愉快な呂布一家~侵入者(2)~
「な、なんで! 猫眠煙を吸って!」
甲高い声。少年とも、少女ともとれるような声を、小柄な影はだした。
「少々、慌てましたが、仕事柄この手の薬には、手慣れているので」
「ちっ……」
「一目で、眠り薬だとは。あとは、解毒剤を飲めばいい」
「はあ? ……どういう仕事やってんだよ……」
それは、そうだ。
「同業、ですわ。それよりも、ここを襲った事、まず雇い主を吐かせてから、心底深い深ーい絶望に溺れさせて、地獄よりおぞましい地獄を味あわせてから、恐怖に狂わせて殺してやる!」
とりあえず、ぞぞっと寒気がした。
うーんと、苦しげに雛が寝言を。
「……ひっ」
「は! ほざけや!」
大柄な影が、その身に似合わぬ俊敏さで、貂蝉に蹴りを見舞った。
軽やかに、とは言い難くも、それを受け流す。
はらりと、幾本髪が落ちた。
「ふん、解毒がそう容易くできるかよ。まだ、身体が十分に動かねえな」
あの、華佗先生作成の超絶眠り薬、猫眠煙。
凶猛な虎が子猫のように眠ってしまう事でその名が付いた。
順参位。順壱位は残念ながら持っていない。なんでも、気に入った人間にしかあげないらしい。
何だっけ、名前。龍殺薬だっけ?
まあ、いい。
そう簡単に、解毒はされねえ。
なるほど、眠ったふりをしていたのは、時間稼ぎってやつか。
きらりと、闇にその瞳が光った。
ぺろりと、舌舐めずりをした。
「殺気……」
と言った。
狂気が、深い眠りの中で、「戦」に反応を示した。
「十分!」
貂蝉が、攻撃をしかける。
狙うわ、小柄な影。
破るのは容易いと踏んだのだ。
今の自分には、そうそう無理は出来ない。
まだ、時間が足りない。
「く!」
影がその手を交差させる。
その手より、銀の糸が疾った。
それは、部屋のあちこちを切り裂いた。
貂蝉は、天井にしがみついていて。
また、はらりと髪が落ちた。
「鋼糸遣い……」
そう呟く。
鋼を細く細く伸ばした暗器。
鋼糸――
小さな影は、それを使った。
「な、なめないでよ!」
「……女?」
そういった。
声が、女の――それも呂布と同い年ぐらい?
「雛さま! 貂蝉殿!」
ばんと、新たな来訪者。
賈詡――賈詡もまた、貂蝉と同じく「同業者」。
眠っていたため、反応が遅れ少々時間を取られはしたが、奥歯に仕込んだ万能解毒剤によって、眠気を克服したのだ。
「ひ、一人増えたって!」
鋼の糸が、天井の貂蝉を襲う。賈詡にも、である。
もらったと、ほくそ笑んだ。
貂蝉が腕を交差する。
無駄なあがきを、そう思った。
そして、影は、目の前の光景に愕然とした。
「ふん、そのぐらい……出来る」
鋼の糸と糸が、絡み合う。
貂蝉もまた、鋼の糸をつかったのだ。
その袖口より、無数の光が。
「嘘……」
影側の糸が、ぷつん、ぷつんと切れていく。
変わり身によって糸を逃れた賈詡が、雛のもとに。
「あー、思い出した。おま……え……」
ガリガリッと音がした。
黒い刃が、壁を貫いた。
ぎょとする二つの影と賈詡。そのまま、ガリガリと刃は動く。
部屋の壁に大穴が。
現れたるは、無限の狂気。
「……誰? 貴方達?」
――呂布、見参。
甲高い声。少年とも、少女ともとれるような声を、小柄な影はだした。
「少々、慌てましたが、仕事柄この手の薬には、手慣れているので」
「ちっ……」
「一目で、眠り薬だとは。あとは、解毒剤を飲めばいい」
「はあ? ……どういう仕事やってんだよ……」
それは、そうだ。
「同業、ですわ。それよりも、ここを襲った事、まず雇い主を吐かせてから、心底深い深ーい絶望に溺れさせて、地獄よりおぞましい地獄を味あわせてから、恐怖に狂わせて殺してやる!」
とりあえず、ぞぞっと寒気がした。
うーんと、苦しげに雛が寝言を。
「……ひっ」
「は! ほざけや!」
大柄な影が、その身に似合わぬ俊敏さで、貂蝉に蹴りを見舞った。
軽やかに、とは言い難くも、それを受け流す。
はらりと、幾本髪が落ちた。
「ふん、解毒がそう容易くできるかよ。まだ、身体が十分に動かねえな」
あの、華佗先生作成の超絶眠り薬、猫眠煙。
凶猛な虎が子猫のように眠ってしまう事でその名が付いた。
順参位。順壱位は残念ながら持っていない。なんでも、気に入った人間にしかあげないらしい。
何だっけ、名前。龍殺薬だっけ?
まあ、いい。
そう簡単に、解毒はされねえ。
なるほど、眠ったふりをしていたのは、時間稼ぎってやつか。
きらりと、闇にその瞳が光った。
ぺろりと、舌舐めずりをした。
「殺気……」
と言った。
狂気が、深い眠りの中で、「戦」に反応を示した。
「十分!」
貂蝉が、攻撃をしかける。
狙うわ、小柄な影。
破るのは容易いと踏んだのだ。
今の自分には、そうそう無理は出来ない。
まだ、時間が足りない。
「く!」
影がその手を交差させる。
その手より、銀の糸が疾った。
それは、部屋のあちこちを切り裂いた。
貂蝉は、天井にしがみついていて。
また、はらりと髪が落ちた。
「鋼糸遣い……」
そう呟く。
鋼を細く細く伸ばした暗器。
鋼糸――
小さな影は、それを使った。
「な、なめないでよ!」
「……女?」
そういった。
声が、女の――それも呂布と同い年ぐらい?
「雛さま! 貂蝉殿!」
ばんと、新たな来訪者。
賈詡――賈詡もまた、貂蝉と同じく「同業者」。
眠っていたため、反応が遅れ少々時間を取られはしたが、奥歯に仕込んだ万能解毒剤によって、眠気を克服したのだ。
「ひ、一人増えたって!」
鋼の糸が、天井の貂蝉を襲う。賈詡にも、である。
もらったと、ほくそ笑んだ。
貂蝉が腕を交差する。
無駄なあがきを、そう思った。
そして、影は、目の前の光景に愕然とした。
「ふん、そのぐらい……出来る」
鋼の糸と糸が、絡み合う。
貂蝉もまた、鋼の糸をつかったのだ。
その袖口より、無数の光が。
「嘘……」
影側の糸が、ぷつん、ぷつんと切れていく。
変わり身によって糸を逃れた賈詡が、雛のもとに。
「あー、思い出した。おま……え……」
ガリガリッと音がした。
黒い刃が、壁を貫いた。
ぎょとする二つの影と賈詡。そのまま、ガリガリと刃は動く。
部屋の壁に大穴が。
現れたるは、無限の狂気。
「……誰? 貴方達?」
――呂布、見参。