あやかし姫~紅い月夜に(2)~.
太郎が、彩花の頭に振り上げた前足をゆっくりのせた。
「太郎さん、くすぐったいよ」
彩花が太郎の肉球をぷにぷに触る。
「彩花ちゃん、どうした?」
「ちょっと厠に」
「一人か?」
「うん」
太郎が眉をしかめた。
「葉子は?」
「起こさなかったの。悪いかなって。気持ちよさそうに寝てたから」
「!・・・・・・葉子の奴、彩花ちゃんが出ていったのに気づかなかったのか?起きなかったのか?」
「うん」
驚いていた。あの葉子にそんなことがあるのかと。
「太郎さんは?何してたの?寝てなかったの?」
「ちょいと、屋根でお月見をね」
太郎が、三日月を見た。
「お月見?」
「ああ、お月見さね・・・・・・彩花ちゃん、乗ってくか」
「いいの?」
「いいよ、特別だかんな」
「うん、おんぶしてもらう!」
彩花は太郎の背によじ登った。
景色が変わる、月がほんのちょっと近づく。
「落ちないようにな、落ちると痛いぞ~」
「うん!」
小さな女の子は太郎の背にぎゅっとしがみついた。
「そんなにしがみつかなくても大丈夫だよ」
妖狼の、くくっという忍び笑い。
「む~」
女の子は頬を膨らまし、太郎の白い背中を叩いた。
いたいいたいと太郎が笑った。
「おやすみ!」
「おやすみな」
彩花が建物の中に消えていく。
それを見計らったかのように、ばさばさと何かが飛んでくる。
「面白いな」
一羽の烏が妖狼のそばに。
「面白い、ね・・・・・・黒之助。お前、ずっと見てたな」
「ああ」
妖狼が、その目を細める。その細い目で真っ黒な烏を見る。
「彩花ちゃんになにかあったら大変だからな」
「・・・・・・」
「お前、一時我を忘れていただろ」
「・・・ああ」
太郎が顔をそむけた。己を恥じるかのように。
「まあ、いいか。何も起きなかったし」
「・・・」
「お前と・・・・・・今のお前とやりあうのは、しんどい」
「ふん」
真っ赤な月。
二匹、天を眺める。
眺めたまま、彫像のように動かなかった。
星がゆっくり動いていく。
風が、葉のない木々を揺らす。
枝と枝のこすれる音だけが二人を包む。
ぴくっと妖狼の耳が動く。烏が首を捻る。
「あ、クロさんもいたんだ」
彩花であった。ちょこんと二匹の間に座る。
「どうした?」
「どうしました?」
二匹いっぺんに。彩花がえへへっと笑う。
「眠れないの・・・お布団に入って、目を閉じてるのに、全然眠くならないの」
狼と烏が顔を見合わせた。
「夜中に起きるとなあ・・・」
「昼寝もしてたし・・・」
「うん!お昼寝、いっぱいした!」
あちゃ~っと、妖達が前足と羽で頭を叩く。
「どうしよう?」
彩花が聞く。
「どうしたい?」
黒之助が答える。
「・・・・・・お話・・・してほしい」
「「?」」
「お話してほしいの。葉子さん、私が眠れないときにいつもしてくれるの!」
「拙者達が?」
「俺達が?」
「聞きたい!お話してほしい!」
妖狼が、また瞳を細めた。
黒之助がはっと身構える。妖狼の金銀妖瞳を見て、ふっと笑った。
「どうする?」
黒之助が、むくむくと人の姿になりながら。
「そうだな~」
太郎は、その姿を変えない。狼のまま。
「お話、してくれるの?」
「ああ、ちょっと待ってな。黒之助となんの話するかきめっから」
「うん!」
星のように、月のように、きらきらとその目を輝かせた。
「う~ん・・・・・・彩花ちゃん、朝です・・・よ・・・」
女が手をのばすが、そこにあるはずの感触はなく。
あれ~?っと探す。いない、女の子の姿はない。
