愉快な呂布一家~錦(5)~
「くそ……」
飲み込まれそうだ。
これは……
武器を構えるだけで、精一杯であった。
気力を奮い立たせる。必死で、奮い立たせる。
思い出す。あの日の事を。病床にいた、あの人のことを。
「は……負けられない、そう、言っただろう」
声に、出す。
そうだ。
負けない。
三日月が、ニィっと嗤った。
狂気が、馬超を襲った。
一合、二合。青龍偃月刀が、踊る。殺すためだけの。技。
耐えられる。
一合目。
いや、耐えられない?
二合目。
俺が、受けきれないだと!?
三合目。
なに、嗤っていやがる。この、くそったれ!
四合目。
こんなところで終わるために、俺は強くなったんじゃ、ない。
気を、集中させろ。全力で、斬る。
それだけ、考えろ。
心を無にし、ただ、目の前の敵を斬れ。
それだけで、いい。
殺られる前に、殺れ。
大上段に刀を振り上げる。
大岩すら、馬超は真っ二つにすることが出来る。
形持たぬ滝ですら、斬ったことがある。
渾身。
振り下ろ……せなかった。
振り上げた両腕を片手で押さえられた。
相手は、馬超のすぐ目の前。両者は、触れるか、触れないか。そこまで。近づいていた。
首に、その鋭い切っ先が突きつけられている。
血が、零れた。
馬超は、戦慄を覚えた。自分を見るその瞳は、虚空であった。
黒く、黒く、ただ、黒く。
ニィ。
そう、嗤った。
「イデッ!!!」
「ピギャー!!!」
おでこから、火花が出た。
殺される。そう、思ったとき、何かが舞台に飛び込んだのだ。
それは、自分と相手の後頭部を押さえると、
ゴン。
そう、鈍い音を響かせた。
刀が、舞台に落ちた。
青龍偃月刀が、舞台に落ちた。
相手のフードが、脱げた。
額が、痛い。
ああ、額に金飾りをつけているのか。そりゃあ、痛いわ。
変わった、髪型だな。成長した、パイナップル?
……結構、可愛い顔をしているじゃないか。
宙を、見上げた。蒼い。
どこまでも、突き抜けるような。
いい、空だ。
そう、口に出した、つもりだった。
馬超の意識が、堕ちた。
「ぴぎゃー! ぴぎゃー!」
張遼が舞台上をごろごろ転がっている。
観ている人は、ただただ唖然。
突然乱入した人物は、少女であった。後ろ姿で、そう判断した。
ポニーテールが、翻っている。
馬騰――ムンクの叫び。本当に、もう。
「こらぁぁぁ!!! なにやってるの張遼!!!!!!」
「ぴぎゃ!?」
涙目。
そこには、ぷんすか怒る、義姉の姿が。
「貂蝉姉様と陳宮に、暴れちゃ駄目って言われてたでしょう!!!」
「ご、ごめんなさい! 呂布姉さまぁぁぁ!!!」
あうあうと。
ごめんなさいと。
その単語に、さーっと、観客が波打つように静かになった。
兵が、集まり出す。龐徳が、戻ってきたのだ。
舞台を取り囲むように配置させる。
舞台上には、仰向けの馬超と、二人の少女。
兵が、囁き出す。おいおい、まさかと。
馬騰の配下には、いや、十部軍全体に言える事だが、元董卓配下の兵が多いのだ。
「馬鹿、心配かけて」
「ご、ごめんなさい! 許して下さい!」
「うん、うんうん。大丈夫大丈夫。貂蝉姉様も、笑って許してくれるよ」
張遼の顔が明るくなった。
ただ……
そう、呂布が続けると、また一気に暗くなった。
「どうして、秘密にしてたの」
狂気。
ただ、狂気と言われる境地。
武人が、染まる。強さを追い求め、そこに辿り着く。
人の域を、越える。
だが、それは自らを失うということ。
武人として、忌むべき事。
しかし、それをさらに越えられれば……
「い、いえなかったの……」
こんなの、言えない。
「私は、お姉ちゃん失格だね」
