小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

愉快な呂布一家~お泊まり(1)~

 西域につながる小さな宿場街。
 人と人が、物と物が、いき交いゆき交い、それなりに繁盛して。
 その街の、ほどほどの大きさの宿。
 そこに結構な数の団体客がいた。 
 皆、お揃いの薄茶の緩やかな服を着て、フードで顔を隠していた。
 通りかかる人は、はて、と訝しげな顔。
 義勇軍か、何かだろうか?
 こんな田舎に、まあ……
 一人の人間が、宿屋の主人と交渉中。
 話し終えると、その奇妙な団体の元へいく。
 にこやかに、言った。
「というわけで、今日は宿に泊まれる事になりました」
 陳宮の発表にやったーと呂布張遼が手と手を取り合って。
 そう、この方々は例のあの呂布さん御一行である。
「やったね、貂蝉姉様! 雛さん! 久し振りのお布団だあー!」
「ちょ、呂布さま……」
 赤子をあやしながら、貂蝉呂布をたしなめる。
 呂布があぐっと口を押さえた。
陳宮殿、それで、部屋は?」
 貂蝉と同じく赤子をあやしながら、鼻の上に横一文字の傷を持つ男、高順が言った。
「それでですね、二人部屋が二つ、大部屋が一つ。それだけなんです」
「はあ!」
「えー!」
「ちょっと待て、そりゃないぜ陳宮さんよお!」
 臧覇魏延胡車児が順番に文句を。
 賈詡、張繍がやれやれと。
「しょうがないでしょう、それだけしか取れなかったんだから! 嫌なら、また野宿ですが!」
「む……」
 臧覇魏延胡車児
 ごめんなさい。
「なら、よろしい」
 陳宮が言った。
「えっと、じゃあねえ、部屋割りはね……みんなでくじ引き! やっぱりくじ引きだよね! ここは公平にね!」
 呂布の無邪気な提案に、皆の衆、しばらく無言。
 とりあえず、くじ引きねえ~っと考える。
 それから、陳宮が、
「いやいや! それ駄目でしょう!」
 そう、大きな声で言った。
「えー、なんでー」
 むすっと口を尖らせると、ねえ、貂蝉姉様と同意を求める。
「うーん……駄目かなあ……」
貂蝉姉様まで……高順」
「いやー、やっぱりみんなってのは……」
張遼
「わたしは、呂布姉さまにさんせーい」
「だよね! だよね!」
 きゃっきゃっとはしゃぐ。
「あのー呂布さま、もしかして呂布さまって、くじ引きがしたいだけですか?」
「……」
 ああ、図星だなっと皆が思った。
「ええっとですね、呂布さま、貂蝉さん、張遼さん、雛さんが二人部屋で、その他の面々は一緒くたってことでいかがでしょうか?」
 まあ、妥当なところかと高順が頷く。
 そうだよねえ~、っと、ちょっと顔を赤らめながら魏延が。
「……くじ……引き……」
 呂布がいった。
「あ、あの、二人部屋に誰と誰のペアにするかくじ引きで決めれば……」
 今まで静かにこの喧騒を見守っていた雛が、やっと口を出した。
「……なる、ほど! そうだね!」
 それなら、いいやと、呂布がいった。
 
 

 屋根を駆ける怪しい影。
 それは、「あの」宿の上に。
 その影二つはさえずり出す
「ここか?」
「ええ、確かに、ここです」
「ふ、ついに、だな。夜まで、待つぞ」
「え、まじで?」
「当たり前だ! 何のために城を抜けだしここまで来たのだ!」
「で、ですが……」
「ああ、もう!」
「わ、分かりましたよ! 夜まで待てばよいのでしょう!」
「わかればよいのだ」
「はあ……」
「心配するな! きっと上手くいく!」
「……どうだかなあ……」