「え・・・・・・彩花ちゃん?」
葉子は慌てふためいていた。
一体どこにいったのかと。
私の目をくぐり抜けて・・・
頭領が、腕を組んで廊下に立っていた。
「頭領!」
葉子が呼びかける。し~、静かにと頭領が。
くいくいっと白い塊を指さす。
日の光をいっぱいに浴びて、きらきら光を反射して。
「彩花ちゃんが・・・」
白いものは太郎であった。狼の姿で、庭に丸まっていて。
黒之助は烏の姿で太郎の頭の上に。
二人とも、目をつぶっていた。そして・・・
「彩花も、いるさね」
彩花は、太郎の背にもたれていた。
白い尻尾を布団がわりに、気持ちよさそうに眠っていた。
「太郎?」
「・・・・・・頭領に葉子か」
「あんた、寝てたの?」
「・・・そうだよ」
面倒くさそうに妖狼が答える。
黒之助も、目をあけた。
ゆっくりと、太郎が身体を揺する。
「彩花ちゃん、もう朝だよ」
「あ・・・・・・はい・・・」
「もう!心配したんだから!」
「葉子さん・・・ごめんなさい!」
煙がたち、太郎と黒之助が人の姿に。
二人してあくび。
頭領は太郎と彩花の顔を見比べた。
「不思議なこともあるもんだな、太郎が寝ているなんて」
三人が、静かになった。
彩花が不思議そうな顔をして四人の顔をみた。
「頭領、彩花ちゃん、飯できた~」
「ごはんできた~」
「朝ご飯~」
妖達の陽気な声。頭領が他の妖達に頼んでおいて。
「はーい、今行くからね~。彩花ちゃん、いこっか」
「うん、あ」
「どうした、彩花?」
彩花が二人の前に立って。
「太郎さん、クロさん、お話、ありがとう!」
精一杯の、彩花のお辞儀と。
太郎と黒之助がにっこりとして、
「いえいえ、」
「どういたしまして」
それから五人、寺の中に入っていって。
いただきま~すという声が・・・
「太郎さん、くすぐったいよ」
彩花が太郎の肉球をぷにぷに触る。
「彩花ちゃん、どうした?」
「ちょっと厠に」
「一人か?」
「うん」
太郎が眉をしかめた。
「葉子は?」
「起こさなかったの。悪いかなって。気持ちよさそうに寝てたから」
「!・・・・・・葉子の奴、彩花ちゃんが出ていったのに気づかなかったのか?起きなかったのか?」
「うん」
驚いていた。あの葉子にそんなことがあるのかと。
「太郎さんは?何してたの?寝てなかったの?」
「ちょいと、屋根でお月見をね」
太郎が、三日月を見た。
「お月見?」
「ああ、お月見さね・・・・・・彩花ちゃん、乗ってくか」
「いいの?」
「いいよ、特別だかんな」
「うん、おんぶしてもらう!」
彩花は太郎の背によじ登った。
景色が変わる、月がほんのちょっと近づく。
「落ちないようにな、落ちると痛いぞ~」
「うん!」
小さな女の子は太郎の背にぎゅっとしがみついた。
「そんなにしがみつかなくても大丈夫だよ」
妖狼の、くくっという忍び笑い。
「む~」
女の子は頬を膨らまし、太郎の白い背中を叩いた。
いたいいたいと太郎が笑った。
「おやすみ!」
「おやすみな」
彩花が建物の中に消えていく。
それを見計らったかのように、ばさばさと何かが飛んでくる。
「面白いな」
一羽の烏が妖狼のそばに。
「面白い、ね・・・・・・黒之助。お前、ずっと見てたな」
「ああ」
妖狼が、その目を細める。その細い目で真っ黒な烏を見る。
「彩花ちゃんになにかあったら大変だからな」
「・・・・・・」
「お前、一時我を忘れていただろ」
「・・・ああ」
太郎が顔をそむけた。己を恥じるかのように。
「まあ、いいか。何も起きなかったし」
