小説置き場2

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徐州の戦(5)

高順「いける! あとは、呂布殿がくれば!」

 崩しに、崩した。既に、三つの軍を潰走させた。

 しぶとく生き残っている軍も、もう間もなく潰せる。

 そのとき、魏続の軍と呂布殿の軍が加われば……

 高順は、自分の軍を一旦止めた。

 代わりに、宋憲と侯成の軍が残っていた軍に突撃していく。

 貫いた。潰走させた。

 これで、五分と五分。そう思った。

 ここからが、勝負だ。

 呂布殿は、前の戦で圧倒的な武勇を振われた。

 それが、生きてくる。

 狂気と恐怖が加速する。

高順「いける! 勝て……あれは?」

 馬を懸命に走らせている。味方の兵。
 
 動いたのかと、高順は思った。

 だが、違った。

 高順の、予想外のことを、伝令は話した。

魏続配下「こ、高順様!!! 陳珪が裏切りました! 呂布様が重傷を負って、それで、それで」

高順「なに? なにを、言っているんだ、お前?」

魏続配下「夏惇侯、夏侯淵もその後ろより参戦!」

高順「う、嘘だ!」

 高順が、その兵を殴りつけた。罪なき伝令は、馬から落ちた。

 その兵は、泣いていた。

魏続配下「う、嘘では、ございません! ご自分の目で確かめて下さい!」

 言われる前に、後方にいった。

 その、惨状をみた。魏続の軍が、食い破られつつある。

 兵力差に負けることなく、懸命に戦っていた。

宋憲「こ、高順殿!」

侯成「い、一体これは!」

 二人とも、泣きそうな顔をしていた。どうしていいか、わからないのだ。

 高順は、唇を噛みしめていた。血が流れ落ちるほど、噛みしめていた。

魏続配下「高順様!」

高順「呂布、殿は?」

魏続配下「私たちの軍に! ですが……」

高順「魏続、よくやった! 退くぞ!」

 辛い戦になる。そう思った。

 曹操軍本隊も、動き出す。確実に。

 いや……

宋憲「動いてやがる……」

 既に、動いていた。

 許楮・典韋率いる精兵騎馬隊、虎彪騎。

 狂猛たる青州黄巾兵。

 そして、関羽張飛の二傑。

高順「……いくぞ! 下邳城に戻る! みな、後ろをみるな!」

 一体、何人生き残れるか……高順は、そのことを考えた。

 貂蝉の美しい横顔が、脳裏を、よぎった。



張遼呂布姉さまが! 嘘! 嘘いうな、馬鹿!」

魏続配下「嘘では……」

張遼「……その、舌?」

 青白い、闘気があがった。

 張遼が、青龍刀を伝令の顔に突きつけた。

 それを、大斧が阻む。

臧覇張遼!」

張遼臧覇! 止めないで! こんな嘘つき! 舌を斬ってから、殺してやる!」

 やっぱり、主の義妹だと臧覇は思った。

 狂気が、同じだ。

 だが、押さえられないほどじゃない。

臧覇「落ち着け! 見ろ! あれを!」

張遼「……見えない……」

臧覇「馬鹿! 見えてるんだろ! 高順さんの軍も退き始めてる! 俺たちも退くぞ! いいな!」

張遼「う、うん」

臧覇「退け! 退け!」

張遼「ぞ、臧覇……」

 狂気が、消え失せていた。

 そこにいるのは、年相応の、幼い少女。

臧覇「なんだ?」

張遼「りょ、呂布姉さま、ヒック! ヒック! だ、大丈夫だよね? 大丈夫、だよね?」

 その問いに、臧覇は答えられなかった。

 

 彼女たちも、傷ついた主に合流しようとした。

 だが、出来なかった。

 曹仁と、曹洪

 二人の軍は、士気に揺らぎが見えた張遼軍の行く手を、完全に阻んだのだ。

 彼女たちは、小沛に流れるしかなかった。

 だが、小沛を任されていたのは……