうすれば、戦える、生きていられる。

 麾下の騎馬隊は、止めさせた。心配する陳宮に、

「いいからいいから」

 と返事をした。

 単騎で歩む。

 前は、よく単騎で駈けて、丁原に怒られたものだった。

 あの優しい怒鳴り声は、もう聞けない。

 目を開ける。日差しが、眩しい。

 一騎、向かってくるのが見えた。

 ふっと、呂布は笑みをこぼした。

 いい目をしていると思った。

 刺すような、視線。

 殺気に満ち溢れている。

 心地よい憎しみ。

 また、目をつむった。

 赤兎に、「もう、いいよ」と話しかけた。

 赤兎が、歩を早めた。走り出した。

 風と一体になった。

 迅い。風を、斬る。

 戦場にいる者全てが、声を出せなくなった。

 劉備も、袁術も、固唾を飲んで見守った。

 一騎討ち。

 一瞬、音が世界から消えた。

 二人がすれ違う。

 呂布はまだ目を閉じていた。

 かつかつと、赤兎がまた歩きだした。

 主をその背からなくした馬が、袁術軍に向かって逃げていく。

 呂布は目を開けると、馬首を返す。

 叩き落とした相手に近づいていった。