小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

あやかし姫~想い告げし告げられし(4)~

「葉子さん、私、太郎さんに嫌われるような事したかな」
「はあ?」
 てくてくと、歩いていく。
 お日様の下、歩いていく。
 影が、二つ、歩いていく。
「ずっと避けられてるような……」
「太郎、姫様の近くにいたよ?」
「いたけど……」
 ちょっと、違う。
 遠くから、私を見てた……ような。
「考えすぎじゃないの?」
「……」
 そうかも、しれない。
 でも、違うかもしれない。
「なんだろう……」
 うあ、
 足止めちゃった、
 悩み始めちゃったと葉子は思った。
「そんなにうじうじ……」
 寒気。
 背中を、冷気が駆け抜けた。
 姫様の瞳が、虚無を顕していた。
「姫様」
「……ん……」
 虚無が、音なく消えた。
「なにさね。もうすぐ、着くさね」
 そう、言った。
 姫様が、こくんと頷いた。



「釣れませんねー」
 釣り糸。二本垂れていた。
 沙羅も、魚釣り。
 太郎の予備を使っていた。
「きゅうりじゃ、釣れないだろ」
「はあ?」
「ああ?」
 沙羅の声に怒気のようなものが込められ、それに妖狼が反応した。 
「い、いいですか。きゅうりは、この世の全てなんです」
「……あ、ああ……」
 ぐいっと言い抜く河童の子に、金銀妖瞳の妖狼が押されて。
「きゅうりがあればいいんです。きゅうりこそ、最も美味なるものなり」
 うっとりとして、沙羅が言う。
 妖狼は、銀狐も似たようなこと言ってたなぁと思った。
「でも、魚は釣れねえよ」
「……魚は、味音痴ですね」
 はいはいと、頷く。
 四匹。
 まあ、十分だろう。
「切り上げかな」
「もうですか? 私」
「少し曇ってきた。魚も釣れなくなる」
 それに……
「よっ」
「太郎さん……沙羅ちゃん……」
 来ちまったし。
 沙羅が、手を振った。
 おお、引っ張ってると竿を持った。大きな波紋。
「んな、馬鹿な」
 そして沙羅は――流木を釣り上げた。
 くつと、妖狼が笑った。
 妖狼が沙羅に笑いかけるのを見て、姫様が少し、眉をひそめた。
「はん」
 銀狐がぽんと妖狼の後ろに姿を移すと、ごんと拳を打ち付けて。
 痛そうな痛そうな大きな音。
 ひっと沙羅は目を覆った。
「なにすんだ」
「わかるでしょうが」
 少し、離れた場所。
 水から離れた場所。
 妖狼は姫様を見て、少し、頭を下げた。
 姫様は、妖狼を真っ直ぐに見つめた。
 太郎は……姫様に、視線を合わそうとはしなかった。