小説置き場2

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小説-あやかし姫-第七話~2~

「あ、あの・・・・・・」
「なんだい、沙羅ちゃん」
「なんでここから近づいちゃ駄目なんですか?」
 小さな小さな声でいつもの三人、葉子・太郎・黒之助に話しかける。
 今、三人が最も部屋に近く、その後ろに沙羅も含めてたくさんの妖がいる。茨木が来たと知らせがくると、その線からでちゃ駄目と沙羅は葉子に言われたのだ。それは他の者も一緒だった。
「あの人はね・・・・・・妖気が強すぎるのさ」
「はあ」
「よく目を凝らしてみな」
「?」
 見ると、茨木という男からは妖気が溢れている。薄青の布のようなものがふわふわと漂っていた。あまり、気持ちがいいものではなかった。
「もし沙羅殿がそこから一歩踏み出せば・・・・・・」
「踏み出せば?」
「顔青ざめてひっくり返るね」
「ええ!?そ、そんなことが?」
「あたいらもここで限界だ。いやな汗がでちゃってるよ」
 笑いながら振り向いた葉子の顔には汗が流れていた。
「・・・・・・なんで皆でここにいるんですか?」
「いつもなら、もっと遠くにひっこんでるんだがな」
「茨木様の要望でね」
「寺にいる妖全員自分の見えるところにいてほしいとさ」
「ふ~ん」
「理由はあの女の子だろうか」
「さあね、まだわからんね」
 茨木の右側にいた女の子は、左手で茨木の着物を握っていた。まだ、それほど箸を動かしていない。
 姫様が美味しくないの?と聞くと、首を横に振っている。
「・・・・・・」
「どうした?」
「頭領は偉い人みたいだからいいとして、彩花ちゃんとあの女の子はよく平気ですね」
「姫様は特別。なんたってうちらの姫様だもん」
「あの女の子は・・・わからん」
「うん、わからん」
「しかし、ほんと茨木様は妖気強すぎだよな~」
「うんうん」
「我々も何度・・・」
「もう少し、聞こえないようにしゃべれ」
 茨木の口調が怒気を含んでいる。薄青幕の妖気が強い視線とともに三人のところにまで届く。必死で三人が耐えているのが手に取るようにわかる。どうやら、茨木の気に障ったようだ。
 いやな汗がどんどん流れていき、血の気が引いていくような気がした。