小説置き場2

山岳に寺社仏閣に両生類に爬虫類に妖怪に三国志にetcetc

第十三話 ~今宵は十五夜~

 うむ、今日は十五夜お月様の日だ。
 姫さんは団子を買いに行った。葉子殿と朱桜殿と沙羅殿と一緒にだ。沙羅殿は頭巾かけっぱなしなのだが怪しまれないだろうか。本人は大丈夫だと言っていたが・・・・・・確実に怪しまれるだろうな。もう少し格好を考えてほしいものだ。変な噂を立てられると困るのだが。
 ああ、すすきを挿す花瓶か。よしよし持ってきたな、って、それはまずかろう、どう見ても呪いがかかってるぞ。解くのは・・・・・・いややめておこう、見つけたところに戻しておいてくれ。手から離れない?知らんよそんなことは。頭領に呪いを解いてもらえ。暇そうだから。
 大体そんなおどろおどろしいもの、持ってくるほうが悪い。見たら危険だと分かるだろう。
 拙者が呪いを解けないんだ、だと?できるに決まっておる。だが拙者は暇ではないのだ。
 ああもう、うるさいうるさいうるさい!しょうがない、解いてやろう。
 ええと、湯野彦だっけ、こっちに来なさい。違う?じゃあ湯野麻呂か。ええと、この場合は・・・・・・黙ってろ、今考えているのだ。おう、思いついた。これでどうだ。よし、手が離れたな。じゃあ、戻しておけ。ちゃんと元の場所だぞ。大丈夫だ、もう離れん、なんてことはない。
 ああ、雲で日が陰ってきてる。まずいな、これではせっかくの月が見えん。せっかく姫さんが楽しみにしてたのに。拙者が術でどうにかするか・・・・・・
 妙だな。雲がどんどんこっちに近づいてくる。光殿?いや、それにしては雲がでかすぎるような。
 !!!!?く、雷!?一体何者!?ってなんだ、光殿の母君か。驚かさないで下さい、肝が震えましたよ。葉子殿?今留守にしてます。もう少ししたら帰ってくるかと。ああ、光殿、妖が見えるようになったのですか、それは良かったですね。
 一緒に月見を?こういうことは大勢の方がいいですから、皆歓迎しますよ。雲の上もいいですが地上もなかなかのものです。そうですね、雲の上だと遮るものがないからそれはそれでいいのですが。
 ああ、太郎殿。すすきを刈ってきて・・・・・・ってちょっと多すぎじゃないですか?少し減らしたほうがいいですよ。ん、何ですかその目は。口調が違う?気のせいじゃないですか、さあいったいった。
 頭領に挨拶を?その廊下を曲がって突き当たりの部屋にいると思います。
 なんだ太郎殿、まだいたのか。早くその大量のすすきをなんとかしろ。全く、限度というものを知らんのか。やっぱりおかしい?だと。おかしくない、早くやれ。どうせ何も考えずに調子に乗って刈りまくったんだろ。少しは考えて行動しろ。
 お前に言われたくない?
 こっちこそお主に言われたくないわ。
 ああ、姫さん。帰ってきたんですか。
 さっき客人が来られまして、光殿達がみえられました(む、太郎殿の姿が。逃げたか。まあ、いい。)
 しかしまた、すごい量の団子・・・・・・甘い物は別腹。そうですか、そうですね。
 そこのきゅうりとおあげは・・・・・・聞かなくてもいいか。しかし姫さん、太る太るって気にしてたのに大丈夫なのかな。ああ、すすきですか。さっき太郎殿が・・・・・・太郎殿が呼んでる?一体何でしょうかね。
 ああ、寺中に大量のすすきを飾りまくったのか。頭領と姫さんの部屋にはやってない?そうですか。捨てるのがもったいない?そうか、今拙者はすすきの代わりに貴様を捨てたい気分だ。
 姫さん、笑ってますね。笑うしかないか。ちょっと笑いが引きつってますが。
 すすきの片付けは拙者と太郎?確かに拙者はなにもやってませんが・・・・・・花瓶も結局いらなかったですし。まあ姫さんがそういわれるのなら(おのれ馬鹿犬!)

 さて今宵の月は・・・・・・いいですな、風情があって・・・・・・
 どうもまわりは月より団子って感じですが。風情も何もあったもんじゃ無いですな。
 頭領、月殺しって・・・・・・もう少し考えたらどうですか。いや、これはいい酒って言われても。
 沙羅殿と葉子殿はきゅうりとおあげを貪ってるし。
 光殿もおあげか。あんまり葉子殿の真似しちゃ駄目ですよ。
 桐壺殿は・・・・・・お酒を飲む姿、決まってますね。いや、いい画だ。でも月殺しは・・・・・・
 太郎殿は・・・・・・あ~あ、いぬ、いや狼の姿で走り回ってるよ。すすきが毛にくっついてるし。取るの大変だろうな~。
 姫さんと朱桜殿は並んで団子を食べてるか。本当に姉妹みたいだな。ちゃんと二人とも月を見ながら食べてるよ。というか二人だけか、月見てるの。いや、拙者もいれて三人か。月見というより団子祭りだな。そこ、団子を取り合うな。ええと、湯野麻呂か?あ、違う?湯野彦ですか。すみません姫さん。どうもまだ見分けが・・・・・・!?(やば、怒ってるよ)
 そ、そう怒らずに。姫さん妖の名を間違うと怒るんだよな(ど、どうしよう・・・・・・そ、そうだ)どうです、姫さん短歌でも一つ。よい月ですしそれをお題に(なんとか話を変えねば!)
 いや、そう恥ずかしがらずに。どうせ誰も聞いてませんよ・・・・・・って、あれ、なんで皆こっち見てるんですか。

「そ、そんなに注目しないで下さい。恥ずかしいです」
 本当に恥ずかしそうに顔を伏せる。耳がほんのりと赤い。
「彩花ちゃん、短歌詠むんですか」
「へえ、 彩花さん凄いですね」
「沙羅ちゃん、桐壺さま・・・・・・単なる下手の横好きですよ」
「いいじゃないか、詠んでみな」
「・・・・・・聞きたい」
「頭領、朱桜ちゃんまで・・・・・・それじゃあ、考えてみますね」
 出来なかったり下手でも笑わないで下さいよ、そういってから姫様は目をつぶった。
 静寂。雲が流れていく。すすきのたてる音だけが聞こえる。
「一応、出来ました」
「じゃあ、さっそく」
「待ってました!」
 おあげを口いっぱいに頬張っている銀狐とすすきまみれの妖狼がせかす。まだ、姫様は恥ずかしそうだった。なにぶん寺の者以外の前で短歌を詠むのは初めてのこと。
 意を決したように目を開けた。
「じゃあ、詠みますよ」
 
 まん丸いお月さまの光のもと、綺麗な、少し小さめな声が皆の耳に流れる。
 
 しばらくして、古寺に賑やかな拍手が起こった。