徐州の戦(4)
傷ついた獣が、のたうち回っていた。
血が、流れていく。
四肢を、つたう。
それは、断末魔に似た動き。
それでも、獣は生きようとしていた。
夏惇侯「陳珪……やったな……」
歯ぎしりをする隻眼の将。
曹操軍筆頭武将、夏惇侯。
陳珪の軍が、呂布の軍に向かって動き出したのを見て、すぐに察した。
嫌悪感が、先にきた。
郭嘉「夏惇侯殿、どうする?」
軍師の姿。その男の腰につけた酒瓶が、からからとなった。
夏惇侯「郭嘉! こちらに回っていたのか!」
郭嘉「殿に、言われてな。あれはどういうことだ? あんた何か知っていたのか?」
夏惇侯「いや……だが、あいつが裏切った。それはわかる」
郭嘉「……詮索は、よそうか。俺は、いくぞ。あんたは?」
夏惇侯「……この機会を逃すことはできん……俺もいく」
郭嘉「わかった」
形勢が完全に傾いたのは、この瞬間だった。
夏惇侯軍三万。そして、郭嘉が参謀を務める騎馬隊一万。
その一万を率いるのは、夏侯淵。
曹操軍の中でも、最も獰猛で、最も迅い将。
計四万の曹操軍が、呂布軍の脇腹に食らいつこうとしたその瞬間。
戦の勝敗は、ほぼ決まった。
曹操「変わった……風が、変わった」
一時離れていた陳到が、また姿を現した。
趙雲が、どうしたのー?
と訊く。答えなかった。
趙雲も、気にしていない。
いつものこと、なのだ。
陳到「殿……ごにょごにょ」
劉備「へえ……曹操どん。陳珪が、裏切ったそうだよ。それも、呂布さんに深手を負わせて」
程昱「何を勝手なことを!」
程昱が叫んだ。自分たちよりも戦場の情報を手に入れられるはずがない、そう思っていたから。
曹操は、落ち着いていた。
曹操「そうか」
そのとき、曹操軍の斥候が走り込んできた。
荀彧「な!……殿、陳珪がやはり裏切ったそうです。呂布に、深手を負わせて」
程昱「え……」
劉備「ふふん、どうだいどうだい」
劉備、嬉しそうである。
曹操「なかなかどうして、読めんもんだな……虎痴、悪来。準備せよ。もう、脅えることもないわ」
許楮「へーい」
典韋「はい」
関羽「……呂布殿が……陳珪、凄まじい武勇の持ち主であったのですな」
劉備「違うよ」
張飛「?」
劉備「違う、さ。関さん、張さん、あの二人に負けないように働いておいで」
関羽「わかりもうした」
張飛「うおっしゃあ!」
陳到「私たちは……」
趙雲「僕たちは?」
劉備「おいらを、もしものことから守ってくんなー」
劉備は、程昱を見た。
曹操は、ぼーっとしていた。
曹操「……疲れがみえた高順達の突撃を、青州兵の包囲で、殲滅。呂布殿には、夏侯淵の部隊を当てる……賭だが、勝算のある賭だった……今は、詮無きこと、か……」
残念だ。そう、呟いた。
血が、流れていく。
四肢を、つたう。
それは、断末魔に似た動き。
それでも、獣は生きようとしていた。
夏惇侯「陳珪……やったな……」
歯ぎしりをする隻眼の将。
曹操軍筆頭武将、夏惇侯。
陳珪の軍が、呂布の軍に向かって動き出したのを見て、すぐに察した。
嫌悪感が、先にきた。
郭嘉「夏惇侯殿、どうする?」
軍師の姿。その男の腰につけた酒瓶が、からからとなった。
夏惇侯「郭嘉! こちらに回っていたのか!」
郭嘉「殿に、言われてな。あれはどういうことだ? あんた何か知っていたのか?」
夏惇侯「いや……だが、あいつが裏切った。それはわかる」
郭嘉「……詮索は、よそうか。俺は、いくぞ。あんたは?」
夏惇侯「……この機会を逃すことはできん……俺もいく」
郭嘉「わかった」
形勢が完全に傾いたのは、この瞬間だった。
夏惇侯軍三万。そして、郭嘉が参謀を務める騎馬隊一万。
その一万を率いるのは、夏侯淵。
曹操軍の中でも、最も獰猛で、最も迅い将。
計四万の曹操軍が、呂布軍の脇腹に食らいつこうとしたその瞬間。
戦の勝敗は、ほぼ決まった。
曹操「変わった……風が、変わった」
一時離れていた陳到が、また姿を現した。
趙雲が、どうしたのー?
と訊く。答えなかった。
趙雲も、気にしていない。
いつものこと、なのだ。
陳到「殿……ごにょごにょ」
劉備「へえ……曹操どん。陳珪が、裏切ったそうだよ。それも、呂布さんに深手を負わせて」
程昱「何を勝手なことを!」
程昱が叫んだ。自分たちよりも戦場の情報を手に入れられるはずがない、そう思っていたから。
曹操は、落ち着いていた。
曹操「そうか」
そのとき、曹操軍の斥候が走り込んできた。
荀彧「な!……殿、陳珪がやはり裏切ったそうです。呂布に、深手を負わせて」
程昱「え……」
劉備「ふふん、どうだいどうだい」
劉備、嬉しそうである。
曹操「なかなかどうして、読めんもんだな……虎痴、悪来。準備せよ。もう、脅えることもないわ」
許楮「へーい」
典韋「はい」
関羽「……呂布殿が……陳珪、凄まじい武勇の持ち主であったのですな」
劉備「違うよ」
張飛「?」
劉備「違う、さ。関さん、張さん、あの二人に負けないように働いておいで」
関羽「わかりもうした」
張飛「うおっしゃあ!」
陳到「私たちは……」
趙雲「僕たちは?」
劉備「おいらを、もしものことから守ってくんなー」
劉備は、程昱を見た。
曹操は、ぼーっとしていた。
曹操「……疲れがみえた高順達の突撃を、青州兵の包囲で、殲滅。呂布殿には、夏侯淵の部隊を当てる……賭だが、勝算のある賭だった……今は、詮無きこと、か……」
残念だ。そう、呟いた。