「りょ、呂布姉さま……」
「ごめんね、気づいてあげられなくて。ごめんね、ごめんね」
呂布さんが、謝った。何度も、何度も。
「ちが……呂布姉さまが謝る事じゃ……」
「いつから……なの?」
「気付いたのは、呂布姉さま達と離れたとき……」
めそめそと答える。
そこで、明らかに変わった。
今まで、操れたものが、言う事を聞かなくなった。
「そんなに、前から……自分で、乗り越えようと思ったの? だから、いつも一人だけ残って……」
「うん……」
「馬鹿」
でこぴんをした。
「あう……」
「馬鹿馬鹿」
二回、でこぴんをした。
「あうぅ……」
「私と貂蝉姉様がついてるから、大丈夫! きっと、越えられるよ!」
そう、笑った。
ただただ、眩しかった。
「……」
「どうしたの?」
「まだ、姉妹でいてくれるの?」
「へ?」
「こんな、わたしでもですか!?」
張遼は、真剣であった。
食い入るように、呂布さんを見ている。
ころころと、呂布さんが笑った。
「やだなぁ、もう! なに言ってるの! 貂蝉姉様、わたし、張遼。三人、三姉妹……」
呂布さん止まる。
みゅーっと張遼が泣き声を。
「でも、雛さんも……四姉妹?(*´∀`)ノ」
「呂布姉さま!\(*´ワ`)ノ」
張遼が、ぎゅっと、呂布さんの柔らかい身体に抱きついた。
そうだ、呂布さまは、いつも優しかった。
今までも、きっとこれからも。
貂蝉姉様も、そうだ。
嬉しかった。
自分が、まだ姉妹でいられることが。
嬉し涙が、頬を伝う。
なんだかよくわからないが、皆は、ついもらい泣きしてしまった。
うちの主の長子が、ぶっ倒れているけど。
でも、もらい泣き。
そして――元董卓配下の兵は泣きながら、はっきりと確信した。
この人……
あの「呂布」さまじゃん、と。
飲み込まれそうだ。
これは……
武器を構えるだけで、精一杯であった。
気力を奮い立たせる。必死で、奮い立たせる。
思い出す。あの日の事を。病床にいた、あの人のことを。
「は……負けられない、そう、言っただろう」
声に、出す。
そうだ。
負けない。
三日月が、ニィっと嗤った。
狂気が、馬超を襲った。
一合、二合。青龍偃月刀が、踊る。殺すためだけの。技。
耐えられる。
一合目。
いや、耐えられない?
二合目。
俺が、受けきれないだと!?
三合目。
なに、嗤っていやがる。この、くそったれ!
四合目。
こんなところで終わるために、俺は強くなったんじゃ、ない。
気を、集中させろ。全力で、斬る。
それだけ、考えろ。
心を無にし、ただ、目の前の敵を斬れ。
それだけで、いい。
殺られる前に、殺れ。
大上段に刀を振り上げる。
大岩すら、馬超は真っ二つにすることが出来る。
形持たぬ滝ですら、斬ったことがある。
渾身。
振り下ろ……せなかった。
振り上げた両腕を片手で押さえられた。
相手は、馬超のすぐ目の前。両者は、触れるか、触れないか。そこまで。近づいていた。
首に、その鋭い切っ先が突きつけられている。
血が、零れた。
馬超は、戦慄を覚えた。自分を見るその瞳は、虚空であった。
黒く、黒く、ただ、黒く。
ニィ。
そう、嗤った。
「イデッ!!!」
「ピギャー!!!」
おでこから、火花が出た。
殺される。そう、思ったとき、何かが舞台に飛び込んだのだ。
それは、自分と相手の後頭部を押さえると、
ゴン。
そう、鈍い音を響かせた。
刀が、舞台に落ちた。
青龍偃月刀が、舞台に落ちた。
相手のフードが、脱げた。
額が、痛い。
ああ、額に金飾りをつけているのか。そりゃあ、痛いわ。
変わった、髪型だな。成長した、パイナップル?
