愉快な呂布一家~侵入者(4)~
街の外れ。そこで影は立ち止まった。
後ろには――二人の鬼の姿。
「さてと、観念、したようね」
「……大人しくしたほうがいいよ……死にたく、なければ」
「ぐ……」
「う、あー!」
また、光の糸が。
貂蝉も、同じ光の糸を。
今度は、完全に貂蝉が勝った。
糸は、糸を断ち切るだけでなく、二人の影に向かっていって。
「う!」
「あ!」
そして、その顔を覆う覆面を切り裂いた。
そこから見えるは傷だらけの男の顔と――
少女の、顔。
「……およ?」
「……これはこれは、孫家にじゃじゃ馬娘がいるとは聞いていましたけど、ここでお目にかけるなんて」
――孫尚香――
貂蝉は、女の名前をそう、言った。
小覇王孫策の「妹」の名を、口にした。
「嘘! なんで知ってるの!」
「どうでも、いいでしょう。どうせ、明日は拝めないんだから」
冷たく、言った。
「う……」
「ちっ!」
「無駄だよ、逃げようとしても」
動いた先には、小柄な戦神。無邪気で無慈悲な笑いを浮かべながら、刃を突きつける。
完全に、回り込まれていて。
「どうしよう……あに様……」
「さてと、どうしよう……」
ク・ク・ク
「なに!?」
地の底から漏れる笑い声。
ぐにゅんと、孫尚香と周泰の足下が底なし沼のようになり、沈み込んでいく。
「え? ……そこか!」
貂蝉が、くないを一本投げる。
大きく、砂埃が舞った。
どちらも、その砂埃を気にしないかのように辺りを見回す。
気づけば、二人の姿はなくなっていて。
「……幻術……」
「どうする? 貂蝉姉様?」
貂蝉が、またくないを投げた。今度は二本、である。
「……いいわ、このぐらいにしておきましょう。でも、ツギハユルサナイ」
「そうだねー」
そう言うと、二人は赤兎にまたがり、街に戻っていった。
息を、潜める。
もう、あの狂鬼が戻ってこないのを確認してから、ようやく岩陰より姿を見せた。
「……た、助かった……」
「……よ、よかった……」
「弓腰姫も、形無しですな」
笹の葉加えて男が一人。
ゆらりと現れゆらりと座った。
二人は、その男に土下座して。
「本ー当にありがとうございます! 魯粛様!」
「はあ……出てきていいぞ、呂蒙、蒋欽」
「コエー」
「コエー」
さらに、二人。
それぞれ、身のこなしは隙がなく。
魯粛と呼ばれた男は、この中では幾分年上に見えた。
「ったく……あれで、ばれてるのかい」
三人それぞれ、孫家に仕える人間。
三人とも、その手には――くない。
「全く、人間じゃねえなあ。……お嬢、ちっとは懲りたか?」
「は、はい!」
「孫策様、心配してる、帰るぞ」
「……でもー」
「帰るぞ?」
「……はい……」
「よしよし、おい、周泰。あとでオシオキだとお三方が」
「……え、俺は」
「黙って従え。シニタクナケレバ」
「ヒャー」
それから、五つの影は、姿を消した。
「……どうしよう、これ」
「あはは」
ぼーっとする貂蝉とあははと笑う呂布。
とりあえず、宿に、弁償。
捕まえればよかった、そうすれば身代金が……
貂蝉は、街を出るときぶつくさぶつくさそう言っていた。
「はいはい、ごめんねー」
そして、赤子を優しくあやした。
後ろには――二人の鬼の姿。
「さてと、観念、したようね」
「……大人しくしたほうがいいよ……死にたく、なければ」
「ぐ……」
「う、あー!」
また、光の糸が。
貂蝉も、同じ光の糸を。
今度は、完全に貂蝉が勝った。
糸は、糸を断ち切るだけでなく、二人の影に向かっていって。
「う!」
「あ!」
そして、その顔を覆う覆面を切り裂いた。
そこから見えるは傷だらけの男の顔と――
少女の、顔。
「……およ?」
「……これはこれは、孫家にじゃじゃ馬娘がいるとは聞いていましたけど、ここでお目にかけるなんて」
――孫尚香――
貂蝉は、女の名前をそう、言った。
小覇王孫策の「妹」の名を、口にした。
「嘘! なんで知ってるの!」
「どうでも、いいでしょう。どうせ、明日は拝めないんだから」
冷たく、言った。
「う……」
「ちっ!」
「無駄だよ、逃げようとしても」
動いた先には、小柄な戦神。無邪気で無慈悲な笑いを浮かべながら、刃を突きつける。
完全に、回り込まれていて。
「どうしよう……あに様……」
「さてと、どうしよう……」
ク・ク・ク
「なに!?」
地の底から漏れる笑い声。
ぐにゅんと、孫尚香と周泰の足下が底なし沼のようになり、沈み込んでいく。
「え? ……そこか!」
貂蝉が、くないを一本投げる。
大きく、砂埃が舞った。
どちらも、その砂埃を気にしないかのように辺りを見回す。
気づけば、二人の姿はなくなっていて。
「……幻術……」
「どうする? 貂蝉姉様?」
貂蝉が、またくないを投げた。今度は二本、である。
「……いいわ、このぐらいにしておきましょう。でも、ツギハユルサナイ」
「そうだねー」
そう言うと、二人は赤兎にまたがり、街に戻っていった。
息を、潜める。
もう、あの狂鬼が戻ってこないのを確認してから、ようやく岩陰より姿を見せた。
「……た、助かった……」
「……よ、よかった……」
「弓腰姫も、形無しですな」
笹の葉加えて男が一人。
ゆらりと現れゆらりと座った。
二人は、その男に土下座して。
「本ー当にありがとうございます! 魯粛様!」
「はあ……出てきていいぞ、呂蒙、蒋欽」
「コエー」
「コエー」
さらに、二人。
それぞれ、身のこなしは隙がなく。
魯粛と呼ばれた男は、この中では幾分年上に見えた。
「ったく……あれで、ばれてるのかい」
三人それぞれ、孫家に仕える人間。
三人とも、その手には――くない。
「全く、人間じゃねえなあ。……お嬢、ちっとは懲りたか?」
「は、はい!」
「孫策様、心配してる、帰るぞ」
「……でもー」
「帰るぞ?」
「……はい……」
「よしよし、おい、周泰。あとでオシオキだとお三方が」
「……え、俺は」
「黙って従え。シニタクナケレバ」
「ヒャー」
それから、五つの影は、姿を消した。
「……どうしよう、これ」
「あはは」
ぼーっとする貂蝉とあははと笑う呂布。
とりあえず、宿に、弁償。
捕まえればよかった、そうすれば身代金が……
貂蝉は、街を出るときぶつくさぶつくさそう言っていた。
「はいはい、ごめんねー」
そして、赤子を優しくあやした。