あやかし姫~紅い月夜に(1)~.
闇の中、むくりと女の子が起きあがった。
「・・・葉子さん、厠・・・」
隣で寝ている女を起こそうと、女の子は手を伸ばす。その手が止まる。
女はそれはそれは穏やかな顔で、すーすー寝息をたてていて。
「葉子さん、気持ちよさそうに寝てる・・・」
どうしようか?
起こそうか起こすまいか。しばしの逡巡、すぐに決めて。
「や~めよっと」
一人で立ち上がる。
「少し怖いけど・・・一人で、大丈夫・・・だよね?」
返事をするものは誰もいない。
彩花が静かに出ていく。
葉子は眠り、気付かずに。
「暗い・・・」
部屋を出て、すぐに立ち止まって。
闇夜にその目を慣らそうと。
灯りは月光。それだけで。
「うん」
おっかなおっかな足を進める。
暗くて静か。
一人で夜、それも深夜の寺を歩くのは初めてのこと。
いつもと違うお寺。
「う!」
ひゅっという風が、顔を撫でる。
びくりと女の子が震える。
目指す場所はまだまだ先。
そろりそろり、そろりそろりと。
音をたてないように、ゆっくりと。
何かが足の先に、「こつり」と当たる。
「ひ!」
彩花。
「わ!」
廊下で寝ていた妖。
「ごめんね」
「わ、わ・・・・・・す~」
妖は一瞬起き、すぐに寝て。
「布団、ないの?」
彩花、腰を落として妖を見る、妖をなでる。
妖が気持ちよさそうに笑った、
ように見えた。
庭に出る。外は肌寒い。
「ちょっと、寒いかな」
手をこすりあわせ、あったかい息を吹きかける。
紅い三日月が、そんな彩花を見つめていた。
「赤い・・・綺麗だけど、ちょっと怖い」
さあ、もうすぐだと厠の方に顔を向ける。
そのとき、真っ白な何かが視界いっぱいに飛び込んできた。
「?」
「ふむ」
血が、騒ぐ。何かを、壊したくなる。
紅い月は、己のうちの獣を惑わす。
皆はもう寝ているだろうか?
「難儀なもんだな、妖狼族ってのも」
そうか、一応妖狼族なのか。一族を離れたとしても、追放されたとしても。
一吼えしたくなった。
口を開きかけて、やめた。
「まじいだろうな。黒之助がうるせえもんな」
眠れない。昔から、そうであった。
月が紅い夜は、眠れなくて。
「!」
何かが庭に出てきた気配がある。
太郎の瞳が細くなった。
ひゅうっと息を吐く。
「かはあ!」
妖狼が、大きな躯を躍らせ、地面に降り立った。
「太郎さん?」
妖狼は、返事しない。
「どうしたの?」
何かに堪えている。
そういう風に見えた。
細い瞳。金銀妖瞳。
いつもの見慣れた姿ではなく、大きな狼の格好。
苦しそうだった。
太郎は、苦しそうだった。
「大丈夫?」
妖狼の顔に、彩花が小さな手を近づける。
妖狼が、その大きな前足を振り上げた。
「・・・葉子さん、厠・・・」
隣で寝ている女を起こそうと、女の子は手を伸ばす。その手が止まる。
女はそれはそれは穏やかな顔で、すーすー寝息をたてていて。
「葉子さん、気持ちよさそうに寝てる・・・」
どうしようか?
起こそうか起こすまいか。しばしの逡巡、すぐに決めて。
「や~めよっと」
一人で立ち上がる。
「少し怖いけど・・・一人で、大丈夫・・・だよね?」
返事をするものは誰もいない。
彩花が静かに出ていく。
葉子は眠り、気付かずに。
「暗い・・・」
部屋を出て、すぐに立ち止まって。
闇夜にその目を慣らそうと。
灯りは月光。それだけで。
「うん」
おっかなおっかな足を進める。
暗くて静か。
一人で夜、それも深夜の寺を歩くのは初めてのこと。
いつもと違うお寺。
「う!」
ひゅっという風が、顔を撫でる。
びくりと女の子が震える。
目指す場所はまだまだ先。
そろりそろり、そろりそろりと。
音をたてないように、ゆっくりと。
何かが足の先に、「こつり」と当たる。
「ひ!」
彩花。
「わ!」
廊下で寝ていた妖。
「ごめんね」
「わ、わ・・・・・・す~」
妖は一瞬起き、すぐに寝て。
「布団、ないの?」
彩花、腰を落として妖を見る、妖をなでる。
妖が気持ちよさそうに笑った、
ように見えた。
庭に出る。外は肌寒い。
「ちょっと、寒いかな」
手をこすりあわせ、あったかい息を吹きかける。
紅い三日月が、そんな彩花を見つめていた。
「赤い・・・綺麗だけど、ちょっと怖い」
さあ、もうすぐだと厠の方に顔を向ける。
そのとき、真っ白な何かが視界いっぱいに飛び込んできた。
「?」
「ふむ」
血が、騒ぐ。何かを、壊したくなる。
紅い月は、己のうちの獣を惑わす。
皆はもう寝ているだろうか?
「難儀なもんだな、妖狼族ってのも」
そうか、一応妖狼族なのか。一族を離れたとしても、追放されたとしても。
一吼えしたくなった。
口を開きかけて、やめた。
「まじいだろうな。黒之助がうるせえもんな」
眠れない。昔から、そうであった。
月が紅い夜は、眠れなくて。
「!」
何かが庭に出てきた気配がある。
太郎の瞳が細くなった。
ひゅうっと息を吐く。
「かはあ!」
妖狼が、大きな躯を躍らせ、地面に降り立った。
「太郎さん?」
妖狼は、返事しない。
「どうしたの?」
何かに堪えている。
そういう風に見えた。
細い瞳。金銀妖瞳。
いつもの見慣れた姿ではなく、大きな狼の格好。
苦しそうだった。
太郎は、苦しそうだった。
「大丈夫?」
妖狼の顔に、彩花が小さな手を近づける。
妖狼が、その大きな前足を振り上げた。