小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

愉快な呂布一家~侵入者(3)~

「呂……呂布……」
 口を、ぱくぱくとさせる二つの影。
 目の前の事実が、信じられなくて。
「そんな、眠り薬……こいつも解毒剤を?」
「へ? なにそれ? あー、この甘い匂い?」
 瞳を爛々と飢えた獣のように輝かせながら、無邪気に言った。
「殺気に反応して起きたのね……」
 貂蝉が呟いた。
「……そ、そんな馬鹿な! 非常識な!……ば、化け物か!」
「あー、よく言われるよ! それで、殺っちゃっていいの? 貂蝉姉様?」
「……この方々の雇い主……ああ、まだいるとは決まったわけじゃないか。動機をはっきりさせるまでは、駄目ー」
「了ー解」
 呂布が、方天画戟を突きつけた。
「……不利すぎだぁ! 逃げるぞお嬢!」
 大きな影が、小さな影を抱えると、窓から飛び出した。
 屋根を伝って逃げていく。
「待て!」
 賈詡も、飛び出そうと。
 それを貂蝉が止める。
「待って下さい。賈詡殿は皆を起こして下さい! まだ、敵は二人と決まったわけでは……それと……」
 苦しげに、「四人」を見た。
「……わかった。雛さまと子供達は、皆は、私が」
 賈詡が「四人」を抱えて穴を使って隣へ消えて。
「……追いましょう!」
 呂布に、言った。
「うん!」
 貂蝉が飛び出す。呂布も、飛び出した。
 しかし、差はかなりある。貂蝉は、まだ薬が抜けきっていないのだ。
 それを見て、呂布が口笛を吹いた。
 きーんとする音。
 貂蝉が、耳を押さえた。
「呂、呂布様!?」
「こっちの方が絶対早い! 乗って貂蝉姉様!」
 ぼろーい着ぐるみを脱ぎ捨て主人の呼びかけに答えるは、燃え盛る紅蓮の毛を靡かせる呂布の相棒。
 人中の呂布、馬中の――赤兎
「いくよー!」



「大分差は広がったか!」
「ちょっと周泰! なに逃げてんのよ!」
 小さな影がじたばたと。
 大きな影が、怒鳴ってみせる。
「お嬢! そんなこと言ってる場合か! 相手はあの呂布に桃色悪鬼……逃げるしかねえだろ!」
「で、でも……手ぶらで帰ったらあに様に怒られ……」
孫策様、怒らないから! お嬢が死ぬより、ずっとまし!」
「で、でも……」
 なおも、言いつのろうと。
 吹き抜ける狂気と殺気。
 恐る恐る後ろを振り返る。屋根を伝って赤い風が追いかけてくる。
 その背には、二人にとって最悪の二人。
「……本当、何でもありだな……」
「いやー!」