……結構、可愛い顔をしているじゃないか。
宙を、見上げた。蒼い。
どこまでも、突き抜けるような。
いい、空だ。
そう、口に出した、つもりだった。
馬超の意識が、堕ちた。
「ぴぎゃー! ぴぎゃー!」
張遼が舞台上をごろごろ転がっている。
観ている人は、ただただ唖然。
突然乱入した人物は、少女であった。後ろ姿で、そう判断した。
ポニーテールが、翻っている。
馬騰――ムンクの叫び。本当に、もう。
「こらぁぁぁ!!! なにやってるの張遼!!!!!!」
「ぴぎゃ!?」
涙目。
そこには、ぷんすか怒る、義姉の姿が。
「貂蝉姉様と陳宮に、暴れちゃ駄目って言われてたでしょう!!!」
「ご、ごめんなさい! 呂布姉さまぁぁぁ!!!」
あうあうと。
ごめんなさいと。
その単語に、さーっと、観客が波打つように静かになった。
兵が、集まり出す。龐徳が、戻ってきたのだ。
舞台を取り囲むように配置させる。
舞台上には、仰向けの馬超と、二人の少女。
兵が、囁き出す。おいおい、まさかと。
馬騰の配下には、いや、十部軍全体に言える事だが、元董卓配下の兵が多いのだ。
「馬鹿、心配かけて」
「ご、ごめんなさい! 許して下さい!」
「うん、うんうん。大丈夫大丈夫。貂蝉姉様も、笑って許してくれるよ」
張遼の顔が明るくなった。
ただ……
そう、呂布が続けると、また一気に暗くなった。
「どうして、秘密にしてたの」
狂気。
ただ、狂気と言われる境地。
武人が、染まる。強さを追い求め、そこに辿り着く。
人の域を、越える。
だが、それは自らを失うということ。
武人として、忌むべき事。
しかし、それをさらに越えられれば……
「い、いえなかったの……」
こんなの、言えない。
「私は、お姉ちゃん失格だね」
「りょ、呂布姉さま……」
「ごめんね、気づいてあげられなくて。ごめんね、ごめんね」
呂布さんが、謝った。何度も、何度も。
「ちが……呂布姉さまが謝る事じゃ……」
「いつから……なの?」
「気付いたのは、呂布姉さま達と離れたとき……」
めそめそと答える。
そこで、明らかに変わった。
今まで、操れたものが、言う事を聞かなくなった。
「そんなに、前から……自分で、乗り越えようと思ったの? だから、いつも一人だけ残って……」
「うん……」
「馬鹿」
でこぴんをした。
「あう……」
「馬鹿馬鹿」
二回、でこぴんをした。
「あうぅ……」
「私と貂蝉姉様がついてるから、大丈夫! きっと、越えられるよ!」
そう、笑った。
ただただ、眩しかった。
「……」
「どうしたの?」
「まだ、姉妹でいてくれるの?」
「へ?」
「こんな、わたしでもですか!?」
張遼は、真剣であった。
食い入るように、呂布さんを見ている。
ころころと、呂布さんが笑った。
「やだなぁ、もう! なに言ってるの! 貂蝉姉様、わたし、張遼。三人、三姉妹……」
呂布さん止まる。
みゅーっと張遼が泣き声を。
「でも、雛さんも……四姉妹?(*´∀`)ノ」
「呂布姉さま!\(*´ワ`)ノ」
張遼が、ぎゅっと、呂布さんの柔らかい身体に抱きついた。
そうだ、呂布さまは、いつも優しかった。
今までも、きっとこれからも。
貂蝉姉様も、そうだ。
嬉しかった。
自分が、まだ姉妹でいられることが。
嬉し涙が、頬を伝う。
なんだかよくわからないが、皆は、ついもらい泣きしてしまった。
うちの主の長子が、ぶっ倒れているけど。
でも、もらい泣き。
そして――元董卓配下の兵は泣きながら、はっきりと確信した。
この人……
あの「呂布」さまじゃん、と。