「・・・」
「お前と・・・・・・今のお前とやりあうのは、しんどい」
「ふん」
真っ赤な月。
二匹、天を眺める。
眺めたまま、彫像のように動かなかった。
星がゆっくり動いていく。
風が、葉のない木々を揺らす。
枝と枝のこすれる音だけが二人を包む。
ぴくっと妖狼の耳が動く。烏が首を捻る。
「あ、クロさんもいたんだ」
彩花であった。ちょこんと二匹の間に座る。
「どうした?」
「どうしました?」
二匹いっぺんに。彩花がえへへっと笑う。
「眠れないの・・・お布団に入って、目を閉じてるのに、全然眠くならないの」
狼と烏が顔を見合わせた。
「夜中に起きるとなあ・・・」
「昼寝もしてたし・・・」
「うん!お昼寝、いっぱいした!」
あちゃ~っと、妖達が前足と羽で頭を叩く。
「どうしよう?」
彩花が聞く。
「どうしたい?」
黒之助が答える。
「・・・・・・お話・・・してほしい」
「「?」」
「お話してほしいの。葉子さん、私が眠れないときにいつもしてくれるの!」
「拙者達が?」
「俺達が?」
「聞きたい!お話してほしい!」
妖狼が、また瞳を細めた。
黒之助がはっと身構える。妖狼の金銀妖瞳を見て、ふっと笑った。
「どうする?」
黒之助が、むくむくと人の姿になりながら。
「そうだな~」
太郎は、その姿を変えない。狼のまま。
「お話、してくれるの?」
「ああ、ちょっと待ってな。黒之助となんの話するかきめっから」
「うん!」
星のように、月のように、きらきらとその目を輝かせた。
「う~ん・・・・・・彩花ちゃん、朝です・・・よ・・・」
女が手をのばすが、そこにあるはずの感触はなく。
あれ~?っと探す。いない、女の子の姿はない。
「え・・・・・・彩花ちゃん?」
葉子は慌てふためいていた。
一体どこにいったのかと。
私の目をくぐり抜けて・・・
頭領が、腕を組んで廊下に立っていた。
「頭領!」
葉子が呼びかける。し~、静かにと頭領が。
くいくいっと白い塊を指さす。
日の光をいっぱいに浴びて、きらきら光を反射して。
「彩花ちゃんが・・・」
白いものは太郎であった。狼の姿で、庭に丸まっていて。
黒之助は烏の姿で太郎の頭の上に。
二人とも、目をつぶっていた。そして・・・
「彩花も、いるさね」
彩花は、太郎の背にもたれていた。
白い尻尾を布団がわりに、気持ちよさそうに眠っていた。
「太郎?」
「・・・・・・頭領に葉子か」
「あんた、寝てたの?」
「・・・そうだよ」
面倒くさそうに妖狼が答える。
黒之助も、目をあけた。
ゆっくりと、太郎が身体を揺する。
「彩花ちゃん、もう朝だよ」
「あ・・・・・・はい・・・」
「もう!心配したんだから!」
「葉子さん・・・ごめんなさい!」
煙がたち、太郎と黒之助が人の姿に。
二人してあくび。
頭領は太郎と彩花の顔を見比べた。
「不思議なこともあるもんだな、太郎が寝ているなんて」
三人が、静かになった。
彩花が不思議そうな顔をして四人の顔をみた。
「頭領、彩花ちゃん、飯できた~」
「ごはんできた~」
「朝ご飯~」
妖達の陽気な声。頭領が他の妖達に頼んでおいて。
「はーい、今行くからね~。彩花ちゃん、いこっか」
「うん、あ」
「どうした、彩花?」
彩花が二人の前に立って。
「太郎さん、クロさん、お話、ありがとう!」
精一杯の、彩花のお辞儀と。
太郎と黒之助がにっこりとして、
「いえいえ、」
「どういたしまして」
それから五人、寺の中に入っていって。
いただきま~すという声が・・・