あやかし姫~想い告げし告げられし(4)~
「葉子さん、私、太郎さんに嫌われるような事したかな」
「はあ?」
てくてくと、歩いていく。
お日様の下、歩いていく。
影が、二つ、歩いていく。
「ずっと避けられてるような……」
「太郎、姫様の近くにいたよ?」
「いたけど……」
ちょっと、違う。
遠くから、私を見てた……ような。
「考えすぎじゃないの?」
「……」
そうかも、しれない。
でも、違うかもしれない。
「なんだろう……」
うあ、
足止めちゃった、
悩み始めちゃったと葉子は思った。
「そんなにうじうじ……」
寒気。
背中を、冷気が駆け抜けた。
姫様の瞳が、虚無を顕していた。
「姫様」
「……ん……」
虚無が、音なく消えた。
「なにさね。もうすぐ、着くさね」
そう、言った。
姫様が、こくんと頷いた。
「釣れませんねー」
釣り糸。二本垂れていた。
沙羅も、魚釣り。
太郎の予備を使っていた。
「きゅうりじゃ、釣れないだろ」
「はあ?」
「ああ?」
沙羅の声に怒気のようなものが込められ、それに妖狼が反応した。
「い、いいですか。きゅうりは、この世の全てなんです」
「……あ、ああ……」
ぐいっと言い抜く河童の子に、金銀妖瞳の妖狼が押されて。
「きゅうりがあればいいんです。きゅうりこそ、最も美味なるものなり」
うっとりとして、沙羅が言う。
妖狼は、銀狐も似たようなこと言ってたなぁと思った。
「でも、魚は釣れねえよ」
「……魚は、味音痴ですね」
はいはいと、頷く。
四匹。
まあ、十分だろう。
「切り上げかな」
「もうですか? 私」
「少し曇ってきた。魚も釣れなくなる」
それに……
「よっ」
「太郎さん……沙羅ちゃん……」
来ちまったし。
沙羅が、手を振った。
おお、引っ張ってると竿を持った。大きな波紋。
「んな、馬鹿な」
そして沙羅は――流木を釣り上げた。
くつと、妖狼が笑った。
妖狼が沙羅に笑いかけるのを見て、姫様が少し、眉をひそめた。
「はん」
銀狐がぽんと妖狼の後ろに姿を移すと、ごんと拳を打ち付けて。
痛そうな痛そうな大きな音。
ひっと沙羅は目を覆った。
「なにすんだ」
「わかるでしょうが」
少し、離れた場所。
水から離れた場所。
妖狼は姫様を見て、少し、頭を下げた。
姫様は、妖狼を真っ直ぐに見つめた。
太郎は……姫様に、視線を合わそうとはしなかった。
「はあ?」
てくてくと、歩いていく。
お日様の下、歩いていく。
影が、二つ、歩いていく。
「ずっと避けられてるような……」
「太郎、姫様の近くにいたよ?」
「いたけど……」
ちょっと、違う。
遠くから、私を見てた……ような。
「考えすぎじゃないの?」
「……」
そうかも、しれない。
でも、違うかもしれない。
「なんだろう……」
うあ、
足止めちゃった、
悩み始めちゃったと葉子は思った。
「そんなにうじうじ……」
寒気。
背中を、冷気が駆け抜けた。
姫様の瞳が、虚無を顕していた。
「姫様」
「……ん……」
虚無が、音なく消えた。
「なにさね。もうすぐ、着くさね」
そう、言った。
姫様が、こくんと頷いた。
「釣れませんねー」
釣り糸。二本垂れていた。
沙羅も、魚釣り。
太郎の予備を使っていた。
「きゅうりじゃ、釣れないだろ」
「はあ?」
「ああ?」
沙羅の声に怒気のようなものが込められ、それに妖狼が反応した。
「い、いいですか。きゅうりは、この世の全てなんです」
「……あ、ああ……」
ぐいっと言い抜く河童の子に、金銀妖瞳の妖狼が押されて。
「きゅうりがあればいいんです。きゅうりこそ、最も美味なるものなり」
うっとりとして、沙羅が言う。
妖狼は、銀狐も似たようなこと言ってたなぁと思った。
「でも、魚は釣れねえよ」
「……魚は、味音痴ですね」
はいはいと、頷く。
四匹。
まあ、十分だろう。
「切り上げかな」
「もうですか? 私」
「少し曇ってきた。魚も釣れなくなる」
それに……
「よっ」
「太郎さん……沙羅ちゃん……」
来ちまったし。
沙羅が、手を振った。
おお、引っ張ってると竿を持った。大きな波紋。
「んな、馬鹿な」
そして沙羅は――流木を釣り上げた。
くつと、妖狼が笑った。
妖狼が沙羅に笑いかけるのを見て、姫様が少し、眉をひそめた。
「はん」
銀狐がぽんと妖狼の後ろに姿を移すと、ごんと拳を打ち付けて。
痛そうな痛そうな大きな音。
ひっと沙羅は目を覆った。
「なにすんだ」
「わかるでしょうが」
少し、離れた場所。
水から離れた場所。
妖狼は姫様を見て、少し、頭を下げた。
姫様は、妖狼を真っ直ぐに見つめた。
太郎は……姫様に、視線を合わそうとはしなかった。