第二十一話~夜のお寺~
夜。朱桜が目を開ける。
姫様も、すぐに目を開けた。
「厠ですか」
「・・・・・・はい」
朱桜は恥ずかしそうに。
一人では夜怖いのだ。
姫様が布団からゆっくりと出る。
「一緒に行きましょうか」
「・・・はい」
提灯を持ち、朱桜と手をつなぐ。
火を、灯す。
部屋が、薄く明るくなる。
「どこ行くんでぇすか~」
葉子が声をだす。
目を開けては、いない。
ろれつも回ってないようで。
「ちょっと厠まで行ってきますね」
「ふぁ~い」
すっと戸を開け、戸を閉めた。
「静かです」
提灯が二人の足下をぽっ、ぽっ、と照らしていく。
「ええ」
「何故夜静かなのですか?」
「はい?」
「鬼ヶ城は夜騒がしいです」
夜はずっと灯りがついていて、代わりに日の出ている間はしんとしていて。
「そうですね・・・大抵の妖は夜行動すると聞きますが・・・・・・私が物心ついたころからここは夜静かですよ」
「不思議です」
「そういえば・・・不思議です」
何故でしょうかと姫様も。
今まで、深く考えたことはなかった。
「確かにあのとき沙羅ちゃんも」
夜遅くまで起きていたな~と。
廊下に聞こえる二人の足音。
出来るだけ、静かに、静かに。
皆を起こさないように。
「布団からはみ出てますよ」
寺には廊下で寝ている妖達もいる。
姫様が提灯を置き、寝相の悪い妖の、その小さな布団をかけ直してやる。
朱桜が姫様を握る手と反対の手で、小さな布団の端を持ち上げた。
「これ彩花さまが作ったんですよね」
「うんにゃ、あ、姫様」
布団を持ち上げられた妖が、うっすらと目を開けた。
「朱桜ちゃん、起こしちゃ駄目ですよ」
慌てて布団を離す朱桜。
おやすみなさいと、その妖に姫様が声をかける。
朱桜もおじぎを一つ。
すぐに妖は目をつむった。
「彩花さま、月が紅いです」
廊下から見える半月は、うっすら紅く色づいていた。
「本当ですね。となると太郎さんは外ですか。そういえば朝から騒がしかったような・・・」
「?」
「月が紅いと血が騒ぐそうですよ。そういう日はいつも屋根の上にいるんです」
「へえ」
「ずっと月を見ていたいそうですよ」
提灯から厠の明かりに火を移す。
朱桜が中に入る。
「ふう」
「付き添い、ご苦労さまです」
庭に金銀妖瞳が爛々と。妖狼太郎が庭にいた。
「太郎さん、屋根の上にいたんじゃあ?」
「明かりがついたので見に来たんですよ」
「そう」
とことことこっと朱桜が小走りで。
「怖かったの?」
朱桜は首を横に振る。すぐに姫様の手をぎゅっと握った。
「太郎さん。一晩?」
「そうなりますか」
「風邪、引かないようにして下さいね」
「お二方こそ」
「また、明日」
「また」
「帰りましょうか」
「はい」
明かりがゆっくりと移動していく。
おやすみなさいと、二つの、声が。
また、古寺は静かになった。
姫様も、すぐに目を開けた。
「厠ですか」
「・・・・・・はい」
朱桜は恥ずかしそうに。
一人では夜怖いのだ。
姫様が布団からゆっくりと出る。
「一緒に行きましょうか」
「・・・はい」
提灯を持ち、朱桜と手をつなぐ。
火を、灯す。
部屋が、薄く明るくなる。
「どこ行くんでぇすか~」
葉子が声をだす。
目を開けては、いない。
ろれつも回ってないようで。
「ちょっと厠まで行ってきますね」
「ふぁ~い」
すっと戸を開け、戸を閉めた。
「静かです」
提灯が二人の足下をぽっ、ぽっ、と照らしていく。
「ええ」
「何故夜静かなのですか?」
「はい?」
「鬼ヶ城は夜騒がしいです」
夜はずっと灯りがついていて、代わりに日の出ている間はしんとしていて。
「そうですね・・・大抵の妖は夜行動すると聞きますが・・・・・・私が物心ついたころからここは夜静かですよ」
「不思議です」
「そういえば・・・不思議です」
何故でしょうかと姫様も。
今まで、深く考えたことはなかった。
「確かにあのとき沙羅ちゃんも」
夜遅くまで起きていたな~と。
廊下に聞こえる二人の足音。
出来るだけ、静かに、静かに。
皆を起こさないように。
「布団からはみ出てますよ」
寺には廊下で寝ている妖達もいる。
姫様が提灯を置き、寝相の悪い妖の、その小さな布団をかけ直してやる。
朱桜が姫様を握る手と反対の手で、小さな布団の端を持ち上げた。
「これ彩花さまが作ったんですよね」
「うんにゃ、あ、姫様」
布団を持ち上げられた妖が、うっすらと目を開けた。
「朱桜ちゃん、起こしちゃ駄目ですよ」
慌てて布団を離す朱桜。
おやすみなさいと、その妖に姫様が声をかける。
朱桜もおじぎを一つ。
すぐに妖は目をつむった。
「彩花さま、月が紅いです」
廊下から見える半月は、うっすら紅く色づいていた。
「本当ですね。となると太郎さんは外ですか。そういえば朝から騒がしかったような・・・」
「?」
「月が紅いと血が騒ぐそうですよ。そういう日はいつも屋根の上にいるんです」
「へえ」
「ずっと月を見ていたいそうですよ」
提灯から厠の明かりに火を移す。
朱桜が中に入る。
「ふう」
「付き添い、ご苦労さまです」
庭に金銀妖瞳が爛々と。妖狼太郎が庭にいた。
「太郎さん、屋根の上にいたんじゃあ?」
「明かりがついたので見に来たんですよ」
「そう」
とことことこっと朱桜が小走りで。
「怖かったの?」
朱桜は首を横に振る。すぐに姫様の手をぎゅっと握った。
「太郎さん。一晩?」
「そうなりますか」
「風邪、引かないようにして下さいね」
「お二方こそ」
「また、明日」
「また」
「帰りましょうか」
「はい」
明かりがゆっくりと移動していく。
おやすみなさいと、二つの、声が。
また、古寺は静かになった。